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海の賢者、気づけば国の命運背負ってました 〜追放されたタコの獣人が異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者になる〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
一章 移住編

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2話 手続きが済んだので仕事探してみた

 改めて、町をのんびり見学してみる。


 人が歩く場所と馬車や馬に乗った人が通る場所が分けられていて、歩道には等間隔に街灯が設置されている。遠くのほうで、蒸気機関車の警笛のような音が聞こえた。


 ……産業革命!? それとも、文明開化か!?


 この町が際立って発展しているだけか、それともこの国全体が発展しているのか。少なくとも、つい半日前まで俺がいた国とは、比べものにならないほど近代的だ。


 もしかしたら、明治維新直後に欧米の国々を訪れたなんとか使節団の誰々さんも、こんな気持ちだったのかもしれないな。


 ……コラコラ。観光にきたわけじゃないんだぞ。まずは、移住の手続きをしないと。


 笑顔がすてきな花売りの女性を見かけたので、話しかけると快く色々教えてくれた。



「移住の手続きなら、民務院でできるわよ。ここからなら歩いていけるわ」



 そう言って、民務院とやらへの道も教えてくれた。


 お礼の言葉と一緒に、金が入ったら買いにくる旨を伝えると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。親切な人に会えてよかった。


 そうして、再び歩きだした。歩きながらあちこち見ていると、前方にいた三人でかたまっている男性たちのグループのうち一人と、目が合った。


 その人が、ニヤニヤ笑いながらこちらに駆けよってくる。



「よう、お兄さん。見かけねぇ顔だな。アルケミリアは初めてかい?」


「あ……はい。ちょっと民務院に行こうかと」


「民務院か。道、分かるのか? なんなら送ってってやろうか」



 その人と話しているうちに、他の二人も近寄ってきた。一様に、こちらを小馬鹿にしているような笑みを浮かべている。


 ……嫌な予感がビンビンするぞ。もしや、カツアゲか? だったら嫌だな。



「あーいえ。分かるんで大丈夫です」


「遠慮すんなって! 安くしてやっからよ」


「ホントに大丈夫です。っていうか、金もってないので」


「金もってない? ほーん……じゃあ、身ぐるみ全部置いてけや!」


「ひょ!?」



 三人の男たちが、一斉に隠し持っていた棍棒や鉈を取りだして襲いかかってきた。


 やっぱりカツアゲだった! っていうか、強盗か!


 縮みあがった俺は、即座に走って逃げた。しかし、当然ながら奴らは追いかけてくる。


 ど、どうするどうする?……あ、いいものがあった!


 道端に落ちていた、先が尖った形状の木の枝を拾って立ち止まり、振りかえって追いかけてくる男たちを待ちかまえた。



「観念したかよ」


「なんだ、それ。そんな棒きれでどうするってんだ?」



 同様に立ち止まった男たちは、余裕そうに下品な笑みを浮かべている。


 彼らにむけて、俺は棒をふるった。



「くらえ! 墨攻撃っ!」



 貧相な、呪文ですらない言葉を叫ぶ。すると、枝の先から黒い液体のようなものが出て、三人の顔にかかった。



「げぇっ!? な、なんだこりゃ!?」


「このクソガキ……! なにしやがる!」


「ちげーよ! 俺はガキじゃねぇ!」



 頭から胸元くらいまでが黒くそまった三人は、混乱して仲間同士で取っ組みあいをはじめた。


 もちろん俺は、その隙に尻尾をまいて逃げる。


 ひたすら走って、赤っぽいレンガでできた重厚な建物が見えてきたところで、一旦後ろを振りかえる。


 ……誰もいない。よし、逃げきれたな!



「ふう……」



 階段の前で立ち止まり、一息ついた。


 はぁ。まったく。いきなりカツアゲに遭うなんて……血気盛んな町だな! 元気なのはいいけれど、元気すぎるのもどうかと思うぞ。



「よう、大丈夫か?」



 不意に頭上から声をかけられて、反射的に顔を上げる。


 そこにいたのは、短い黒髪に黒のロングコートのようなものを羽織って、黒いブーツを履いている、頭から足の先まで黒ずくめの男性だった。切れ長の目が特徴的で、不敵な笑みを浮かべている。


 なにか悪だくみをするのが好きそうなタイプに見えるけど、偏見かな。



「お前、さっき変な魔法使ってたな」


「へ……? 変な魔法?」



 首を傾げて考える。


 ……まさかこの人、さっき俺が三人組を追い払ったところを見てたのか? 変って。たしかに、「墨攻撃!」なんて、自分でもどうかと思うけど。



「そんなに変でしたか?」


「ああ。()()()()な」



 うん?……どういう意味で?


 なにかを察しているけど多くを語ろうとしないその人に対し、俺は首を傾げるしかなかった。



「で、お前ここになにしに来たんだ?」


「……移住の手続きをしに」


「なら、そこの左から二番目の入口から入れば近いぞ」



 黒ずくめの男性は左のほうを指さして、自分はすぐそばにある入り口から入っていった。


 うーん……よく分からない人だな。なにがしたかったんだろう。


 分からないことだらけだけど、ひとまず目の前の赤レンガの建物を見上げた。


 他の建物が薄茶色のレンガで造られているのに対し、その建物は赤っぽいレンガでできているため、かなり目立つ。横長で、小さな門扉がついた入り口が等間隔にいくつかならんで設置してあった。手前にどっしりとした石の塊があり、「民務院」と彫られてある。


 俺は、黒ずくめの人に言われたとおり、左から二番目の入り口から中へと入った。



「ご用件は?」


「へっ? あ、移住の申請を――」


「こちらにお並びください」



 入った途端、フレームにチェーンがついためがねをかけた女性に声をかけられ、早口で指示された。


 ……長蛇の列だ。まさしく、ぐるぐるととぐろをまいた蛇のように、いくつもカーブができている。これに並ばなきゃいけないのか。


 うんざりとしつつも、示された最後尾に並んだ。


 待っている間は、せっかくなので建物の中を観察してみた。


 昼間なのに、天井から吊りさげられたランプにはぼんやりと光が灯っていて、建物の中を照らしている。むかって左の奥にあるスペースには、掲示板らしきものがあって、利用者がそれを眺めている。その横にずらりと並んでいる機械を使っている人もいる。遠目ではよく分からない。


 そして、肝心の窓口。各カウンターには、薄く研磨された石製の表示板があって、それぞれ担当する業務が一目で分かるようになっている。


 俺が並んだ列の窓口は、「戸籍・身分証明」と書かれている。その隣の窓口は「通信・水道」で、さらにその隣は「税」だった。


 どうやらここは、前世の世界でいう市役所の役割をもつ施設らしいな。


 元いた国には、こんな施設はなかったぞ。なにかあったら、とりあえずギルドに行って相談、申請をしていたもんだ。当時のパーティーのリーダーが、よく「話が通じない」と怒りをあらわにしていたように、相談しても解決しない事例も多かったけど。


 ここのようにしっかりとした施設なら、たぶんそうはならないよな。隣同士の国なのに、この差は一体?



「次の方」


「あ、はい!」



 ぼんやり考えている間に、ようやく回ってきた俺の番。カウンターに近寄って、まずはにっこりと笑顔をむけ、ヒレをパタパタと二回動かす。


 ……窓口担当のつり目の女性は、機械のような無表情のまま、瞬きを一度しただけだった。



「すみません。この国に移住したくてきたんですけど」


「移住の申請ですね。手続き後、審査を受ける必要があります。現在順番待ちの状態の方が多く……最低でも一か月はお待ちいただくようになりますが」


「気長に待ちます!」


「では、身分証をご提示ください」


「身分証……えっと、冒険者カードでいいですか?」


「拝借します」



 機械のような無表情の窓口担当の女性に、上着の内ポケットから出したカードを渡す。


 窓口の女性は、それを受けとって手元にあるなにかの機械にかざした。一瞬だけ、ぼやっとした光が発生しただけで、なにが起こったのかはさっぱり分からない。



「申請完了しました。そちらが仮の資格証になります。審査の開始と完了の表示が出るので、見逃さないようにしてください。完了の表示が出た場合は、再度この窓口にお越しください」



 説明を聞きながら、返された冒険者カードをまじまじと見る。


 特に変わったところはなさそうに見えるんですけど? しいていうなら、コーティングされたのか、傾けると光を反射してキラキラ光るくらいか。



「あの、表示って……どこにいても出るんですか?」


「いいえ。この町――アルシードの外に出た場合は、移住資格の申請自体が無効になるおそれがあります。また、完了の表示が出てから三日すぎても窓口にお越しいただかなかった場合も同様です」



 なんだろう。どっかのフードコートでよくある、注文したあとにできあがりを知らせる受信機を渡されたような気分だ。



「分かりました。ちなみに、申請中って働けますか?」


「問題ありません。労働関係の窓口はあちらです」



 つり目の窓口担当者は、むかって右端をさした。


 彼女に頭を下げてお礼をして、その場をあとにする。そして、案内された右端の窓口へとむかった。


 そばの壁には、大きな掲示板らしきものがあった。ネオンサインのような光で、文字が表示されている。


 なんてハイテクな。これも魔法でやってるのか?



「申請、できたか?」



 感心して掲示板を見つめていると、背後から話しかけられた。すぐに振りかえる。


 ここに入る前に声をかけてきた、黒ずくめの男性だった。



「はい。おかげさまで」


「そうか。それはよかったな。で……仕事、探してんのか?」


「そうなんです。審査に時間がかかるみたいで。そもそも俺、一文無しですし」


「じゃあ、うちこいよ」


「……へっ?」



 黒ずくめの若い男性は、俺の右肩に手を置いた。



「いい仕事、紹介してやるよ」



 怪しい笑みを浮かべた顔を近づけられて、俺は固まった。

お読みいただきありがとうございます。

明日も20時頃更新する予定です。よろしくお願いします。

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