20話 懐かしい奴らと遭遇したのでちょっと思い出に浸ってみた
トニーさんの出る魔道具品評会は、あとで優勝者の作品が大々的に展示されるらしいのでそれを楽しみにしよう。
優勝するかはまだ決まってないんじゃ、と言ったら、ライリーさん曰く、
「病欠した年以外で、他の奴が優勝したとこなんて見たことねーよ」
……だそうな。
トニーさん、すげーな。魔導列車の整備だけじゃなくて、色んな道具の開発もしてるなんて。
他にも、どうやらローズさんが「占いの館」なるものを出店しているらしい。そちらも気になるけど、毎年ものすごい長蛇の列になるそうなので諦めるしかない。
そういうわけで、改めて俺はトーナメントのほうに集中する。
コーデリアさんを先頭に、闘技場の中を進み――ここも大会関係者でごったがえしている――専用の控え室に到着。
応接間のようなつくりで、三人入ってもかなり余裕がある広さだった。いわゆるVIPルームだろう。他の参加者は一様に同じ部屋に詰めこまれているそうだが、そこはさすが勇者ライリーさんだ。
「組みあわせってどうなってるんですか?」
「こちらです」
コーデリアさんは、くすんだ色をしていて端が不規則に切られている紙を差し出してきた。
トーナメント表が書かれてあるようだが、まるで宝の地図みたいだ。さすが。遊び心満載だ。
「えっと、俺たちは……んん?」
わくわくしながらそれを見ていると、一番左端にライリーさんの名前を発見した。俺の名前はなしかよ。
まぁ、それは百歩譲って許すとしよう。けど、これは一体どういうわけだ。
ライリーさんの名前の上に長い線が引っ張ってあって、横に曲がっている回数はたったの二回。つまり。
「二回しか戦わないって、なにそれ!?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ?」
「勇者ライリー様ですけど……けどさぁ!」
当然のごとくシード枠ってか。にしても、他の参加者は最低でも五回は戦うようになってるのに、さすがにひどくないか。
「こんなの出来レースみたいなもんじゃね!?」
「だーからぁ、当たり前だっつってんだろ!」
「初戦は他国からお招きしたチームと戦うのですが、ほとんどそのチームの技や力をお披露目する場となっております。なので……実質、勝ち負けの判定は行われません」
「じゃあ、俺たちが勝ちあがるのはすでに決まってるってことですか!?」
「そうなります」
「それ、相手チームも承知の上で?」
「……その件については、私の口からは申し上げられません」
コーデリアさんが気まずそうに目をそらした。
承知してないんだな……っていうか、もしや話すらされない系か? なにが「トーナメント」だよ。これじゃあ出たい意欲なんてわくわけがない。
カッと顔が熱くなるような感覚がした。そして、ライリーさんのほうをむいて頭を下げる。
「っごめん! 俺、ほんっとになんも知らなかった!」
「……別にいいっての。その分決勝で暴れりゃいいだけだ」
ライリーさんは、そう言って俺の頭に手を置いた。
楽しいだけの祭りじゃなかったのか。裏でそんな工作が行われていたなんてショックだ……けど、しょうがないか。こうなったら、俺なりに楽しませてもらうからな!
「相手側は一応、勝ちあがり形式ではあるんだよ。どこの国の留学生とあたるかは、もうじき分かる」
「もうじき?」
「ああ。今ちょうどやり合ってるところだろうよ」
「……は? もう始まってるのか!?」
「とっくにな」
ライリーさんが鼻で笑う。なんで言ってくれなかったんだよ。留学生たちが戦うところ、見たかったんですけど!?
「……決定したようです。シャルマン王国のチームですね」
コーデリアさんが、トーナメント表を見て言った。のぞきこむと、「シャルマン王国」の文字だけが赤く光って、ライリーさん(と、俺のチーム)の名前の横に移動していた。はいはい、これもどうせ魔法なんですよね? もう知ってる。
「シャルマン……お前の故郷じゃなかったか?」
「え?」
ライリーさんの言葉で、コーデリアさんが目を丸くした。
「うん、まぁ。別にどうってことないけど」
不意に二人の視線を集めた俺は、肩をすくめて言った。
けどまさか、生まれ育った国の連中とやりあうとは。なんか不思議だな。どんな巡りあわせだろう。
「シャルマン王国の勇者パーティーは有名なチームですね。最近、他国にできた難関ダンジョンをクリアしたとかで」
「ふーん。今どき、本気で冒険者やってる奴らなんているんだな」
「今どきって……別に流行とか関係なくね?」
「まぁな。けど、少なくともうちの国だと冒険者一本じゃ食っていけねぇからな」
ライリーさんに言われ、頷いた。
たしかに、この国にきてから冒険者らしき人の姿を見かけていない。まだ行ったことのない場所ばかりなせいかもしれないが、冒険者ギルドもそうだ。
「うちの国だと冒険者一本じゃ食っていけねぇ」って……どういう意味だ?
もし冒険者そのものの存在意義が薄いなら、この国において「勇者」とは一体どんな役割を担っているんだろう。いや、そもそも「勇者」は世界に一人しかいないものじゃないのか? 国に一人の単位で存在するなら、そんなのはもうただの肩書きであって、称号とは違う気がするんだけども。
……まぁ、どの道ライリーさんには、「魔王を倒して世界を救う」みたいな冒険譚の主人公は似合わないけどな。
「そろそろお時間です」
「ああ……行けるな? ポルテ」
「お、おう!」
考え事をしていたら、もう出番がきたようだ。少し慌てつつ返事をして、見送ってくれるコーデリアさんに頷いてから、ライリーさんのあとについて控え室を出た。
はぁ、ドキドキする! どんな試合になるのか、めっちゃ楽しみだ!
◇◇◇
人々の歓声を浴びながら、やってきた闘技場のメインステージ。
そのフィールドを、円形に段々になっている観客席が取りかこんでいる。観客席とメインステージは、光の反射で虹色に光って見える透明の壁のようなもので隔たれている。たぶん、流れ弾が観客に当たらないようにするための防壁かなにかだろう。
雰囲気抜群でテンション爆上げ状態の俺とは反対に、ライリーさんは不機嫌だった。
「……るせーな……」
歓声が耳障りなご様子で、顔をしかめていた。こればっかりはどうしようもない。
一方、向かい側にはシャルマン王国の勇者パーティーのメンバーたちがいる……うん。まさかと思ったけど、やっぱりそうだったんだな。
この闘技場にくる前にも見かけたが、彼らは完全に顔見知りだった。いや、ただの顔見知りではなく、元仲間たちだ。
背中に大剣を背負った勇者の隣にいるのは、リーダーで剣士のセドリック。それから、その後ろにローブを着た魔法使いのテオドール。同じく魔法使いのミリア。こちらはローブなしで露出度高め。テオドールは攻撃魔法専門で、ミリアは回復役だ。
……懐かしい。あいつらを見てると、いろいろ思い出す。
俺が仲間に入れてもらえたのは、セドリックが「魔法に強いパーティーを作りてぇんだよ!」と、望んでいたからだ。魔法使いなら誰でもいい、みたいなニュアンスのようにもとれたが、ずっと一人でいた身としては、仲間に入れてもらえて本当に嬉しかった。
だからその後、使えない奴と評されて雑用係に回されても、平気だった。あいつらにとってはガチャでハズレを引いちまった、みたいな感覚だったかもしれないけど。
それにしても、まさかあっちの国の勇者を仲間に加えていたとは。勇者は筋肉質な体で、ごりごりの物理型のようだ。路線、変えたのか?
「もう一度聞くが、大丈夫なんだな?」
「なにが?」
「あいつら。お前の故郷の連中だけど」
「ああ、もちろん。元いたパーティーの連中だけど、全然問題ねぇから」
「お前、勇者のパーティーにいたのか」
「いや。俺がいた頃は勇者は仲間じゃなかったはずだけど」
「……あっそ」
ライリーさんは、聞いておきながら興味がなさそうに生返事をした。じゃあ聞くなよ。
「なーんか……見たことある顔の奴がいるわね」
「そうか? 俺は覚えねぇな」
互いに近づいて、はっきりと顔が見える位置まできたところで、ミリアとセドリックがくすくすと笑いながら言った。
うーん……こんな奴らだったっけ? 言っちゃなんだが、モブっていうかやられキャラみたいな雰囲気がするんだけど。
「この国の勇者とは、貴様か」
あちらの勇者が、野太い声で聞いてきた。
……ん? 目線、俺のほうむいてる? いやいや、違うぞ。俺じゃなくて、こっち!
俺は首を横に振り、横のライリーさんをさした。
「魔法使いが勇者とは、この国らしいな。だが……私の敵ではない!」
勇者は背中にさしていた剣を抜き、地面に突きたてて咆哮のような大声をあげた。気合い十分だな。
「ポルテ」
「おう」
「お前がやれ」
「……うん?」
指輪をはめた右手をなでて気合いを入れていると、ライリーさんが気の抜けた声でそう言った。思わず振りかえる。
ライリーさんは、俺の後ろに立って腕を組んでいる。明らかに戦う態勢ではないし、やる気もなさそうだ。
「まず一人でやってみろ。俺はなにもしねぇから」
「……一人で? いいのか?」
「いいっつってんだろうが。やれ。ただし、無唱発動はなしな」
「了解!」
無唱発動不可のお達しが出ました。実は、ライリーさんとの修行中でもそういう縛りでやったときもあったんだよな。だからまぁ、大丈夫だろ。
指先に集めはじめていた魔力を戻して、落ちつける。
「ただいまより、シャルマン王国勇者パーティー対勇者ライリー氏の試合を始めます! 両チーム、準備はよろしいか!……では……始めっ!」
俺たちとむこうのパーティーの間に立った司会者らしき人が、口上を告げる。やっぱり俺の名前はスルーだった。ひどい。
「先手必勝!」
なんて、嘆いている間に、むこうの勇者が剣を手にして走りだした。
読んでいただき、ありがとうございます。
これで20話に達しました!
魔導祭の結末はどうなるのか、さらにその先はどうなっていくのか、気にしていただけたら本当に嬉しいです。
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