54話 儚い泡沫 ×
※注意!
少々ネタバレですが、先に忠告しておきます。
この後三話ほど、胸糞悪い話が続きます。
マイルドに表現していますが、それでも苦手な方は読まないことをおすすめします。
「展開の要約」をタイトルに「◆」をつけた「後書き」に書きますので、ざっくりとした内容だけ知りたい方は、そちらをご覧ください。
※地の文章では読み難いので、ルビを多用しております。いつも以上に読みにくいですが、ご了承ください。
いつからかな。
このにっきをひらかなくなったのは……。
もう、そんなことすらおもいだせない――。
◆◆◆
聖法歴1014年3月9日
今日はわたしがこじいんテンパランスにあずけられた日。
ゆいいついた家族のお母さんも病気でなくし、身よりのないわたしは、パルミエのまちに近いこじいんにあずけられることになった。
ふあんと悲しみでいっぱいだったけど、みんなやさしく出むえてくれた。
だって、みんなもにたようなけいけんをしていたから。
上は十二才から下は三才までいた。
いろんな年の子供がいたけど、全部で三十人ぐらいいた。
それでもしょく員はたったの三人だけだった。
一人目はこのこじいんの院長先生のやさしそうな男の人。茶色いかみに白衣を着ていた。
二人目はよぼよぼのおばあさん。真っ白なかみにこしは曲がっていたけど、やさしそうな顔をしていた。
三人目は少しぽっちゃりとした女の人。男の人のおくさんかと思ったらちがうみたい。でも、仲は良さそうだった。
その日は小さなかんげい会をしてくれた。
やさしいみんな、温かなベッド、明るい空気。
どれも、今のわたしにはなみだがこぼれた。
その夜は久しぶりにゆっくりとねむれた気がする。
聖法歴1014年6月30日
このこじいんにもなれてきたころ、とある男の子のたん生日が開かれた。
ここではたん生日の子を一か月まとめておいわいしていたけど、今月は一人だけだった。
三十人もいてめずらしいと思ったけど、みんなだいたいたん生日が分からなくて拾われた日っていってたから、おかしくないのかもしれない。
多いのは十一月、十二月。
冬の前にすてられる子が多いからだ。
ここもそこまでゆう福ではないけど、院長先生のお仕事のおかげでなんとか運えいできているみたい。
その院長先生の息子が今日の主役だった。
赤いかみの毛と赤い目がすてきな男の子。
目の色は院長先生そっくりだった。
近くの道場に通っているみたいで、もう一人の女の子もいっしょに通っているみたい。
その子も私と同じく親をなくしたみたいだけど、今はそこに引き取られて元気にしているんだって。
ヴァネッサお姉ちゃんがそう言っていた。
わたしはふーんって思ったけど、お姉ちゃんはうらやましそうにしていた。
聖法歴1014年9月6日
今日はやさしかったソランジュ先生がなくなった。
ちっちゃい子たちはよく分かっていなそうだったけど、ほかのみんなはないていた。
わたしも、半年ぐらいだったけど、ずっとやさしくしてもらっていたから、みんなといっしょにないてしまった。
ちっちゃい子たちが心配そうにしていたけど、大じょうぶだよって言ってあげた。
聖法歴1014年9月10日
今日から院長先生が、みんなのためってお薬を用意してくれた。
みんないやそうにしていたけど、ためしに飲んでみたら苦くなくて飲みやすかった。
院長先生はわらいながら、「そろそろ寒くなるからね。かぜを引かないように、飲みやすいお薬にしたんだよ」って言っていた。
ソランジュ先生がいなくなって、こじいんがいそがしくなるから、みんな手つだおうって言っていたから、そのためかもしれない。
上の子たちが飲んだのを見て、ちっちゃい子たちも意を決して飲んでいた。
みんな、苦くないってびっくりしていた。
その日から、みんなで家事のお手つだいを始めた。
カルム先生も「助かるわ。ありがとう」って言っていた。
聖法歴1014年11月14日
今日は新たな家族をむかえた。
その子はまだ四才ぐらいだったから、ずっとないていた。
みんなで元気づけていたけど、なかなかなき止まなかった。
カルム先生でもダメ。でもなぜか、ヴァネッサお姉ちゃんにはなついていた。
その後もずっとべったりとくっついていた。
……ちょっぴりうらやましかったのはナイショだ。
そうそう。
院長先生のお薬はよくきいていた。
いつもならこの時期になると、ちっちゃい子たちがねつを出したり、かぜを引いたりするってお姉ちゃんたちが言っていた。
今年はめずらしく一人だけだったっておどろいていた。
聖法歴1014年12月28日
今日は年こしに向けた大そうじ。
人手が足りないと思ったけど、近くに住む元こじいんの人たちが助っ人に来てくれた。
数人だけだったけど、それでもすごく助かった。
とくに茶色いかみの女の子が一番はり切っていた。
見た目いじょうに力持ちだったみたいで、その子を知っていたお姉ちゃんたちもおどろいていた。
一番さいごにこのこじいんを出ていった子みたいで、他のみんなとも気さくに話していた。
私もちょっとだけ話したけど、元気で明るい子だった。
「今度来る子もおねがいね」って言っていたけど、また新しい家族がふえるのかな?
聖法歴1015年1月17日
今日も新しい家族をむかえ入れた。
今度の子も四才か五才ぐらいだったけど、見た目いじょうにしっかりとした子だった。
ピンクのかみでまん丸の青い目がかわいい女の子だった。
おとなしい子だったけど、あまり人見知りはしないみたいで、赤いかみの男の子が話しかけてもこわがる様子はなかった。
みんなとも話せていたし、いい子だった。
お姉ちゃんたちは、そんなみんなの様子をやさしい目で見守っていた。
聖法歴1015年2月12日
さいきん、お姉ちゃんたちの様子がへんだ。
あまり元気がなさそうで、つかれているようにも見えた。
大じょうぶ?って聞いても、大じょうぶって答えて頭をなでられた。
大すきなヴァネッサお姉ちゃんも、さいきんは部屋に引きこもっている。
元気づけてあげたいけど、今はそっとしておいたほうがいいってカルム先生が言うから、そうしてる。
元気になったら、またいっしょにおりょうりを作るんだ。
聖法歴1015年3月31日
今日はわたしのたん生日!
本当のたん生日は一日だけど、まとめておいわいするから一か月はすぎちゃった。
……でも、ざんねんなこともあった。
いっしょにおいわいされているガストンお兄ちゃんやコレットちゃん、ロジーちゃんがいるから、あまり大きな声では言えない。
でも、せっかくのおいわいの日なのに、ヴァネッサお姉ちゃんはもういない……。
わたしの知らないうちに里親に出されていたみたいで、おわかれの言葉も言えなかった。
カルム先生も「急だったから、仕方ないわよ」って、悲しそうに言っていた。
どこに行ったのか聞いても、教えられないってしか言わない。
意地悪じゃなくて、そういうルールなんだって。
もやもやしたけど、すぐにおたん生日があったから、顔には出さないようにした。
でも、一言ぐらいあってもよかったのに。
ヴァネッサお姉ちゃん、わたしのこと、わすれちゃったのかな……。
聖法歴1015年4月28日
今日は遠くですごい音がした。
お皿をあらっていた時だったから、びっくりしてコップを落としちゃったけど、わたしい外にもにたような人がいたからセーフだった。
何があったのかかくにんしてきたカルム先生が、赤いかみの男の子といっしょに帰ってきた。
どうやらかれの通っている道場でじこがあったみたい。
そのショックで落ちこんでいるらしいんだけど、男の子は気が抜けたように動かなかった。
手を引かれれば歩くんだけど、声をかけても体をゆさぶっても反のうがなかった。
よっぽどのことがあったみたいで、もぬけのからになっていた。
ごはんもまったく手をつけないから、むりやり食べさせるしかないってなった。
その日から、お姉ちゃんやお兄ちゃんたちが交代で男の子、ゼインくんのお世話をすることになった。
わたしも一才年上のお姉ちゃんだから、お世話たん当に入っていた。
聖法歴1015年5月30日
一か月たっても、ゼインくんの様子はかわらなかった。
何もしないでただぼーっとしてるだけ。
ごはんもおふろもねることでさえ、自分じゃ何もやらなかった。
一度、わたしがおこってほっぺたをたたいてしまったけど、それでもなんにも反のうしない。むきになって体をつきとばしちゃったけど、ただたおれて空を見上げるだけだった。
カルム先生におこられてあやまったんだけど、それでもなにも声を出さなかった。
気味悪がっていたら、それいこう、わたしはたん当から外された。
うれしいと思ったけど、その分お姉ちゃんたちにめいわくかけてしまったと、後で後かいした。
聖法歴1015年7月15日
さいきん、お姉ちゃんたちを見なくなった。
ごはんの時にはいるから、ヴァネッサお姉ちゃんみたいにどこか行ったわけではないけど、それい外のときにはどこにも見当たらなかった。
カルム先生は十才い上だから学しゃに行ってるって言うけど、休みの日や夜もいないのはへんだ。
お姉ちゃんたちに聞いても、なんでもないって言って教えてくれなかった。
わたしたちにナイショで何してるんだろ?
聖法歴1015年8月27日
今日は同じ部屋のマリーことマルスリーヌちゃんも見かけなくなった。
同い年だから学しゃにはまだだし、夜にはもどってきていた。
ただ、ごはんには来なかったから、どうしたのって聞いたら、「ちょっとねこんでただけ」って言っていた。
でも、お昼にこの部屋やきゅうご室も見たけど、だれもいなかった。
うそをついているのは分かっているけど、それい上話したくないって言ってねちゃった。
どうしても気になるから、明日はマリーやお姉ちゃんたちの後を追ってみることにした。
聖法歴1015年8月28日
ごはんの後、クロエお姉ちゃんをたまたま見かけたから、後ろをこっそりついて行くことにした。
行き先は入っちゃダメって言われている院長先生の研究室だった。
その中にまよわず入っていくお姉ちゃんを見つけると、わたしも後を追おうとして、とびらが開かなかった。
どうしようかと思っていると、中からセイラムお兄ちゃんがあらわれた。
「なにしてたの?」って聞くと、あわてたように「何でもない」って答えた。
「クロエお姉ちゃんも入って行ったのに!」ってつたえたら、しわをよせて「院長先生の手つだいをしていた」って教えてくれた。
「わたしも手つだう」って言うと、すごく大きな声で「ダメだ!」って言うもんだから、びっくりしちゃった。
すぐあやまってくれたけど、声を聞きつけたカルム先生にしかられてしまった。
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが何してるのか気になっただけ」って答えると、少しだけ考えたカルム先生が「教えてくれる」って言った。
セイラムお兄ちゃんがダメだって叫んだけど、カルム先生がお兄ちゃんを目だけでだまらせた。
そのときの先生の目は、今までに見たことないほどつめたくてこわかった。
わたしは、その後、お兄ちゃんといっしょに院長先生の研究室につれて行ってもらえることになった。
その中を見てしまったとたん、わたしは自分の言葉を後かいした。
聖法歴1015年9月13日
わたしもお姉ちゃんたちの気持ちが分かってしまった――。
院長先生のお手つだいを始めてから、ほとんどその部屋ですごすことがふえた。
そこでは目をつぶりたいことばかり、耳をふさぎたいことばかりで、いたくてつらくて大へんで、にげ出したいと思ったことも何度もあった。
でも、そのたびに、院長先生が「他の子に代わってもらいましょう」って言うから、わたしはにげられなかった。
「あなたみたいにせっきょくてきにさんかしてくれる子が、他にもいるといいんですけどね」なんて、下の子たちもまきこもうとするたびに、わたしが手を上げるしかなくなる。
お手つだいをしているみんなも、わたしとおんなじだった。
どれだけつづくか分からないけど、少しでも下の子たちには悪まの手がのびないよう、少しでもみんなが幸せになれるよう、歯を食いしばるしかなかった。
ごはんのたび、「どうしたの?」って聞いてくるじゅんすいな子たちを守らないと――。
きっとお姉ちゃんたち、お兄ちゃんたちも同じ気持ちなんだと思う。
聖法歴1015年10月31日
今日はだれかのたん生日会だ。
でも、わたしたちはこのじごくの部屋ですごす。
わたしはまだいいけど、もっと前からいたお姉ちゃんやお兄ちゃんたちは、すでにげんかいに近かった。ゼインくんのようにうつろな目をして、受け答えもはっきりしない。
もしかしたら、ゼインくんも同じなのかもしれない。
でも、あの子はもっと前からだったから、またべつなのかな?
むすうのなまきずを見ながら、そんなことを考えていた。
聖法歴1015年11月8日
今日はやさしかったセイラムお兄ちゃんが死んじゃった……。
だれよりもゆうかんで、だれよりもがまん強い、かっこいいお兄ちゃんが。
きずだらけのうでに、おぞましい何かがつきささった体を、あろうことか、あの男はそのへんに放りすててもやしてしまった。
その光景を見たみんなもおこっていたけど、まったく気にしていないあの男は、いつものようにじっけんを始めると言って薬やきかいをわたしたちにさした。
みんな、なみだと悲鳴をぽろぽろとこぼし、歯を食いしばっていた。
終わった後に、のこったはいをみんなでかき集めて、そっとこじいんの外へとばしてあげた。
次、生まれかわったら、幸せでありますようにとねがって――。
聖法歴1015年12月19日
今日も一人、死んじゃった……。
代わりとばかりに、このじごくに新しく一人つれてこられた。
その子もなきながらたえていたけど、見ていられなかった。
このへやにはずっと六人がとじこめられていた。
じっけんにさんかしているのはその倍だったけど、みんな、こじいんにはもどらない。
だって、ごまかせる体じゃなくなったから。
うでもきずだらけ。顔色もわるい。人によっては、体にうろこや角、こうかくが出ているのだから。
わたしはまだ服の下にうろこができただけ。
でも、きずあとや顔のぐあいがわるいから、じっけんじゃないときも、となりのきゅうけいしつにとじこもっている。
さんかしている子は、今はもう十さいか九さいしかいない……。
あとは八さいい下の子しか、こじいんにはのこっていないのに――。
聖法歴1016年2月2日
今年はわたしたちが年長になった。
同しつの子も、今はもういない。
ついに、一つ下の子までかりだされるようになった。
こじいんには、あとどれだけ人がいるんだろう……。
さいきんはもう、みんなのかおを見ることすらままならない。
ここにはじめてくる子たちも、おびえながらもかくごの決まったかおをしていた。
たぶん、子どもながらに、よくないふんい気をさっしているんだとおもう。
……でも、ごめんね。
わたしたち、まもってあげられなくて――。
聖法歴1016年3月10日
もう、わたしがいちばん年上だ。
下の子も、わたしよりさきにたびだっていく。
どうしてなの……。
じゅんばんなんだから、わたしよりさきに行かないでよ――。
聖法歴1016年4月4日
二つしたの子だ。
あれ、みっつだったっけ?
でも、あの子はまだみてないな。
赤いかみのおとこの子。
なまえは――、そう! ……なんだっけ?
聖法歴1016年5月11日
おねえちゃん、どこ……?
いっしょ、っていったのに――。
かぞ、くなんだ、から――。
聖法歴1016年6月 日
……ねぇ――。
おねがい、もう、きみだけ、なの……。
A“”=$‘!’!)!“
……………
こじいんのにわでうつろろなひょうじょうをうかべるおとこのこをみつけた。
わたしはさいごのちからをふりしぼって、かれにこえをかける。
「……げんき?」
こえをかけてもはんのうはない。
いちねんいじょう、ずっとそうだった。
でも、わたしがいなくなったら、あなたがいちばんになるの。
だからおねがい、みんなをたすけて――。
わたしのてが、かれのあたまにふれる。
きれいなあかのかみが、そよそよゆれる。
しずかになでてもはんのうはなかった。
もう、だめなのね――。
あきらめかけたそのとき、ゆっくりと、でもたしかに、かれのめがわたしをみすえていた。
「ぇ……、ぃ……」
いみのないおと。
それでも、わたしには、かれのことばがきこえてきた。
「ごめんね、わたしはそのひとじゃないの。……でもね、おねがい」
わたしのしかいはゆがむ。
もう、げんかいみたい……。
「――みんなを、かぞくを、たすけて。おねがい……」
くらくなるしかいのなか、そのことばがとどいたかどうかだけがきがかりだった。
プレビューで見たら、あまりの読み辛さに笑ってしまいました。
今回だけは、本当にご容赦ください。
これ以外の案が思いつかなくて……。
これ以降は普段通りの文章に戻りますので。




