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56話 英雄の芽吹き × ◆

作者としては、そこまで鬱っぽくないかな?とは思いましたが、最後のレポート部分が人によっては苦手かと思いましたので、「×」を付けました。

他は、1話とそう変わらないと思うのですけど、どうですかね?

聖法歴 1018年2月20日



 度重なる実験により、ゼインの髪色が真っ白になっていた。

 真っ赤な髪が徐々に色()せていく様に、幼子たちは心配そうにしていた。

 その度、問題ないとぞんざいな物言いをするゼイン。

 一時期形見のように髪を切られ短くなっていたが、今ではすっかり顔を隠してしまうほど伸び放題だった。


 ゼインの姿は未だ()()姿()を保っていた。

 というのも、本命である実験の前に、いろんなデータを取っておきたいと話すエタンによって、そういう類の実験が先延ばしにされていたからだった。

 魔力適性の向上を目的とした実験、肉体の強度を底上げするための実験、魔法耐性や薬物耐性といったあらゆる耐性を獲得するための実験、魔力量の増強を目的とした実験等々――。

 時には投薬、時には外科手術、時には魔法や魔力を用いた改造、時には魔獣の臓器の移植――。

 今は人間の状態でどこまで強化できるかを調べており、それもほぼやり尽くしたといってもよかった。


 そこまでして得られた結果は、エタンからするとあまり芳しくなかった。

 彼曰く「豪勢なゴミ」と揶揄(やゆ)されており、得られデータには満足していたが、結果は甚だ不満だった。

 実験前と比べると、今のゼインは魔力量が倍、得られた魔法適正も炎・氷・雷、肉体強度や耐性もそこいらの大人以上は獲得していた。

 それだけ聞くと良い成果にも聞こえたが、元の魔力量が貧弱過ぎて倍といっても初級者レベル、上位属性もただ生み出せるだけで操作は効かず、肉体に至っては成長につれて弱体化――元に戻ってしまっていた。


「やはり、子供相手だとそう上手くいかないのか……」

「ならやめるか?」

「馬鹿を言わないでもらいたい。ここまで来て止めるだなんて、そんなこと、できるはずがないでしょう」


 エタンの言葉にゼインは肩を竦めるだけだった。


「そもそも、なぜ適性が“生成”しかないのです! 折角の上位属性が台無しじゃないですか!」

「俺に聞くな。お前が()()()()属性を捻じ曲げようとしたからじゃないのか?」

「くっ――」


 図星を突かれて苦々しげに顔を(ゆが)めるエタン。

 本来なら他の子供で試したいところだったが、それができない状況に陥っていた。


(こんな事なら、カルムと別れるべきではなかったですね。彼女がいなくなって、下手にゼインを野放しにできなくなりました)


 内心毒づくエタンは、半年ほど前、こちらはもう大丈夫とカルムの助力を絶っていた。

 彼女の彼女で他にやることがあると、しばらくこの孤児院を訪れていなかったのだが、中と外を行き来することのできる結界に()()が生じていた。

 そのことに気付いているのはエタンと、――ゼインだけだった。


 ゼインは気付いていながら、それを黙っていることを交換条件に、他の子供たちへの手出しを禁じていた。もし仮に破れば、今すぐにでも結界を壊し、助けを求めるとも。

 忌々しかったが、エタンはその条件を飲むしか他になかった。

 幸い、実験そのものへは未だ協力的で積極的な節もあったので、ここまでずっと続けてこられていた。

 ゼインが何か企んでいるとは知りつつ、()()もかけているので大丈夫だと、エタンは心を落ち着かせる。


 今日はその大詰め。

 最終試験前の、大事な大事な適合試験だった。



 ◆◆◆



 研究室の施術台に寝そべり固定されるゼイン。

 真っ赤な溶剤を手に彼を見下ろすエタン。


「今日はこれを貴方に投与します」

「なんだそれは?」

「これは()()()()から作った製剤です。今までの出来損ないたちは、これと適合せず異形と化しました」


 エタンの物言いに顔を(しか)めて(にら)みつけるゼインだったが、注射の準備をする彼はどこ吹く風。小さく舌打ちを零したゼインは、ふと、その血の出所が気になった。


「……その血は誰の血だ」

「あぁ、これですか。これはヴェスタルの血ですよ」


 口を突いた言葉で、ゼインは驚愕(きょうがく)に染まる。すぐさま憤怒の形相でエタンを射殺すかのような目をした。

 それに気付いたエタンは、軽く思い出したかのように呟いた。


「……あぁそういえば、貴方と仲が良かったんでしたか。もしかしたら適合するかもしれないですね」


 これは期待できると、一ミリも痛痒(つうよう)を感じていない彼に、ゼインは腹立たしげに鼻を鳴らした。――ただ一点、とある事実を勘づかれまいと顔を歪めたままで。


 そうこうしているうちに準備が整った。

 始めると告げるエタンは、ただ淡々とゼインの腕に針を刺す。

 シリンダーが押し込まれ、真っ赤な薬剤が彼の体へ侵入する。

 途端、ゼインは大声で叫び声を上げた。


「があ“あ”あ“あ”あ“あ”――!!!」


 体に激痛が走り、血管が拒絶するように浮かび上がる。

 心臓もはち切れんばかりに鳴り響き、滂沱(ぼうだ)の汗が全身に浮かび上がる。

 四肢を(つか)む固定具が、今にも千切れんばかりに揺り動かされる。


 またダメか――。


 エタンの失望した表情が浮かぶ。


 そんな中、ゼインは奥歯を噛みしめ、必死になって己の中の奔流を宥めすかしていた。

 侵入した異物は、彼を()み込まんと暴れ回り、彼を苦しめる。

 一秒が何倍、何十倍にも引き伸ばされた感覚に陥る。

 激痛のあまり、目の前が歪み、真っ白になっていく。


 意識を手放しかけたその時、彼の脳裏にとある少女たちの姿が映った。

 少女たちは、ただひたすらに笑顔で手を振るだけ。

 声もなく、音も届かず、ただ情景だけが浮かぶ。


 在りし日の記憶(幻影)――。望んだ先の残光()――。


 その光景に、彼は唇を噛みしめ、正気を取り戻す。

 鉄の味が(ほの)かに香る。

 (くら)む視界が、ぼんやりと像を結ぶ。

 ゆっくりと瞬きをすると、そこにあるのは薄暗い研究室だった。


「はぁ……、はぁ……、はぁ……、はぁ――」


「ははははっ! やりました、やりましたよ!! 実験は成功です! まさか、貴方が適合するだなんて、思いもしませんでした!!」


 荒い息をするゼインに、狂喜乱舞したエタンが陶酔したまま天を仰ぐ。

 虚ろな目を向けた後、ゼインは己の掌を見つめた。


「――――」


 異物感は残るものの、他に変わったところのない自分に、安堵の息を零した。

 疲れたように台に背を預けたゼインは、狂い踊るエタンを見つめながら、固定具が外されることを待ち続けた。



 ◆◆◆



 その日を境に研究は佳境を迎えた。

 ひと月に一度のペースで同じ注射を施され、その度に激痛が走る。

 他の日はほぼほぼ経過観察で、追加の実験はほとんどなかった。


 そして、ゼインは二度目からは叫び声を上げなかった。

 痛みは感じるのだが、一度目ほどではないと。

 全身を駆け巡る異物感が次第に薄れてきたと、報告する。


「貴方に力が馴染んできた証拠です。そのうち、力を授けられるでしょう」


 適合したと分かってからというもの、エタンは気持ち悪いぐらいに上機嫌だった。

 ゼインの疑問にもよく答え、口の滑りもよかった。ただし、核心的な質問には口を(つぐ)む分別は残っていたのだが。


「力って何の力だ?」

「『偽神』の力です」

「それってどんなものだ?」

「――おっと、これ以上は仕上がってから、ですね」


 今回も多少話し過ぎたエタンだったが、この程度は問題ないと割り切る。

 もっと情報を引き出したかったゼインだが、流石にこれ以上突っ込んで警戒される訳にはいかないと、肩を落とす。

 そのままいつも通り、術後の確認と経過観察を行い、来たる日まで虎視眈々(こしたんたん)と待つのだった。



 ◆◆◆



聖法歴1018年8月11日



 今日が実験の大詰め。

 これがエタンの悲願達成目前となる、大事な日であった。


 ここ半年続けてきたように、ゼインは施術台に体を預け、四肢を固定される。

 エタンが緊張した面持ちで、腕に注射器を刺す。

 高鳴る鼓動を抑えつつ、震える指に力を入れていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと真っ赤な液体がゼインの体へと注がれる。

 彼はそれを、静かな顔で見つめていた。


 先月から痛みはもうない。

 異物感も当に消えていた。

 ただあるのは、冷たく駆け巡る薬剤と、温かな血潮だけ。

 ゼインはゆっくりと目を閉じて、最後の祈りを胸中に抱く。


 ――大切なものを守れる力が欲しい。


 ――何人にも侵されぬ体が欲しい。


 そして――。



 ――皆を救える、強さが欲しい。



 彼の願いに答えるように、体から紫炎が巻き上がる。


「おぉ! ついに!!」


 目を輝かせ、歓喜に打ち震えるエタン。

 ゼインが目を開けると同時に炎も鳴りを潜める。

 彼の瞳は紫炎に染まっていた。


「ついに、ついにこの時がッ!!」


 喜び勇んで近寄るエタンに、ゼインが言葉を掛けた。


「――喜んでいるところ悪いが、お前には退場してもらう」


 冷たい声を発するも、エタンは嘲笑を浮かべるのみ。


「ははっ、そうだろうと思っていたさ。私が何も対策していないとでも? ――愚か。ちゃんと、私の命令に従うよう改造済みだよ!」

「そうか。――なら、命令してみろ」


 言葉と同時に拘束具を壊し、エタンに迫るゼイン。

 すぐさま飛び退いてエタンが無慈悲な命令を下した。


「“今すぐ止まれ!” そして、”子供を半分殺してこい!”」


 空振ったところで動きを止めるゼイン。

 その態度に、エタンがにやりと邪悪な笑みを浮かべた。

 ゆっくりと姿勢を正し、ゼインは(きびす)を返す。


「よしよし。そのまま適当に間引いて来い」


 手を払い除けるように振ったエタンは、次の瞬間、驚愕に身を固める。

 再び立ち昇る紫炎。

 振り返ったゼインは、紅い線を引きながらエタンに迫っていた。


「ごふっ――。な、なぜ私の命令に背ける!?」


 吐血しながら叫ぶエタンに、ゼインは冷たく言い放つ。


「悪いが、俺に()()()は効かないようだ」

「なっ!? さっきは動きを止めていただろう!!」

「思わず立ち止まっただけで、お前の命令はもとより届いていない」

「なっ――」


 絶句するエタンだったが、ゼインが腕を引き抜いたことで体を地に臥せる。

 呆気ないと思ったのも束の間、エタンから黒い(もや)が飛び出し、人を形作る。


「クソッ、あのまま男と一緒に死ねるかってんだ」

「なんだ、本体がいたのか」

「余裕をこいていられるのも今のうちだ!」


 吐き捨てる黒い靄は、たちまち人の姿に一本の角が生えた――中級悪魔の姿をとった。


「チッ、まさか手に入れた権能が『改変の理』だなんて……ついてない」

「――ほぅ、この力はそう呼ばれているのか」


 双眸を赤紫色に染め、瞳孔まで見開いたゼインが、底冷えする声と共に掌を悪魔に向ける。

 途端、悪魔を覆い尽くす球体状の結界が現れ、中に閉じ込めてしまった。


「なっ!? 餓鬼が、いっちょ前に空間魔法を使いやがって!!」

「なら、その餓鬼に閉じ込められて逃げられないお前は、()()()だな」

「貴様ッ!! 俺を誰だと思っている! 俺は中級あ――」


 悪魔の言葉はそこで潰えた。

 聞くに堪えないと、ゼインは手を力いっぱい握りしめ、それと同時に空間が一気に収縮してしまった。

 残ったのは範囲外にあった角だけ。

 それが自由落下し、虚しく音を立てる。


 諸悪の根源を消せたと確認したゼインは、振り上げた拳をゆっくりと解く。

 そのまま落ちるに任せてだらりと腕を振った。

 目を閉じて、静かに息を吐く。

 後はこの部屋と奥の後始末だけだ、と動き出そうとして、僅かに聞こえた吐息に後ろを振り向く。

 そこには、血溜りに横たわったまま、虚ろな目を向けるエタンの姿があった。


「……まだ息があったのか」


 憑依(ひょうい)されていただけだったのか、はたまた己の意志だったのか――。

 どちらなのかはゼインのあずかり知らぬところだったが、念のため、警戒しつつ彼に近づく。

 エタンは風前の灯火ながら、悔恨の残った表情で眉を下げていた。


「……すまなかった、ゼイン。君を、ここまで苦しめて。ここまで、子供たちを狂わせて」

「なら、どうしてこんなことをしたんだ?」


 一歩離れた位置で見下ろすゼインは、冷ややかな態度を崩さない。


「……すまな、かった。……みなを、……たすけ、て……くれ、て……あり、が、と――」


 僅かに上げられた手は、ぱしゃりと音を立てて血に沈む。

 そっと近づいて首筋に手をあてると、すでに脈動はなかった。


「……」


 しかめっ面を浮かべたゼインは、立ち上がり、踵を返して奥の部屋へと進む。

 彼の足跡は真っ赤に染まっていた。



 ◆◆◆



 今まで立ち入れなかった奥の部屋。

 そこにある資料を手当たり次第に読んでいくゼイン。

 いくつか有用そうな情報もあったが、どれも残すべきでないと、無造作に床へと投げ捨てる。


 そのうちの一つ、一枚の研究レポートが目に留まる。

 それは、魔獣の臓器を移植した際の実験結果が記されており、ゼインの名前と魔獣の数々が記され、いくつもの取り消し線が引かれていた。


「……」


 羅列された魔獣を一通り確認したゼインは、すっと目を細めて、そのレポートを炎で燃やした。

 それをぞんざいに投げ捨てると、部屋の中は火に包まれる。

 揺らめく影を背に、ゼインは部屋を後にする。

 火が部屋のあらゆるものを呑み込み終えると、一瞬にして中が伽藍洞(がらんどう)になるのだった。



 ◆◆◆



 証拠隠滅を図ったゼインは、一人孤児院の隅を歩いていた。

 そこは建物の影になり、いつも薄暗いため、子供たちが寄り付かない場所だった。

 彼はおもむろに、かざした手を優しく握る。

 たちまち土が(えぐ)れ、人一人分の穴が生まれた。

 そこへもう一方の手を差し伸べると、どこからともなく一人の男性の遺体がそっと現れた。

 上に静かに土をかぶせ、小さな石を置く。

 最後にしばし目を(つむ)ると、踵を返してその場から去っていった。

 後には鳥のさえずりだけが残された。



 ◆◆◆



 孤児院の奥、子供たちが身を寄せ合っている場所に、ゼインはゆっくりと近づいた。

 小さくノックをすると、しばらく経った後、恐る恐る覗く顔が現れた。


「――終わったぞ」


 始め、少年少女はその言葉の意味を呑み込めなかった。

 彼らの困惑する様子に、ゼインは優しい声音で言葉を続けた。


「約束を果たしてきた。もう、(おび)える必要はない。全部、お兄ちゃんたちが、解決してきたんだ」


 扉の隙間から覗く瞳が大きく揺れる。

 そんな彼らに、ゼインが柔らかな笑みを浮かべた。


「……ほんとう?」

「あぁ、本当だ」

「ゼインおにいちゃんも、ぶじなの……?」

「あぁ、もちろんだ」

「ほんとうに、ほんとう?」

「あぁ、本当に本当に、本当だ」


 そう言って、ゼインは小指を差し出した。

 その途端、扉は勢いよく開く。

 飛び込んできた少女を、ゼインは優しく包み込む。

 泣きじゃくる少女をあやしながら、続く少年少女たちも彼へと詰め寄った。


 脅威は去ったと彼らが信じるまでに、そう時間は必要としなかった。

 泣き止まない少年少女と、仕方なさそうに微笑むゼインは、その日一日中、気の済むまで抱きしめ合い、互いの温もりを感じていた。


 孤児院の頭上には、雲一つない青空が広がる。

 真っ青なキャンパスに七色の橋が掛かっていた。


要約

孤児院で非人道的な研究がなされる。

上の子たちが下の子たちを守るため、研究に志願する。

ゼインがヘーゼルティンを亡くしたショックにうちひしがれている(1年以上)。

日記の少女アニェスがゼインに助けを求める。

今まで知らなかった己の不甲斐なさと、非人道的な研究に憤り、自分を犠牲に他の子供たちを守ろうと志願する。

気まぐれだったが、ゼインは助手としても意外と有用だと気付き、他の子供たちへの手出しが減る。

ゼイン、白髪になる。

実験の成果で、魔力量が倍、炎・氷・雷属性を手に入れる。

「偽神」の力と適合する。

徐々に「偽神」の力を入れられる。

規定値に達し、「改変の理」を手に入れる。

諸悪の根源を倒し、孤児院に平和が訪れる。


以上、要約でした。

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