30話 苦手なものに立ちむかうのも大事だと分かったのでやる気出してみた
トニーさんとの約束の日。
俺たち三人は、王都郊外のとある廃墟の前にやってきた。
時刻は、すっかり日が落ちた夜。遠くに魔導灯が点々と輝いているのが見える。
「ったく……なんで俺まで」
「しょうがないじゃん。ライリーが来ないと行かないってポルテが言うからさぁ」
「こいつの力を過信すんなよ。調子乗ってドジやらかすからな」
「そう?」
ライリーさんの失礼な発言は、ばっちり耳に入っていたけれどまったく気にならなかった。
それよりも、この雰囲気抜群な廃墟が気になってしかたない。
あれを見ていると、思い出す。
冒険者だった頃、アンデッド系の魔物ばかりが出るダンジョンから退去するときに、無理矢理しんがりを任されてひどい目にあったのだ。
あのときもそうだけど、触らぬ神に祟りなし――自分たちから手を出さなければ、関わらなければ平和にすごしていられるのに。
帰ってもいいかな、俺だけ。
「で? どこでなにするって?」
「設置したものに魔物が集まってきてるか、チェックするよ」
「もっと明るい時間じゃだめだったのかよ……?」
「だめに決まってるでしょ? アンデッド系の魔物は基本夜行性なんだから。夜にいかないと検証にならないよ。ま、手間はそんなにかからないから安心して。全部あの中だから」
トニーさんは、巨大な廃墟の中心にある建物――古い屋敷を指さした。
人が住んでいた頃は、立派なお屋敷だったのだろう。だが、今となってはめちゃくちゃに荒れ果てている。
窓枠が外れていたり、両開きの扉が片方ずれて今にもとれそうになっていたり。広い庭も雑草だらけで虫がたかっている。
繁栄していた頃の面影はこれっぽっちも感じられず、まさしくリアルなお化け屋敷だ。ゴーストたちにとっては心地よい棲家に違いない。
……罠を仕掛けた人が責任もって確認しろよ! なんで俺たちが行かなきゃならないんだ!
「お古の鎧なんかも置くように指示しといたんだ。あれにとり憑いてたら、完璧『リビングメイルの怪』の再現になるよね」
「あんた正気か?」
口元に手を当てて楽しそうに笑うトニーさんをにらみつける。
もし現実になったら、相手をするのは俺らだぞ。それわかってんのか!?
「運よく何体か引っかかってくれたら、他もたくさん釣れるはずだよ。戦闘は任せたよ」
「お前はなにするんだよ?」
「記録係に決まってるじゃん。この『魔導撮影機』でばっちりおさめてやらないと」
トニーさんは、胸の前にカメラに似たものを出して見せてきた。
似たものじゃなく、本当にそれに近いものだ。
「このボタンを押せば、その瞬間の風景とか物とか人を切りとって、絵みたいに残せるんだよ。どう? すごいでしょ」
「はぁ……よくそんなもん思いついたな」
「魔導列車の点検のとき、こんなのがあれば手間がかからなくて便利だなって思ったんだ。修理が必要な箇所があったら、前後の状態をいちいちスケッチして記録に残してたからさ。どう、ポルテ。持ってみる?」
「もちろん!」
トニーさんからそれを受けとり、目を見張って細部まで観察してみた。
これこそ、彼女が先の魔導祭の品評会で最優秀賞に選ばれた発明品なのだ。博物館の長蛇の列に並ばなければ見られないはずのものが、今俺の手の中に。
いわゆるデジカメよりはかなり大きめ。重量も比ではなく、持ちあるくには正直不便そうだ。
だが、この世界に「カメラ」なんてものがあること自体、非常に画期的。これは文句なしに優勝だろう。
「撮った写――じゃない、絵はすぐに取りだせるのか? それとも、あとでいろいろ手順踏んで処理しないと出せないとか?」
「そこに小さな隙間があるでしょ? ボタンを押したら、そこからすぐに絵がミョーンって出てくる仕組みだよ」
ポラロイドタイプだったか。余計にすごいな。
試しにライリーさんを撮って驚かせてみようとしたが、「絵の原料が限られてるから無駄打ちはやめてね」と、トニーさんに言われてしまったのでしぶしぶ返却。
「おい。おもちゃで遊んでる場合かよ。さっさと片づけようぜ」
「ちょっと!? れっきとした発明品! 魔道具なんだけど!?……まぁ、ちょっと待ってよ」
トニーさんは、ライリーさんのデリカシーゼロな発言に抗議しつつ、気をとりなおして廃墟にカメラもとい魔導撮影機をむけ、シャッターを切った。記録として残す用のものらしい。
彼女が言っていたとおり、下部の隙間から白黒の写真が出てきた。それを見たトニーさんと俺は、一瞬固まって、そして――
「ぎゃーっ!?」
そろって悲鳴をあげた。
屋敷の周囲に、スクリーム――縦に伸ばした顔のようなものが、あちこちに写っていたのだ!
さっそく撮れちゃったぞ、心霊写真! 冗談きついって!
「白炎・滅閃!」
ライリーさんが魔法の名を唱えて腕を横に振ると、視覚化した斬撃のような横長の白い炎が、屋敷にむかって飛んでいった。
途端に、辺り一帯に金切り声が響きわたる。
俺とトニーさんは、たまらず耳をふさいだ。
「……だいぶ集まってきてるみたいだな。油断するなよ」
してらんねぇよ!
そう思いつつ、勢いよく縦に首を振る。
絶対ライリーさんから離れないようにしよう、とついでに心に決めた。
とてつもなく嫌だけど、中に入らないと始まらないので、ライリーさんを先頭に――なってもらうことに成功して――廃墟に足を踏みいれた。
当然真っ暗なので、入ってすぐにライリーさんが指をはじいて火種を作り、もってきたランプに着火。
あたりが照らされたので、これで安心して先に進める。多少は。
一歩進むたびに、腐りかけた木の床がきしむ音を立てるのが心臓に悪い。
いちいちびくついていたせいで、ライリーさんに半笑いで「驚きすぎだろ」と言われてしまった。
「あ、あったあった。あれだよ」
トニーさんが、無造作に置いてある古い家電らしきものを指さした。
そして、それに撮影機をむけて何度かシャッターを切る。
「……ど、どうだ?」
「うーん……反応なし。空振りだね」
トニーさんが眉を寄せて、撮った写真を見比べていた。
たしかに、どの写真にも先程のようなゴーストらしきものは写っていなかった。
よかったような、拍子抜けしたような。
「そう易々と出てこねぇだろ。ゴーストはともかく、リッチみたいな知能が高い魔物は特に」
ライリーさんが、足元にあった邪魔な家具を蹴飛ばした。
元からこの屋敷にあったものじゃないとはいえ、なんて罰当たりな。しずかに暮らしていたゴーストたちが目を覚まして襲いかかってきたらそうするんだよ。
「仮に……仮に、だぞ? 出てきたからってどうだって言うんだよ? 調べたいのは魔道具暴発事故の原因だろ?」
「そうだけど、そもそも魔物が国内に潜んでるってこと自体が大問題なんだよ。その証拠をつかみつつ、魔道具を暴発させることが魔物に可能かどうかを調べる。それがあたしらの仕事。そのためにいろいろ仕かけておいたんだよ」
「こんなのにおびき寄せられるとは思えねぇけどな」
「どの程度の魔物がいるってとこだけでも分かれば御の字だよ。あとはまた上のほうで検討してもらえばいいし」
トニーさんが、喋りながら撮った写真を俺に渡してきた。
なにも写っていないとはいえ、なんとなく気持ち悪いから持っていたくないんですけど。
「まぁ、たしかにな。アンデッドが国内に潜んでるとは……世の末だな」
「本当にそうだよねぇ。ポルテ、気をつけなよ?」
「言われるまでもない」
「じゃなくてさ。獣人連中が引きこんでる、なんて噂を流してる奴もいるみたいだからさ。君、魔導祭の件でだいぶ目立ってたし……変な奴にいちゃもんつけられてものらないようにしなよ?」
「……獣人が魔物を引きこんでる!?」
親切心からか、眉を垂らして心配そうに言ったトニーさんに半ば詰めよる。
なんでだよ。なにかあったら獣人のせいってか?
……そうか。そんなに羨ましいか、獣人が。獣と人間の二種類の体を駆使できるその便利さが。そりゃそうだよな!
俺の勢いにたじたじになってのけぞったトニーさんから離れ、ライリーさんを追いこして先頭になり、先へと進む。
「急に元気になったな」
「なるよ! ってか、ライリーさん! 俺の魔法ってアンデッドに効くと思うか!?」
「どうだかな。ドクターの闇魔法防げたし……効く可能性はある」
「え? ドクターって……ターナー卿?」
「ああ。こいつの魔法、たぶん無属性なんじゃねぇかって話。今、ドクターが調べてる」
「へぇ……無属性か」
トニーさんが感心したように呟く。
ザックさんが俺の魔法を調べているなんて初耳だし、無属性だったらどうなんだって点も気にはなるけど、今はどうでもいい。
羨ましがられるのはむしろ嬉しいからいいんだけど、「獣人=悪者」と思われるのは看過できないぞ。
なんとかして獣人の仕業じゃないっていう証拠を見つけないと!
「おい。そんなカッカすんじゃねぇよ。言いたい奴には言わせとけって」
「カッカなんてしてない! やる気満々になっただけ!」
「それはいいことだね。でもさ……あーっと、言いだしっぺのあたしが言うのもアレだけど。そういう噂を流すような奴らに、証拠なんて見せても信じないと思うよ? 嫌いなものをうさばらしの道具にしたいだけなんだから」
「道具!? 俺ら生き物なんだけど!?」
「……そうじゃなくて。ようするに、どうあっても分かりあえない相手はいるってこと。あたしらにとってはまちがってるって思うことでも、当人たちは絶対悪くない、おかしくないって思ってるんだから」
立ちどまって、トニーさんの言葉を頭の中でよく考える。
どちらも正しいから争いが起こる。それはたしかによく言われることだ。
なんでもかんでも獣人のせいにする件も、悪気なく当然のごとく肯定する人がいるかもしれない。
ふと、なぜかそのとき、フレッドさんやカタリーナの顔が思いうかんだ。
――あの人たちなら、どう思うだろうか。やっぱり、「そういうもんだ」と笑って受けいれるのか?……そんな気がするなぁ。
天井を見上げて、大きく息を吐く。
今はとにかく冷静になって、依頼された仕事に集中するべきだな。
よし。切り替え完了!
「わかった! じゃあ、次だ次!」
「……怖がったり腹たてたり元気になったり、忙しい奴だな」
「悪いか!」
「いいんじゃない? 君のそういうとこ、ちょっと羨ましいよ」
呆れたように目を細めるライリーさんの隣にいるトニーさんが、苦笑しながら俺に撮影機をむけてシャッターを切った。
「……あ、ごめん。ゴースト写っちゃった」
「おいぃ!?」
俺の顔の横にあるはずのない誰かの顔が浮かんでいる写真が撮れてしまい、即座にライリーさんにゴーストごと燃やしてもらった。
「……さっきから、あっちの部屋から変な音してんな」
「やめろって! そういう冗談、許さないからな!?」
「残念ながら冗談じゃねぇよ。行くぞ」
ちょうど進行方向にある部屋をさすライリーさんの後ろに戻って、彼に先頭を譲った。
あああ! 何事も起こりませんように! 無事に帰れますようにっ!
読んでいただきありがとうございます。
30話に到達し、ますます盛り上がって(?)まいりました!
今回の話はホラー属性ですが、私は主人公と違って大好きです笑
これから先もがんばります。相変わらず毎日20時更新を続けていくので、よろしければ応援お願いいたします。




