59話 狂炎の宴
聖法歴1020年11月27日
フラクシヌス帝国某所。
「はぁ……」
一人の男のため息がその場の喧騒に飲まれていた。
彼の視線の先には、無数の人と無数の馬車が大地を踏み鳴らす。
まだギリギリ国内といえど、この様子では失敗に終わると、胸中で愚痴を零していた。
そんな煤けた彼の背に心配そうな声が降りかかる。
「……先生、大丈夫ですか?」
彼は振り返ると、先ほどの様子から一変して、明るく優しげな表情を浮かべていた。
「――大丈夫だよ。何があっても、先生がみんなを守るから」
先生と呼ばれた男の言葉で、馬車に乗る三十人ほどの少年少女の顔が和らぐ。
「まだ道のりは長い。はしゃぎすぎるのもよくないけど、緊張するのもまだ早いかな。今はゆっくりと休んでいて」
「「「はーい」」」
元気な声に顔を綻ばせつつ、男は前に向き直る。
表情は打って変わって真剣そのものだった。
「……何があっても、皆を守り切らないと」
自らに言い聞かせるよう呟き、男は決意を新たにする。
彼らがここを移動しているのには理由があった。
それは今から一週間ほど前に遡る――。
◆◆◆
フラクシヌス帝国防衛軍第三師団本部。
「――ある英傑の台頭から、戦況はソール連邦に傾きつつある。近頃も大規模な魔法演習でその実力を誇示してきたばかり。これは憂慮すべき事態ではないか?」
「そうだそうだ! 傲岸不遜で周りを顧みない悪辣さ! 話題性も掻っ攫い、我が帝国の英傑をまるで引き立て役のように踏み台にして!」
「断じて許せぬ事態だ!」
「少しはお灸を据える必要があるかと」
一人が同調すると、堰を切ったように追従する。
騒がしさに拍車をかけたが、とある男が手を上げると、波が引いたように静まり返った。
「――お主らの憤りは理解した。だが、そう簡単に事が済むのか? “あれ”は曲がりなりにもランクS-。数で当たってもこちらが壊滅するだけではないか?」
「それは……」
まとめ役の指摘で先ほどまでの熱が嘘のように、物音ひとつしなくなった会議室。
彼らの僅かな息づかいだけが耳に届いていた。
そんな中、一人の男が静寂を破る。
「向こうから手を出させるのはいかがでしょう? 名目上は軍事演習中の不慮の事故として」
「そう上手くいくのか? まず、手を出す理由がないのではないか?」
顔を顰めたまとめ役の疑問はもっともだと、他の面々も頷く。
「私が入手した情報によると、例の英傑は子供が魔境に足を踏み入れただけで大騒ぎするほどの子供好き。連邦の魔境に子供を連れて行けば、おびき寄せることも可能かと」
「……なるほど。子供の実習という名目で連れ出し、突然乱入して来た“あれ”を袋叩きにする、と」
「我々はステルス迷彩で魔力を隠し、身を潜めながら待ち構えればいいんですね。子供たちの安全を陰ながら見守るという建前で」
「なら、一人当たり数人の警護がついても何らおかしくないな」
提案した男の端的な説明で理解した他の人々も、口々に案を告げていく。
件の英傑の所為で、幼い時分から戦闘経験を積ませたほうがいいのでは? という風潮がここ最近、流れ出していた。
本来であれば十二歳という制限のある許可証の発行も、一、二年前倒しして欲しいとの声も上がっていた。
未だ実現していないが、その英傑の強烈なまでの活躍を目にした人々がそう考えるのも不思議なことではない。厄介な事例を作ってしまったばかりに、事情を知らぬ人は、その成功体験に追従しようとしていた。
まだどの国も検討段階だったが、ここではそれを罠のためにいち早く取り入れようと画策していた。
「実行に際し、立案者でありますので、我が大隊に務めさせて頂きたく――」
「――ふむ、よかろう。お主のジャッカル隊に任せるとしよう」
結局、その男の提案は認められ、詳細を詰めていくのだった。
◆◆◆
“幼少者の能力向上に向けた野外活動”――通称、撒き餌作戦に異を唱えたのは、第三師団の中でたった一人。皮肉なことに、実行部隊であるジャッカル隊に属する第五隊の中隊長だった。
「考え直してください! 十歳の子らを魔境に連れて行くなんて、正気の沙汰ではありません!」
「くどい。これは正式に下された任務なのだ。我がジャッカル隊の半数を連れて行くのだ、警護の手はそれで十分だろう」
「配置がおかしいではありませんか! これでは、子供たちを囮に――」
「――クリプトン中隊長。憶測で物事を語ってはいけない。口さがない連中の耳にでも入ったらことだ」
魔力を伴った威圧まで掛けられ、中隊長は言葉を続けることができなかった。
男は彼の肩に手を置くと、その場から去っていった。
残された彼は唇を噛みしめ、ただ皺の寄った作戦書に目を落とす他なかった。
◆◆◆
ソール連邦南西。
その日、彼らが居合わせたのは偶然だった。
魔境の様子を知りたいと話したユーグの要望を叶えるべく、四人は移動中だった。
「あまり勧められたものではないんだけどね」
魔道車を走らせながらオーギュストがぼやく。
「別に戦わせる訳じゃないからいいだろ」
ゼインの言葉通り、まだ十一歳で許可証を持っていないとはいえ、戦闘しなければ法に抵触しないのは確かだった。それでも戦えぬ相手を戦いの場へ連れ歩くこと自体、非常識といってよかった。
「わたしも楽しみ!」
……それが、二人ともなれば尚更だった。
異変に気付いたのは、そんな道中のことだった。
外を眺めていたゼインが、おもむろに首を巡らせ明後日の方向を向いた。
横目で気付いたオーギュストが何事か尋ねる。
「何かあったのかい?」
「……今、帝国との国境付近に展開している軍はあったか?」
「帝国との国境? それはどの辺りだい?」
「突き出た部分だ」
ゼインの言葉で車を止めるオーギュスト。
振り返る彼の顔は真剣そのものだった。
「……いや、無いはずだ。念のため確認を取ってみる」
オーギュストは懐から通信装置を取り出し、知り合いの軍人へ連絡を取る。忙しい彼ではなく、その副官の女性に。
しばらくしたのち、小さく礼を言ったオーギュストが再びゼインに向き直った。
「確認は取れた。やっぱり今はどの師団もそっち方面には展開していないとのことだ。多くが北と南東の魔境対策に駆り出され、国境警備も最小限にしているみたいだからね。他国の軍に要請を出していないし、来訪の連絡も貰っていないみたいだよ」
「となると、あれは全部敵か――」
すっと目を細め、南を見据えたゼインに念押しする。
「勘違い、という訳じゃないよね? ここから二〇〇キロメートルは離れているけど」
「あぁ、今日は感知範囲を最大にしていたからな。知らない相手だと、それが限界だ」
無差別でも広大な範囲を探れるとあって、最早笑うしかないオーギュストだったが、すぐさま表情を引き締めた。
「理由は不明だけど、そのまま放置も危険だ。悪いけど今日はここまで。私が直接赴くとしよう」
「いや、俺が行って引き返すよう話してくる。従わないようなら……」
言葉を溜めるゼインを不安そうに見つめる。
彼の悪評は日に日に増すばかり。
最近の不手際もまた誤魔化しはしたが、あまり効果が見られなかった。
彼自身、痛痒も感じていなかったが、事情を知る人からすると、誤解されたままなのはどうにもやるせなかった。
今回も、あらぬ濡れ衣を着せられる可能性があった。
「……無駄な殺生はしないんだよ」
「気に留めておく。――あぁそうだ。少しでも俺だとバレなければいいのか」
車から出たゼインは、ふと思い出したように独り言を零す。
不穏な物言いに顔を顰めたオーギュストだったが、続く彼の行動に驚きを禁じ得なかった。
ゼインは髪をかきあげるようにゆっくりと手を動かす。
手が過ぎ去った後には、まるで足跡のように黒が落ちていく。
雪を思わせる綺麗な白髪が、光無き夜空の如く変化して見せた。
すべて染め上げると、ゼインは首を軽く振り、髪を整える。
「――これでよし。少しは変装できただろ」
「……髪の色は、元に戻るのかい?」
何をしたのか一瞬で理解したオーギュストだったが、尋ねた言葉はあまり意味のないこと。他の同乗者を鑑みてのことだった。
「戻せるが……面倒だな。変えるのが楽だからって黒にしたが、失敗したかもしれない」
微塵も気にした素振りのない彼に、オーギュストは静かに嘆息した。
「お兄ちゃん、かっこいいよ!」
「見慣れないけど、黒もいいと思う。……前はちょっと痛々しかったから」
「ん? そうか。なら、今後はこれでいいか」
二人の少年少女の反応から、ゼインは満足げに頷いた。
「とりあえず俺は、不審者共を片付けてくる。お前たちは孤児院に戻っていてくれ」
「二人は私が責任を持って送り届けるよ。ゼインは、あまり派手なことをしないでくれ」
「善処する」
答えたゼインは転移でその場から姿を消した。
残された三人は、近くの転移門へと移動し、宣言通り孤児院へと戻るのだった。
◆◆◆
ソール連邦内帝国国境付近。
総勢二〇〇人にも及ぶ大所帯。
国境を超えたとあって、彼らは息を潜めるよう静かに進軍していた。
張り詰めた空気に、ガラガラと規則的に鳴らす馬車の音と大地を踏みしめる鉄靴の音だけが耳をくすぐる。
誰もが緊張の面持ちを浮かべ、真の事情を知らぬ人々も、その空気に呑まれていた。
そんな中、先頭を歩く斥候が道半ばに佇む人影を発見し、足を止める。
後続の人々もすぐさま気付き、一つの生き物のように動きが止まった。
彼らの視線の先、街道のど真ん中には、これ以上の進行を許さぬとばかりに立ち塞がる一人の少年がいた。
年の頃は、連れてきた少年たちより少しだけ年上ぐらい。
黒髪で身形の整った、見覚えのない人物だった。
表情は長い前髪で窺い知れない。
そんな彼だったが、行軍が止まると軍隊に向かって声を張り上げた。
「ここはソール連邦国内だ! 申請のない越境行為は禁止されている! 即刻立ち去れ!」
軍人たちは顔を見合わせ、笑い声を上げる。
それもそのはず。
少年の筋は通っているが、目撃者はただ一人。彼を封じれば誰にも漏れることはない。
仮に既に知られている場合は迅速な対応が求められるが、彼の仲間と思しき人影は周囲五〇キロメートルには存在しない。魔力感知に長けた軍人が首を振ったことで、彼らの警戒は杞憂に終わったと嘲笑を上げたのだ。
「勇敢な少年よ。お前のその心意気は買ってやろう。だが、選択を間違えたな。お前はまず、大人に事情を説明してからこの場に現れるべきだった。――それももう遅いがな」
人をかき分けて前に躍り出たのは、この軍隊を率いる大隊長ヴィンセント。
彼の言葉で笑い声が一層大きくなる。
一人佇む少年は、肩を落として脱力する。
それを諦めと捉えたのか、ヴィンセントはさらに悦に浸る。
「最近はお前のように、道理を弁えぬ子供が多くてかなわん。お前も『悪鬼』に触発されて行動に出たのか知らんが、実行の前に、まずよく考えるべきだったな」
「隊長、もしかしたらお頭のほうも『悪鬼』を真似て、空っぽなのかもしれませんよ」
「あんな獣みたいなのが英傑として持て囃されるとは、世も末ですね」
「英傑は人間のために、人間だけが選ばれるべきなんだ! 他の畜生共は排除すべし!」
「そうだそうだ!」
口々に罵詈雑言を重ねる軍人たち。
この場の彼らは、およそ反「悪鬼」勢力や人間至上主義勢力で構成されていた。一部は何も知らない、もしくは別目的で参加していた人たちで、そういった人々は全体の二割にも満たなかった。
大半が偏った思想の人々であるからして、大衆意見と錯覚するほどだった。
「我々はその間違った英傑を正そうと立ち上がった勇士なのだよ。そのための策も用意してある。お前は指をくわえてその行く末を見ているのだな」
そう言って少年を捕らえよと指示を出すヴィンセント。
「……そのための子供たちだったんだな」
少年の小さな呟きは、人混みの音に紛れた。
喧騒の中、ゆらりと揺れる赤い光が闇の奥から見え隠れする。
それを目撃したヴィンセントは、どこか既視感を覚えた。
それが何なのか、考える余裕は終ぞ訪れなかった。
――急激な魔力の奔流が湧き上がる。
寒空の下、季節外れの陽炎が渦巻く。
近づいていた兵士たちが、あまりの熱気にその場から退く。
慌てふためく彼らの前に、一匹の巨大な牛が現れる。
煌々と光るそれは、炎の体躯を持って彼らを呑み込まんとす。
灼熱の海をまき散らしながら突進する怪物に、回避の間に合わなかった兵士たちが呑まれ、塵も残さず焼き尽くす。
街道を一直線に進んだ軌跡をくっきりと残し、その怪物は消え去った。
驚愕し、戦慄する兵士たちだったが、悪夢はまだ始まったばかり。
炎の海から無数の生物が湧き上がる。
魚に蠍と小さなものばかりだったが、彼らに取り着くと火だるまとなって蒸発する。
先ほどの巨体は大きさこそ驚異的だったが、動きが緩慢で遠ければ避けることができた。
しかし、次の炎は速度もさることながら、数が多すぎた。
一体二体躱したところで、桁違いの数が群がって来るのだ。魔法で防ぐも数度が限界。下手な魔法では焼け石に水だった。
周りが阿鼻叫喚に包まれ、火にも呑まれたヴィンセントたちは、混乱の最中にいた。
「レスターはどこだ!? あいつの水魔法で火を消し止めろ! 早くしないと我々が蒸し焼きにされるぞ!」
「オーツ中隊長は戦死されました! あの巨大な炎に突き刺されてしまい――」
「なっ!? ……使えん奴め。なら、エロイーズはどうだ? あいつも土魔法が使えただろう」
「ダウナー中隊長はご存命で、ただいま奮闘中とのことです! 今は決死に退路を確保中とのこと!」
「よしよし! まだ首の皮は繋がっておるな――」
「――ご報告! ダウナー中隊長が戦死されました! 次に現れた小さな炎に巻かれ」
「なっ――!?」
次々と挙がる報告に、ヴィンセントは目を白黒とさせていた。
指示を出す彼も、今は炎の対応に手一杯だった。
彼の魔法適正は火属性。周囲を囲む炎を奪おうと躍起になっていたが、ほとんど手ごたえがない。一部を奪ったところでそれを塞ぐよう炎が立ち込める。
ランクA-の彼でさえ手を焼いているのだ、他の兵士には望むべくもなかった。
周りの声が次第に途切れていく。
今際の際に放たれる声は、絞り出すような叫びと悲鳴だけ。
徐々に生き人を減らしていったと理解するには十分すぎるほどだった。
「くっ――。あの子供、ただ者ではないな……」
「――気付かなかったのか?」
再び聞こえてきた忌々しい少年の声に振り返ると、そこには宙に浮いてヴィンセントを睥睨する子供の姿があった。
「貴様!! よくもぬけぬけと――」
「適当な思いつきだったが、意外と効果があるのか、この変装」
少年の吐き出した言葉で動きを止めるヴィンセント。
愕然としたその表情には、憤怒と憎悪が張り付いていた。
「お前は、まさか――!!」
「じゃあな、阿呆」
冷ややかに言い残し、踵を返す。
ヴィンセントの声は、殺到する炎の群れにかき消されるのだった。
辺りには熱気と焼け焦げた後だけが残された。
◆◆◆
ゼインは一人、黒い繭に近づいていく。
それはあの地獄絵図の中でも、しっかりと原形を保ち、領域の内外を隔てていた。
もちろん、ゼインが積極的に狙わなかったというのも要因の一つではある。それでも、流れ弾や数発は炎をそれに差し向けていた。
そうであっても焼き尽くされることのなかった繭に、ゼインは興味を抱いていた。
「出てきたらどうだ?」
「……」
反応のない繭へ、掌底をお見舞いする。
たちまち繭が解け、中身が露呈する。
中には三十人の少年少女と、一人の男性が地面に腰を下ろしていた。
「影魔法使いか。なかなかの手練れみたいだが、この後どうするんだ?」
「……はぁ、はぁ、はぁ」
男性はびっしょりと汗をかき、今にも倒れそうなほど顔色を悪くしていたのに、ゼインを睨みつける眼光は力強かった。
「まぁ、子供を利用していた連中なんだ。生かしておく理由もない」
ゼインが近寄ろうと足を踏み出したところで、動きを止めてしまった。
「――先生をいじめるな!!」
勇敢な少年が一人、ゼインの前に立ち塞がる。
彼は涙を堪え、両手を広げて睨みつける。
気丈に振る舞っているが、全身の震えは止まず、怯えているのは誰の目から見ても明らかだった。
そんな少年に追従するように、他の少年少女たちも男性にしがみつき、彼を守ろうと必死だった。
「……おまえ、たち――」
子供たちに庇われる不甲斐なさを噛みしめつつ、息を整えた男性がゼインに向かって頭を下げた。
「――頼む! 彼らだけはどうか見逃してくれ! 虫のいい話なのは承知の上だ! 俺はどうなってもいい! だから、この子らだけは、どうか頼む!!」
「先生……」
顔をぐしゃりと歪めた子供たちと彼らに囲まれた男性の様子から、打算抜きで本心からの願いだと理解できたゼイン。
盛大にため息をついた彼は、しばし逡巡する。
自らの中で結論を出すと、おもむろに沙汰を下した。
「……しょうがない。お前らには死んでもらうとする」
「なっ――!? どうして!?」
その問いにゼインは答えることなく、驚愕に染まった彼らは、たちどころにその場から姿を消すのだった。
◆◆◆
ソール連邦某所。
「先生、おはよう!」
「元気になったんだ!」
「一緒に遊ぼう!」
「みんな、おはよう」
彼らの姿は遠く離れた孤児院にあった。
あれから、全員を転移で孤児院に連れてきたゼイン。
周囲の様子が変わって怯える子供たちだったが、続く彼の言葉で少しずつ状況が飲み込めていった。
「ここはソール連邦の俺が運営している孤児院。お前らはあそこで軍と一緒に死んだことにして、今日からここで生活してもらう。身分なんかは適当に用意させるから」
「……それは、君の迷惑にならないのかね?」
「迷惑? それならとっくに被っている。多少増えたところで、今更これぐらいどうってことない」
不機嫌そうに告げたゼインだったが、彼らの心配を和らげるためか、他の孤児院の子供たちを呼ぶ。
「あぁ、ユーグやニネットも戻ってきてたのか。――ちょうどいい。お前たちにも紹介しよう」
そう言って、似た世代の子たちから、もっと小さな子供まで、孤児院のほぼ全員を呼び集めてきた。
その中には当然職員のドミニクもおり、一人だけ目立つ男性に目を留めた。
「えっ? 彼って確か、防衛軍第三師団中隊長のディックさんじゃなかったかしら?」
「そうなのか? 名前を聞く前に処分して来たから、どこのどいつなのか聞きそびれていたな」
「……それ、オーギュストさんの仕事が増えるだけだから、やめなさいってあれほど言ったわよね?」
目の据わったドミニクによってどこかへ連れて行かれるゼインの光景に、新顔の子供たちは困惑していた。
孤児院の子たちは、いつものことかと呆れ顔だった。
「――っと、そうだ。お前はこれからここの職員として働け。それがお前らを助けた見返りだ」
それだけ言い残すと、ゼインはドミニクによってお説教を受けるのだった。
その後すぐ気絶したディックだったが、回復した今は彼の言葉に従って、連れてきた三十人の子供と一緒に孤児院で過ごしていた。
「……『悪鬼』。彼は噂ほど冷酷な人物ではないのかもしれないな」
助けた子供たちに手を引かれながら、ディックはぽつりと零した。
空は澄み渡り、深い青色を覗かせていた。
奇襲しようとして奇襲される……滑稽ですね。




