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16話 ありふれた孤児院の日常

聖法歴1019年5月20日



 孤児院の運動場。


 今日はゼイン兄ちゃんが魔法の練習をつけてくれるらしい。

 最近何かと忙しくて構ってあげられなかったからと、ニネットから聞いた。

 というか、ニネットが久々に会った兄ちゃんを捕まえて強引に決めたんだけど……。

 俺も嬉しいから文句はない。

 心も足も軽く、スキップしながら運動場に行った。



 ◆◆◆



 運動場にはもう人が集まっていた。

 兄ちゃんはまだみたいだけど、孤児院のやつらは全員そろっていた。

 全部で()()()

 ちび達は兄ちゃんがまだ早いって言って参加させてくれないから、ここにいるのは八才以上。

 一番上が十才の俺()()

 その下のニネット達は九才で()()

 八才が()()()

 ちゃっかり七才の子らが混じっている。

 どうしようかと悩んでいると、兄ちゃんが急に現れた。


「……お前たちはまだ七歳だろ。もう少し後になってからだ」


 すぐに気づいた兄ちゃんが七才の子たちを追い出そうとする。


「えぇ~、お兄ちゃんたちばっかずるい~」

「七才も八才も変わんないだろ~」

「おれのほうがこいつより体大きいって」

「わたしもやりたい~」


 やっぱり思った通り、ちび達が騒ぎ出した。


 前に何で八才からって聞いたときも、兄ちゃんは「何となく」としか言ってなかった。

「ちゃんとした理由を言わないと納得してくれないぞ」と言っても、兄ちゃんは「追い出すから問題ない」と聞く耳持たなかった。


 今回もいつものように追い出すかと思ったら、ニネットがちび達の味方を始めた。


「お兄ちゃん、いいでしょ別に。すぐ魔法が使える訳じゃないんだし、私たちの様子を見せるぐらいなら」

「……」


 兄ちゃんはムッとして黙った。

 ちび達はニネットに()()()()()()と騒ぎたてた。

 しばらく黙っていた兄ちゃんがため息をついて、


「――しょうがない。ただし、これからつまらない魔法の話をする。それを黙って寝ずに聞けた人だけだ」


 と言うと、ちび達が嬉しそうに飛びはねて、ニネットにお礼を言っていた。

 ニネットは勝ち誇ったように胸を張って嬉しそうに笑っていた。



 ◆◆◆



 兄ちゃんが持ってきた椅子に全員が座る。

 大きな黒板を背にした兄ちゃんが説明を始める。


「魔法っていうのは、魔力を使って色々なことを出来るようにする技じゅ――やり方だ」


 兄ちゃんがちび達でも分かるように言い換えた。

 誰かが「()()()()ぐらい、わかるよ~」と言っていたが、兄ちゃんがにらんで黙らせた。


「人によって使える魔法は決まっている。適正――その人に合う属性以外は使えない」


 黒板に文字を書き始めた。


「属性は『基本属性』とそれをもっと強力にした『上位属性』、あとはそれに当てはまらない『特殊属性』に別けられる」


 黒板には丁寧に読み仮名を振って書かれていた。


「『基本属性』は四つ。火・水・土・風がある。『上位属性』も四つ。炎・氷・(だいち)・嵐がある。火の『上位属性』は炎、水の『上位属性』は氷といった感じになる」


 縦に並べた四つの属性に矢印を引いて、それぞれ対応する上位属性に先を向ける。


「基本と上位の違いは、ざっくりっと二つある。一つ目が魔力を使う量。基本よりも上位のほうが使う量が少ない。例えば“火属性”と“炎属性”で同じ物を燃やそうとしたら、“炎属性”は()()の炎球で済むものが、“火属性”は()()ないと燃やせない、みたいになる」


 丸の中に火と炎と書かれたものをそれぞれ描いて、真ん中にイコールを書いた。


「二つ目が魔法の規模――凄さが違う。使う魔力が同じであれば『上位属性』のほうが大きな魔法になる」


 今度はコップを二つ描いて、矢印の先に炎マークを大きさを変えて描く。


「『特殊属性』は説明が難しいが、これら以外と思えばいい。身体強化や回復とかも『特殊属性』になる。このあたりは魔道具とかで調べてからだな」


 少し投げやりな説明だけど、説明が難しいから仕方がない。

 俺も、初めは「なんだよそれー」って思っていたけど、使えるようになった今では、説明しにくいってのは分かる。


「で、魔法の使い方だが、魔力を使って必要な紋様を描く必要がある。実際に指で書くんじゃなく、魔力をインクのようにして。実際には目で見えないが、魔力を感じられるようになると、何となく分かるようになる。一応、お手本が書いてある本もあるから、それを見たり、自分で探したり、もしくは自分で作って魔法を発動させていく。――詠唱での補助もあるが、こっちはあまりお勧めしない。時間がかかるし、魔力の消費も多いし、威力や規模も変えられないしでメリットが少ないからな」


 手に持っていたチョークを置く。

 これで説明は終わり。

 兄ちゃんは全員の顔を見渡して、仕方なそうにため息をついた。

 俺も確認すると、ちび達は全員起きていて、期待するように兄ちゃんを見つめていた。


「……分かってる。ちゃんと約束は守る」


「「「やったー!!」」」


 ちび達は全員椅子から立ち上がって喜んだ。

 そのまま実際に魔法の練習に移った。



 ◆◆◆



 魔法の練習をする前に、ちび達の適性を調べることになった。

 残念だけど、うちには調べる魔道具はない。

 代わりに、兄ちゃんが全員の適性を見ることになった。

 我先に調べてもらおうとケンカになりそうだったところを、ニネットが、


「ケンカしたら調べてもらえないよ~。ちゃんといい子だけ、教えてくれるって」


 手を口に当てて、コソコソ話するみたいにちび達に話した。

 ちらちらと兄ちゃんを見ながら、悪だくみしてるみたいに笑って。

 ちび達が慌てて一列に並んだから、さすがとしか言いようがなかった。


「……気持ち悪くなったら言えよ」


 一人一人に兄ちゃんは告げながら、頭にそっと手を置いて調べていく。


「……きもちわるい」

「ふらふらする~」

「……」

「あうあう……」


 調べ終わると、ちび達は全員ダウンしていた。

 調べてもらってるときに倒れそうだった子も、兄ちゃんが支えていたし、終わって顔が青かった子も、ニネットが回復魔法をかけていた。というか、ほぼ全員に魔法をかけた。

 それでも、さっきまでの元気はどこへ行ったのかと思うほど、みんな静かに座っていた。


「まあ、こうなるか」


 分かっていただけに、兄ちゃんはちょっとだけ心配そうにしていたけど、これで無理に魔法の練習に参加できないから良しとしたみたいだった。

 ちなみに、ちび達全員の手には、兄ちゃんが渡した属性の書かれた紙がしっかりと握られていた。


「――皆の魔法を見てやるから、順番に好きに使ってくれ」


 とりあえず、八才組からやることにした。

 まだまだ魔法を覚えたてで、魔力循環をひたすらやっているだけの八才組はまともな魔法を使えない。

 火や水、土の球を作れればいいほうで、出来ない子も半分ぐらいはいた。

 それでも、魔力循環をやって見せて、兄ちゃんが個々にアドバイスをしていた。


「ジェレミは、前よりも魔法の発動が早くなった。この調子で頑張れ。できればもう少し魔力操作を鍛えると威力も増していくだろうから、余裕があればやるといい」


「コレットは、魔力操作は見違えるほどに上手くなったな。魔法も安定しているし、構成もうまい。ただ、発動までにだいぶ時間がかかっているから、そこは要練習だな。肩に力が入りすぎだから、もう少しリラックスしてやればよくなる」


「ギルは、今日の魔法はなかなか調子がいいな。今はまだ弱々しいかもしれないが、恥ずかしがらずに練習していけば、後々皆が驚くほどの魔法になっていく。腐らずに頑張れ」


「フェリシーは、難しい属性なのによく頑張っている。まだ魔法が不安定だからといって気にするな。大きな事故さえ起こさなければ好きにやってみるといい。前言った約束を守っていれば事故にはならないから、どんどん挑戦していけ」


「ヘンリーは――」


 同じように九才組を見ていった。

 九才組も似たような感じだったけど、ニネットは「さっき見せたから」と言って辞退した。

 というか、ニネットはまだ回復魔法しか使えない。

 身体強化も練習中だけど、上手くいってないらしく、まだ発動できない。

 それを理解している兄ちゃんはアドバイスだけしていた。


「ニネットは、回復魔法の上達が早いな。もう魔力酔いの回復まで出来るようになったとは驚きだ」

「まだちょっとしか癒せないけどね」

「それでもだ。身体強化のほうは意識次第で出来るようになると思う。今は全部回復魔法になってしまうんだろ? 癖がついてそっちになってるだけだ。ゆっくりでいいからやっていけ。もしくは、誰か身体強化している人に魔力を流して感覚を覚えるといい」

「……なるほど。うん、わかった」


 少し考えるようにしながらニネットは頷いた。

 最後に俺の番になった。


「ユーグ。お前とは軽く手合わせするか? 最近はそこそこ動けるようになっただろ」

「えっ、いいの!?」

「ああ。俺は反撃しないし、一歩も動かない。一撃入れるか、俺に首の後ろを掴まれたらおしまい」


 思いがけない兄ちゃんの提案にすぐ頷く。

 急いで武器や防具を持ってこようとしたら、兄ちゃんがすぐに転移で運んできてくれた。

 周りから「ずるい」と声が上がったけど、兄ちゃんが「十歳超えてからな」と言ってあしらっていた。

 革の防具着け終わると、みんなから少し離れたところに移動した。



 ◆◆◆



 合図はなし。

 兄ちゃんはいつでもどうぞ、と手をくいっとした。

 息を整えて身体強化を発動する。

 鞘から俺には少しだけ長い剣を抜く。


「おりゃぁぁ――!!」


 勢いよく踏み込んで上段から振り下ろす。

 兄ちゃんは体をかたむけて、ひょいとかわす。

 振り向きながら回転斬りをしても、手首を右手で押さえられて止められる。

 後ろに跳んで剣を構えなおす。

 兄ちゃんは微笑んで余裕そうだ。


「ユー兄がんばれー」

「負けるなユー兄ちゃん~」

「ファイトー」


 みんなが俺を応援する。

 誰も兄ちゃんに勝てるとは思ってないだろうけど、少しでもカッコいいところを見せないとなっ――。

 気合を入れてまた兄ちゃんに飛びかかる。

 斬り下ろしも払いも突きだって、全部兄ちゃんに止められる。

 最初は俺の手を押さえていたのに、今は剣を()()()()()()止めていた。

 何度目のタイミングか――。

 兄ちゃんがまた剣をつかんだ時、俺は剣に()をまとわせる。


「ほう」


 兄ちゃんが驚くような、感心するような声を出した。

 俺の属性は“火”と“風”。

 最近ようやく火の「上位属性」である炎が出せるようになった。

 出せるだけで、あまりうまく扱えないんだけど……。

 兄ちゃんが知らない奥の手で、一矢報いようとした。


「なかなかやるな。でも――」


 ちょっとぐらいは兄ちゃんでも怪我するかと思っていたのに、俺の生み出した炎は、まるで兄ちゃんのモノだったみたいに兄ちゃんの手に集まる。


「えっ、どうして!?」

「まだ教えてなかったが、魔力操作が甘い相手の魔法は、こうやって奪うこともできる」


 そう言って、手に集めた炎が蛇のように()()()()と動き、地面を()()()()とはい回る。


「おお! すげぇー!!!」


 ちび達はそれに大歓喜。


「どうする? まだやるか?」

「……ううん、俺の負けだよ」


 いつもの表情で俺に尋ねた兄ちゃんに、首を振って負けを認める。

 悔しかったけど、やっぱり兄ちゃんは凄かった。



 ◆◆◆



「ユーグ、よく成長したな。まさか『上位属性』を出せるとは思ってなかったぞ」

「出せるだけでうまく使えないけどな」

「それでも、魔法を覚えて数年だからな、十分早いぞ」


 苦笑する俺に兄ちゃんは純粋にほめてくれた。


「この調子で行けば、許可証(ライセンス)を取れる十二歳にはランクB近くまでは行けるんじゃないか」


 兄ちゃんの言葉で心が湧きたつ。

 ニヤニヤが抑えられない。


「皆、これからも頑張るように。相談があれば乗るから遠慮するな。――お前たちはまだだからな。まずは魔力循環から、魔法はその後だ。魔力循環のやり方は上の子たちに聞いて、しっかりと約束を守るんだぞ」


 今すぐにでも始めたそうにしていたちび達に、兄ちゃんが釘を刺す。

 ちぇ~とかの声が聞こえてきたけど、兄ちゃんは無視して俺たちに顔を向けた。


「あいつらに持たせた紙に属性と注意点――約束事を書いておいた。それを見ながら、無理させないよう気に掛けてやってくれ。一応、ユーグに()()を渡しておく」


 そう言って兄ちゃんから一枚の紙を渡された。

 目を通すと、ちび達の属性と注意点がすべて書かれてあった。

 これを見て、嘘をついた子にはしっかりとお灸を据えろってことか……。

 思わず乾いた笑いが出る。


「俺はちょっと外に出てくる。――じゃあな」

「待って!」


 またどこかへ行こうとする兄ちゃんをニネットが止める。


「なんだ」

「……今日の晩御飯には戻ってくる?」


 少しだけ躊躇いながらニネットが聞く。


「――分かった。夕方には戻る」

「うん! 待ってるね」


 兄ちゃんの言葉でニネットが嬉しそうにする。

 そのまま兄ちゃんは転移でどこかへ行ってしまった。

 みんなはそれぞれ分かれてちび達の様子を見に行く。

 俺はニネットに近づいてこう言った。


「良かったな、ニネット。練習していた料理を食べてもらえるぞ」

「うん!!」


 満面の笑みを浮かべたニネットを眺めながら、ちび達の面倒を見る仲間たちを見守った。


過去編、読みにくかったりしますかね?


作者的には時系列無視して書けるので助かっているんですが、読み手側は話がごちゃごちゃするかなぁと思いまして。


伏線やらの関係でこの形式は崩せないかもですが、何かご要望があれば対応したいと思います。年表とか?

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