28話 お客様を驚かせたかったので本気出して作ってみた
数日後。
「……おし。火加減、よしっ」
俺は、若干興奮気味で台所に立っていた。
それも仕方ない。なんたって今日は、手に入れたばかりの魔導調理器、いわゆるオーブンに似た魔道具をフルに使ってお客様をおもてなしする日なんだからな!
家庭用でも、庶民にはなかなか手が届かない高価なこれをなぜ導入できたのか。
それはもちろん、魔導祭での優勝賞金のおかげ――なんだけど、ちょっと複雑な事情が絡んでいるので今はとりあえず割愛する。
「お、来たか」
玄関のほうで音がしたので、手を拭いてから出迎える。
「ようこそ、お二人とも!」
「やあ。お招きありがとう」
「どうもねー。お、なんかいい匂いするねぇ」
お招きしたお客様――ルーファス先生とトニーさんが一緒にやってきて、中へと招きいれた。
ルーファス先生のコートとマフラー、それに帽子を預かって整えつつハンガーにかける。
「ポルテが来てからこの家、本当にきれいになったよねぇ」
トニーさんが、感心したように目を丸くして、なにも落ちていない床を見回して言った。
「だろ? 今日は特に気合い入れて片づけたんだよ」
「苦労をかけるね……あの散らかし癖だけはどうしても治せなくて」
「かまいませんよ。その分やりがいがありますから!」
首を横に振って嘆くルーファス先生に、腰に手をあてて少し胸を張った状態で言った。
なぜかトニーさんも一緒に訝しがっていたけれど。
そんな二人を、ライリーさんが待つ応接室に通して、俺は台所に戻った。
今日のメニューは、ハンバーグにキャベツのスープ、三日月パン。デザートにはリンゴのタルト。いずれも手作りだ。
一応言っておくが、この世界、この時代にハンバーグなんて料理は存在しない。なぜなら、そもそも肉をミンチ状にする機械がないからだ。
でも、せっかく魔導調理器を手に入れたんだから、ライリーさんたちが絶対に食べたことがないものを作って驚かせたかった。
だからがんばりましたとも!
買ってきた肉を、できるだけ細かく切る。それをひたすら叩いて叩いて、粘り気が出るまで叩きまくった、んだけど……腕が死ぬかと思ったよ! なんでハンバーグにしたのかと何度も後悔した。
そんな感じで、ミンチ肉作りの工程でほとんど力尽きたので、つけあわせのスープはキャベツをじっくり煮込んだ簡単なものにせざるをえなかった。
いつかは、オニオングラタンスープみたいなこったものも作ってみせるからな……!
数時間前の苦労を思い出しつつ、調理器の小窓から中で焼かれているハンバーグを確認。じゅわじゅわと音を立てながら、しっかり焼き目がついてきたのを見て、扉を開けた。
……完璧じゃね? え、俺、天才? いやいや、魔導調理器のおかげだな。
取りだして、皿に盛る。肉汁にワインやハーブ、少々のハチミツを加えて煮詰めたソースをかけて、完成。
食堂のテーブルクロスを整え、そこにカトラリーなどを設置。気心の知れた人たちだけど、そこはちゃんと丁寧に。
「支度できましたっ!」
三人に一声かけて、食堂へ移動するよう促す。三人がそれぞれ席についたところで、出来上がったハンバーグとスープを運んでいった。
「いい匂い……だけど、この茶色い塊はなに?」
「ハンバーグだよ。味は保証する」
「はんばーぐ?」
トニーさんが俺の言葉を繰り返して、他二人は不思議そうにその「茶色い塊」を見つめていた。
ああ、いい反応。これが見たかったんだよな!
満足しながら、三日月パンを配っていく。すると、トニーさんの前の皿に置いたとき、彼女が険しい顔をした。
「ごめん。あたしそれ苦手なんだよね」
「そうだったのか。じゃあ、フラットブレッドは?」
「それなら大丈夫。悪いね、わがまま言って」
「いいって。あ、ルーファス先生は?」
「三日月パンをいただいてもいいかな?」
ルーファス先生にも確認しつつ、トニーさんの三日月パンをフラットブレッド――ナンのような平べったいパンと交換。念のために用意しておいて正解だったな。
「お前の分は?」
「これからタルト焼くから、それできてからにするけど」
「……早くしろよ」
「え?」
「早く作れ。で、お前もさっさと席につけ」
ライリーさんが、若干不機嫌そうにテーブルを人差し指でつついた。
……そういえばこの人、いつも一緒に食べたがるんだよな。俺はそもそも召使いで、ご主人様の傍らに控えて給仕をするのが仕事の一つなんだけどな。
そのご主人様が言うので仕方なく、急いで台所にいってタルトの準備をする。
生地や中身のコンポートはすでにできているので、あとは焼くだけだ。火加減を強めにして、早く焼けるようにセット。焦げないように注視して……はい完成!
「お待たせっ」
「遅い」
あんたが一緒に食べたがったせいだよ!
文句を飲みこんで、俺の分も用意し、席につく。
こうしてようやく、楽しい食事の時間が始まった。
「……!」
ハンバーグを口にしたとき、三人はそれぞれ驚きの表情を浮かべていた。
俺はニヤニヤが止まらない。
「なにこれ……! おいしい!」
「本当だね。ジューシーで……しかもとても柔らかい」
「…………」
トニーさんとルーファス先生は一応食レポしてくれたけど、ライリーさんは無言だった。
わかっている。これが彼の「美味い」っていう意思表示なのだ。
「ワインにすごく合うよ! これ、本当になに? 君の故郷の郷土料理とか?」
「んー……まぁ、そんなようなもんかな」
故郷は故郷でも、「前世の」故郷だけどな。と、心の中でつけくわえておく。
すると、目の前に空になった皿が突きだされた。そのむこうで、ライリーさんが鋭い目で俺を見ている。
「ああ、はい。おかわりな。悪いけどあと一つしかないからな」
「なんでだよ。もっと作れよ大量に」
「できるわけねーだろ! ミンチ肉作るのめちゃくちゃ大変なんだからな!」
両肘を曲げて、手をがくがく震わせて訴える。
うぐ、まだ後遺症が……!
「ミンチ肉って?」
「えっと……肉を細かく砕いて柔らかくしたものっていうか?」
「へー。じゃあこれは、それを丸く成形して焼いたって感じなんだ?」
「そうそう」
「作ろうか?」
「……え?」
「その、ミンチ肉にする機械。そしたら簡単に作れるでしょ?」
トニーさんの口から飛びだした、「作ろうか」の言葉。
俺はしばらく、目を点にして固まった。
……いや、そんな簡単に言わないでくれ。
「無理だろ」
「ちょっと。君、あたしをなんだと思ってる? これでも一応、魔導祭の品評会で何度も優勝してる程度の腕前はあるんですけど?」
「あ! そうだ! 今年の発明品はなんだったんだ!?」
「それはまた今度見せるよ。で、どうする? お代は――ハンバーグ、だっけ? これをまた食べさせてくれるっていうならそれでいいけど?」
「ぜひ!」
交渉成立。俺とトニーさんはがっしりと握手をした。
ミンチ肉を作る機械……ミンサーとでも言うのか? それがあれば、もっと作れる料理のレパートリーが増えるぞ。持つべきは発明家の友だな!
「そんなに大変な思いして、よく作ってくれたね。ありがたいよ」
「いえいえ。俺も作りたかったんで。せっかく魔導調理器が手に入ったし」
「え? 魔導調理器、買ったの?」
トニーさんが驚いて聞いてきたので、手招きして台所に移動。
「じゃーん!」
「……うわ、本当だ。しかも一番上のランクで最新式のやつじゃん」
「そうなんだ。さすが」
一人舞いあがっていると、トニーさんが怪訝そうな顔をした。
その場で説明はせず、一旦食堂に戻って席に戻る。
「もしかして、優勝賞金で? いくらもらったの?」
「金貨二……いや、実質三袋か」
「金貨が三袋!?」
ライリーさんが答え、トニーさんが驚きながら、ワイングラスをテーブルに叩きつけるように強めに置いた。
「実質、というのはどういう意味だい?」
「…………」
ルーファス先生に問われたライリーさんが、苦々しげに俺を見る。
じゃあ、ここからは俺が引き継ごう。
「はい。あの、すくなくとも半分は俺の功績ってことで、俺も一袋もらったんですよ。でも金貨なんてやたらと使えないじゃないですか。持ちあるくわけにもいかないし」
「金庫組合に預ければ?」
「そう思ったんだけど……口座、作れなくてさ」
俺は、そのときのことを思い出して肩を落とした。
トニーさんの言った「金庫組合」とは、この世界でいう銀行のことだ。持ちあるけない大金を預けられる唯一の施設である。
ただ、残念ながら誰でも利用できるわけじゃない。なぜなら、口座を作るには保証人が必要だからだ。
身分もなにもわからない奴が簡単に口座を作れてしまえば、犯罪の温床になってしまうからな。盗品や偽貨を預かった日には、組合も罪に問われてしまうのだろう。
「保証人ならここにちょうどいい奴がいるじゃん」
トニーさんが、ライリーさんの肩を叩いて言った。
「そうなんだけど……」
「こいつ、出生地聞かれたときにばか正直に『海です!』って言いやがったんだよ」
「……海?」
トニーさんとルーファス先生の訝しげな目線が刺さる。
うん。あれはやらかした。
普通に「シャルマン王国です」って答えればよかったんだよな。でも俺、ベースはどっちかっていうとタコだしなぁ。
「……で、却下されちゃってさ。もういっそのこと寄付したほうがいいかなって思って」
「どこに寄付したの?」
「孤児院。ローズさんの」
そう言うと、ルーファス先生が顔をほころばせる。
「それはいいことをしたね。しかし、本当によかったのかい?」
「はい。それなら絶対に無駄づかいになりませんし」
「そっか。あの魔導調理器はそのお礼にもらったんだ?」
「……や、違くて。感激したローズさんがさ、その件を報告したらしいんだよ」
「誰に?」
「女王陛下に」
「……っ!? はぁ!?」
突然出てきた「女王陛下」のワードに、トニーさんは声を出して驚き、ルーファス先生は黙って目を見開いていた。
「で、女王陛下の使者だっていう人が来て、『褒美をやるからなんでも言え』って言うんだよ。一応遠慮したんだけど……全然引いてくれなくてさ」
「それで、あれをねだったと」
「そのとおり!」
俺は開きなおって、腰に手を当てて満面の笑みでそう締めくくった。けど、一番上のランクの最新式だったとは知らなかったよ。
誇らしげな俺とは裏腹に、唖然として固まっていた二人は、まもなくライリーさんに視線をむけた。
ルーファス先生にいたっては、犯罪者に尋問する警察官のように目つきが鋭くなっている。
「……兄貴に大会の件の報告をしに行ってる間にやらかしやがったんだよ! どう止めろって言うんだよ!?」
「やらかしやがったって……やるって言ってきたのはあっちなんだけど!?」
「なにがなんでも断れよ! それが礼儀だろうが!」
「『女王陛下からのお言葉だ。拒否権はない』って言われて、どう断れってんだよ! いいじゃんか別に!……俺だって欲しかったし!」
すると、ライリーさんが乱暴に立ちあがり、拳を握ってプルプル震わせた――と思いきや、脱力してまた椅子に座りこみ、頭を抱えてしまった。
その彼の肩に、トニーさんとルーファス先生が慰めるように優しく手を置く。
……なんか、俺が悪いことしたみたいな空気なんですけど!? ひどくないか!?
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