62話 炎は躍る、されど尽きず
聖法歴1021年3月12日
レルヒェ共和国内のとある荒野。
この場に三人の英傑が集っていた。
一人はこの国の英傑であり、共和国軍魔法師団強襲部隊隊長を務める男。
明るい茶色の髪にグレーの瞳を持った長身の人物。
その名をウォーレン・ホークス。
レルヒェ共和国が誇るランクS-の英傑「重爆」その人だった。
一人は少し離れたミスルト教国の英傑の女性。
すらりと長い手足と切れ長な水色の瞳、黄緑色の髪をひとまとめにしたその姿からは、やり手の実業家を思わせる。
彼女はメイジー・フォレット。
ミスルト教国のランクA-の英傑「怜利」であり、聖法教会司祭としても名が知られていた。
最後の一人はお隣ソール連邦の英傑。
真っ黒な髪と紅の瞳が特徴的な男。見た目が未だ幼く、知らぬ人からしたら英傑だと気付かれ難い少年。
彼はゼイン。
ソール連邦のランクS-の英傑「悪鬼」であり、今回集まった原因の一人でもあった。
そんな三人の英傑だったが、この場には異様な空気が漂っていた。
「貴様がそんなことをするとは到底考えられないが、私にも立場というものがあるのでな。無意味な質問をさせてもらう」
そこで言葉を切ったウォーレンはすっと目を細める。
「――グレタ・ヘンラインの居場所はどこだ?」
投げかけられた質問に肩を竦めるゼイン。
「知らん。お前たちが勝手に見失っただけだろ」
吐き捨てられた回答を鼻で笑うウォーレン。
そんな形骸的なやり取りでため息をつくメイジー。
三者三葉の反応を見せる中、仕事は片付いたとばかりに口角を上げたウォーレンが話を進めた。
「だろうな。レルヒェ共和国に返しておいて、また攫う意味も分からん。亡き者にするならそんなまどろっこしいことはしない」
「なら、なんでわざわざ代理戦まで仕掛けてきたんだ……」
嘆息するゼインが顔を顰める。
事情を知るメイジーだけが、眉をひそめてウォーレンを見ていた。
「政府にせっつかれて、仕方なく、だ」
「――嘘だな。それだけならこうして人を限定する理由がない」
嘯くウォーレンをバッサリと切り捨て睨みつけた。
ゼインの言うことはもっともだった。
今回の代理戦に際しレルヒェ共和国の出した条件では、ゼインを名指しした他、場所や立会人の有無まで言及されていた。また、この戦いで起こったことに関しては、今後如何なる追及も厳禁と明示しており、明らかに今までの代理戦と一線を画す異質さだった。
「そうか? 勝利者の要求は妥当なものだろう。私が勝てば“『翠癒』の消息に関して知る情報をすべて明かすこと”だし、貴様が勝てば“『翠癒』に関してソール連邦への一切の嫌疑を廃し、これまでの行為を謝罪する”だ。今まさに、貴様へ向けられている非難や疑惑が無くなる好機ではないか」
「その理屈と立会人がいないことは繋がらない。どうせなら不正を見張るため、そっちが山と人を用意するだろ」
弁明するもゼインは疑う様子を覆さない。
片眼を眇めてどうしたものかとウォーレンは口を歪める。
そんな彼へ、メイジーがため息交じりに諭す。
「……本当の目的をお話してもよろしいのでは? そのために立会人を私にされたのですよね」
「……それもそうか。できれば説明せずにしたかったのだがな」
「流石にそれでは貴方の目的を達せられないでしょう。彼は無益な行為はされませんから」
ゼインの眼差しは未だ鋭いまま。ウォーレンの思惑を探る。
しばらく沈黙が続いていたが、観念したように脱力した。
頭を掻いたウォーレンが唐突な質問を口にする。
「ゼイン、貴様には私の髪は何色に映る?」
「は? 今、そんなことどうでもいいだろ」
「いいから答えてくれ」
「……」
仏頂面のゼインだったが、真剣な表情のウォーレンが伊達や酔狂で言っている訳ではないと理解する。
「……白」
「そうか、やはりな!」
歓喜に打ち震えるウォーレンを怪訝そうに見つめるゼイン。
話が進まないと、メイジーが彼の勘違いを正す。
「ウォーレン様の髪色は明るい黄褐色です。……もっとも、魔法で見せられている過去の髪色ですが」
「そうだ、今の髪色は故あって白くなっている。以前の貴様のようにな」
「それは……、お前も実験の後遺症か?」
「いや、私のは単なる病気によるものだ。貴様のように高尚な理由がある訳ではない」
ゼインの懸念に首を振るウォーレン。
そのことにゼインは内心胸を撫でおろした。
そんな彼の様子で口元が緩む。
自らの髪を弄りながら、滔々と言葉を吐きだしていった。
「こうなったのは今から十五年前、当時十九の時だった。私は昔からあまり体が強くなくてな。よく体調を崩しがちで倒れることもしばしば。その時も例の如く魔法の練習中に倒れてしまったんだ。……いつものことかと思っていたんだが、その日は一段と酷くてな。病院まで担ぎ込まれて検査したところ、己の魔力量に体が追い付いていないと診断された。今までの体調不良もその所為だろうとも」
語るウォーレンはどこか遠い目を浮かべていた。
彼は自嘲気味に笑いつつ、話を続ける。
「……皮肉だよな。俺は魔法が好きで好きで堪らないというのに、体が気持ちに追い付いていないなんてな。そこからは自らの魔力に体を蝕まれ、命を削っていった。その反動で髪も白くなり、どんどんとやせ細っていった」
そう話す彼だったが、今の見た目は健康そのもの。
身長の割りに肉が少なく細めの印象はあるが、どう見ても痩せ衰えているようには見えなかった。
「原因が判明してから約三年後、とある方法によってこうして生き永らえることができていたが、それももう限界が近い。二、三年の猶予はあるが、満足に魔法が使えるうちに死んでおきたいのだよ」
そう締めくくる彼は哀愁を漂わせつつも、晴れやかな笑顔でゼインを見据えていた。
「死にたければ勝手に死んでいろ」
「残念ながら、死ぬときは魔法で死ぬと決めているのでね。身勝手だが、君にその役目を担ってもらいたいと、名指しさせてもらった」
「……なぜ俺なんだ?」
嫌そうにしながらも、ゼインは彼を放っておくことはしなかった。
狂った願望とはた迷惑な押し付け。
これが見ず知らずの相手であれば、ゼインも聞く耳を持たなかっただろう。
しかし、今は確実に心が騒めき、惹かれる何かを彼に感じていた。
問われたウォーレンはちらりとメイジーへ視線を向けた後、ゼインの瞳を真正面から覗き見る。
「私が知る中で一番魔法に精通しているからだ。どうせなら最高の魔法を手向けとして受けたいのでな」
「ならセオドアでいいだろ。あいつの魔法はその辺の魔法とは一線を画すぞ」
「それは考えていた。ただ、あの男は大の甘ちゃんだからな。絶対に最後の最後で尻込みする。……それがどれほど残酷な行いかも理解できずにな」
顔を歪めたウォーレンが吐き捨てる。
最後の言葉には怨念が籠っていた。
軽く首を振り、表情を戻した彼は続けて候補を挙げていく。
「本当はレイフにでも頼もうと思っていたのだがな。私より先に逝ってしまったし、『無影』も最近はどこかおかしい。どこぞの上級悪魔でもよかったのだが、巡り合わせがよく無くてな。候補がもういないのだ」
「……消去法か。ランクSなら他にもいるだろうに」
「はっ、肩書だけの木偶なんて話にならん。それに貴様は私の想像以上の実力を持っているだろう?」
挑発するような色を乗せて不敵に笑うウォーレン。
それに対し、ゼインは鼻を鳴らすだけだった。
「貴様のその紛い物の力もそうだ。なかなか扱いの難しいものをそれだけ器用に扱えているのだ、技量は疑うまでもない」
「……ちっ、おしゃべりな奴め」
「あの男は最低限の信用にたる人間にしか話さない。そこまで心配はいらない」
知っているのは片手ぐらいだろうと零すウォーレンだったが、ゼインはむっとしたまま腕を組んでいた。
「それが俺を呼んだ理由か?」
「概ねはな」
ウォーレンの物言いに引っ掛かりを覚えたゼインが眉をひそめる。
彼らの会話を静かに見守っていたメイジーが、微妙な空気を破るように口を挟んだ。
「……ウォーレン様。言い難ければ私からお話ししますよ」
「いや、いい。これも兄弟子としての務めでもある」
ぴくりと眉を動かすゼイン。
そんな彼へ、ウォーレンが衝撃的な事実を明かした。
「私がここまで延命できた理由だがな、貴様もよく知るあの力によって十数年間、己の魔力量に耐えうる肉体を手に入れることができたのだ」
大きく息を吸ったウォーレンがその単語を紡ぐ。
「――“理力”。これのおかげで私は今こうして君と対峙できている」
ゼインの目が大きく見開かれた。
◆◆◆
「……万理道の生き残りが、俺以外にもいたなんて――」
「喜んでいるところ申し訳ないが、私は正式な門下生ではないのだ。この体の治療のため二年ほどお世話になった程度。理力は感知できるが覚醒状態にも至れておらず、扱える理力の量も少なければ理術もほとんど使えない、名ばかりの門下生だ」
「お前以外にも生き残りはいるのか?」
卑下するウォーレンを気にすることなくゼインは質問を投げかける。
そんな彼の態度に苦笑が漏れた。
「残念だが、私は知らない。もしかしたら私のように腰かけの門下生はいるかもしれないが、望み薄だろうな」
「……そうか」
打って変わって意気消沈するゼインを痛ましげに見つめるウォーレン。
内心、下手な期待を持たせたことに反省する。
すぐさま平然とした表情に切り替えて本題を切り出した。
「――コホン、私も理力を使える身。どうせ死ぬのなら、可愛い弟弟子のためこの命を使おうかと思ってな」
「……どうして、それを知っている?」
ゼインの動きが固まる。
瞳は揺れ、奥歯を噛みしめていた。
反対に、ウォーレンは飄々とした態度を崩さない。
「以前、ギャスパル宗主から提案を受けてな。老い先短い兄弟子が、私のためにその身を犠牲にすると持ち掛けられた。……未熟な私では完全な力の譲渡は不可能だろうが、少しでも足しになればとな。お世話になって一年以上発った後だったので、考えるまでもなく断った。……入門当初であれば食いついただろうがな」
目を伏せた彼を誰も責められはしない。
人間誘惑には弱いものだ。
むしろ、一年かそこらの付き合いで救いの提案を蹴られたウォーレンが異常だった。
「そういった理由だ。今回の失踪騒動を隠れ蓑にした、私の思惑としてはな」
清々しく言い切ったウォーレンは、ただゼインを見つめるだけ。
対するゼインは齎された情報も己の感情も未だすべてを呑み込めずにいた。
そんな彼をじっと待ち続けるウォーレン。
次第に理解と整理が追いつき、舌打ちを漏らすゼイン。
「……今じゃなくてもいいだろう」
「このご時世だからこそ自然に戦えるだろ? すべてが終わった後では賛同も理解も得られない」
「――ちっ」
苦々しげな表情のゼインは、それ以降口を開くことはなかった。
「さて、同意も得られたことだ。早速戦うとしよう」
ウォーレンの宣言が荒れ果てた大地に虚しく響き渡った。
◆◆◆
対峙する二人の英傑。
一人は泰然と佇み、一人は憮然と立ち尽くす。
距離を取る両者の間には、ひび割れた大地が広がっていた。
「――これよりレルヒェ共和国の対、ソール連邦の代理戦争を執り行います。双方構えて」
メイジーの掛け声で二人が口上を述べる。
「私はランクS-の『重爆』ウォーレン・ホークス。貴様を倒す男の名だ」
殺してくれと言いながらも、戦いでは一切手を抜かないと宣言する。
対するゼインも、一度目を瞑り、その双眸を染め上げる。
「……万理道二二三代目宗主代理、ゼイン」
赤紫の瞳に目を見張りつつ、ゆるりと不敵に微笑んだ。
二人の言葉を聞き、メイジーがそっと息を吸う。
「――始め!」
合図と共に、紅蓮と深紅が衝突した。
◆◆◆
ウォーレンの得意な魔法はその異名に相応しい”炎”。
本来ならば遠距離から一方的なまでに次々と繰り出される。
今回お互いの距離は五〇メートルもない。
彼にとっては近すぎる位置だったが、応戦するゼインも炎しか使っていなかった。
まるで鏡写し。
色の異なる炎が、生き別れた双子の再開のように激突していた。
視界を埋め尽くす炎の波が、押しては引き、押しては引きを繰り返す。
「ははは! 操作できないからと理力で動かすとは、考えたものだ!」
己の自慢の炎にも負けない混成魔法を称賛する。
そのまま鞭のようにしならせ、薙ぎ払う。
まったく同じ見た目の異なる魔法で打ち消された。
「なら、これはどうかね?」
飛び散った炎が人型を成し、武器片手に突撃する。
一瞥しただけで、たちまち形が崩れて残火となる。
「魔力阻害か……。またなんとも扱い難い技を」
驚嘆の声を上げたウォーレンだったが、続く攻撃に内心舌を巻く。
目の前に現れたのは小さな紅玉。
ガラス玉大のそれは、カラコロと転がり彼の足元へと姿を見せた。
小さな舌打ちののち膨れ上がった魔力を抑えんと炎が渦巻く。
一瞬の間を置いて、轟音と共に巨大な火柱が立つ。
まだ春先の肌寒い季節だというのに、ここだけ夏が訪れたのかと錯覚しそうな熱量だった。
「……魔法を圧縮しすぎだ。よく魔力圧に堪え切れるな」
埒外の技量を見せつけられ、思わずたじろぐウォーレン。
視線の先には、先ほどから表情一つ変えない少年の姿があった。
「可愛げのない弟弟子だこと」
どこか嬉しそうに零すウォーレンは、次の一手を繰り出した。
ひらひらと舞う火の粉。
空を漂う緋色は、触れた瞬間炎を巻き上げる。
日の光を反射して煌めくそれは、たちどころに周囲を地獄絵図へ変貌させた。
降りしきる姿はまるで雪のよう。
積もることなく数メートルの火柱を立てていく。
一見無意味にも見えた魔法。
しかし、その効果は計り知れなかった。
直接的な被害は少ないと、始め放置していたゼインはその厄介さをのちに知ることとなる。
瞬く間に灼熱地獄と化した戦場に、一筋の光が線を引く。
横一閃したそれは、ウォーレンの腕を掠めて荒野を切り裂いた。
圧縮された炎。
込められた魔力量は微々たるものだったが、その威力は上級魔法に匹敵するほどだった。
「……危ないところだった。初級以下の魔力でこうまで威力が上がるのか……。どれだけ圧縮しているのか」
先ほどのガラス玉が全方位向けの爆弾だとしたら、今回のレーザーは貫通性に特化した殺傷力高めの一撃だった。
もしかしてどちらも同じ魔力量だったのでは? と戦慄したほどだ。
実際は倍ぐらい違うのだが、それでも初級魔法レベルの魔力量なのは変わりない。
欠点は打ち出した後に動かせないぐらい。
それでも並みの相手では直撃を避けられなかった。
「厭らしいまでの魔法の腕だ。正直、ここまでとは期待していなかったぞ」
ぼやきつつ手をゼインへかざす。
巨大な炎が生じ、生き物のようにとぐろを巻く。
胴体ですら彼を容易く超える炎は、取り囲んだ後、蓋をするよう頭上からその顎を振り下ろした。
あっという間に巨大なドーム状となった炎は、数度の明滅を繰り返すと、爆炎をまき散らしながら噴火した。
周囲の大地が焼け爛れる。
押し寄せる熱風と衝撃。
ただでは済まされない状況の中、ゼインはぽつんと爆心地に佇んでいた。
「まったく、少しは動揺したらどうだ? 熱気の中で涼しい顔をされると、まるで私が弱いみたいじゃないか」
非難するウォーレンだが、言葉ほど堪えた様子はない。
ただ口元に苦笑いを浮かべ、先ほどから炎ばかり使うゼインを見つめていた。
「理力を直接理術にせず魔力に変換していることといい、防御に空間魔法を使わないことといい、本当に弟弟子は面白いなぁ」
独り言を呟きつつ、最後の仕込みを行った。
地面が抉れ、宙に浮くゼインはふと、空を見上げた。
先ほどまでは気にならなかった火の粉の雲。
それがいつしか巨大な積乱雲となり、彗星の如き炎の雨を降らせていた。
これまでのように炎で迎撃したところで、初めて彼の顔に驚愕が浮かぶ。
それもそのはず。
打ち消すために放った炎が、一瞬で燃え上がり、再び雨となって降り注いだからだ。
「ちっ――」
慌てて跳び退くゼイン。
地面や魔法に触れた雨は、炎の華を咲かせていく。
秒で炎の絨毯を敷いたそれは、いつになっても消える様子がない。
「一発で見抜かれるとは、私もまだまだ精進が足りないようだ」
「消えない炎は厄介すぎだろ」
渋面を浮かべるゼインの言葉通り、ウォーレンの放った魔法は、周囲の魔力を一切合切喰らって咲く炎であった。
打ち消すための魔法も喰ら尽くし、周囲の魔素も貪る。
対魔法使いに特化したウォーレンの切り札だった。
「そう言いつつ、貴様は対処しているだろ」
ウォーレンの指摘はもっともだった。
ゼインは炎では不可能だと悟り、空間魔法を解禁した。
これまでのような補助的な使い方ではなく、直接攻防に回すやり方を。
普通に防いでは格好の餌食だと、炎そのものを空間ごと消し去って無効化する。
数分間の攻防ではあったが、彼の周りだけ安全地帯が出来上がっていた。
「……はぁ、ここまでされたら俺の負けだ。炎だけじゃ対処しきれない」
防ぎつつ、自らの負けを認めるゼイン。
相手と同じ土俵で戦うからであって、十全な状態であればそんなことはないだろう。
そんな彼の宣言が聞き届けられる前、ウォーレンが口を出す。
「――残念だが、負けは私に譲ってもらおうか」
静かに告げるその声で、ゼインの顔が一変した。
「おい! お前まさか!」
「流石にレイフのような、綺麗な恰好ではできないものなんだな」
ウォーレンの声は徐々に弱々しくなり、顔からも色が抜け落ちていく。
「ちっ、どうして限界まで魔力を振り絞った!?」
「……始めに言っただろう。魔法を使えるうちに死んでおきたいと」
「だからって――!」
近寄り体を支えたところで、ゼインにはどうすることもできなかった。
いつしか降り注いでいた雨は止み、ぱちぱちと燃える火の音だけが響いていた。
「……勝負は君の勝ちだ、ゼイン。私の切り札を難なく防いで見せたのだからな」
「俺はまだ、お前に魔法を食わらせていない……」
「食らったさ、あの初級魔法もどきの熱線をな」
そう言って腕を上げようとして、すでに体が言うことを聞かないことに気付く。
「……それでお前は満足なのか?」
「まぁ、少々味気なかったが最後にいいものを見れた。それで十分だ」
満足そうに微笑むウォーレンをゼインはそっと横たえる。
突然の行動に訝しげに眉をひそめたウォーレンだったが、すぐにその瞳を爛々と輝かせた。
「――なら、手向けとしてこれをくれてやる。……少なくとも、お前でも視た経験は少ないはずだ」
ゼインは脇を絞め、両手のひらを空に向けた。
その掌からは白と黒の炎が迸る。
「……は、ははは、ははははは! そんなことまでできたのか、ゼイン!」
最期の高笑いと共に、その表情は喜色満面をしていた。
頬を伝うものを地面へ零しながらゼインは見下ろす。
「”改理”で歪めた本物に似せた何かだがな」
「……」
それでも笑みのまま、憂いなくその炎を受け入れたウォーレン。
二色の炎に抱かれて眠る彼の表情は、とても穏やかで満ち足りた顔をしていたのだった。
◆◆◆
「……大丈夫ですか?」
「問題ない」
顔を袖で拭ったゼインが振り返る。
残された二人は静かにその場を去った。
――未だ燃える炎が、戦場跡地に咲き乱れていた。




