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飛んできたものが手榴弾であると認識した風の目が見開かれ、頭は状況を冷静に判断し始める。
風に向かって飛んでくるそれは、もう避けることが叶わない位置にある。
ここは? 船内のキッチンカウンター! 特別な設備なんてない。
投げ返す? 現実にできるもんか!
防御? 盾になるものなんてない!
じゃぁ…どうすればいいんだ!?
起死回生の案を考えれば考えるほど、その手りゅう弾が死神の鎌に見えてくる。
少しでも威力を殺そうと、無我夢中に、手に触れたフライパンを投げる。
爆発して飛び散った手榴弾の破片が、爆風と共に風に迫る。ちょうどいい位置に飛んで行ったフライパンがいくらかの破片をガードし、致命傷は避けられた。
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つかの間、自分がどうしてここにいるのか理解できなかった。
一回、二回と瞬きをするうちに、自分の置かれている状況を理解できるようになる。慌てて四肢を動かし、まだ生きていることを確認する。自分の体中に細かな傷ができ、血が滴ってきているが、致命傷には程遠い。
長い時間がたったように思ったが、実際にはほんの一瞬、最後に見た景色から何のアクションも起こっていなかった。先手必勝とばかりに、俺は身をかがめて走り出し、先程の爆発でぼろぼろになったテーブルクロスをカウンターから引きはがす。
カウンターの端から飛び出したその白い影に、無数の銃弾が突き刺さる。
瞬間、俺はカウンターの上から顔を出し、敵を捕捉。テーブルクロスに意識が向いている内に、引き金を引く!
パァン…
乾いた音が反響し、スローモーションで倒れていく軍服姿。完全に脱力して床に落ちたその男と、その下に広がる血だまりを見つめる。
危なかった。一歩間違えば、床に倒れているのは俺かもしれなかった。
そんなことを思いつつ、自身の弾によって倒れた兵士に目礼をする。気を抜いた瞬間、一気に体中を痛みが襲ってくる。
「ったく、手榴弾は痛いって…」
体中を駆け巡る痛みから目をそらすように、風は周りを見渡す。
戦闘が終わり、その爪痕が残るレストラン内。その中に「ビュッフェ」の看板を見つけ、つい引き寄せられそうになる足。意志の力で抑え込み、『ここに乗っているのは軍隊だ、いくら内装が豪華客船でも料理まで豪華なはずがない』と思い込むことで駆けだすことに成功した。…傷口が痛い。
整然と並ぶ個室には目もくれず、足音を殺して走る。意匠の違う扉があると立ち止まり中を確認するが、悉く外れだ。中はもぬけの殻状態。
恐らく大半の人員は一か所に集まっているのだろう。侵入者を迎え撃つにはそれが最も効率がいい。
問題はどこにいるか、ということである。風が行先に迷っていると、イヤホンから声が聞こえた。
『技術部サイバー班より、この船の動力を原子力と推定。各員、船殻と隔壁を破壊後、即座に脱出を』
この指示に、風は迅速に動いた。
まず近くの個室に駆け込み、備え付けのシーツを仕込みナイフで引き裂きロープ状にする。
――ふっ、さっきまでの俺なら、愚直に階段を駆け下りていたんだろうが、今の俺は一味違う。シーツの活用法その一。縄梯子、だ。
そしてデジャヴだ…。さっきもシーツを切り裂いていた気がする。
シーツ印の縄梯子を個室のベランダから垂らし、下の階の部屋の窓へ。その下がもう船殻(船の絵を描いたときに赤く塗る、水に漬かっても浸水しないようになっているところ)になっていることを確認して、階段を探して走る。もちろんクリアリングは忘れない。
少し油断した風が二つ目の角を曲がった瞬間、銃弾が飛んできた。慌てて引き返す。
そのわずかな間に、風の目は、曲がった先に階段があることを捉えていた。
――まぁ、敵も考えることは一緒か。船を沈められては困る、だからここを手厚く守る。恐らくさっき見えた三人以外に、階下とかにも人員は配置されていると考えるべきだ。
その時向かい側から、風と同じ服に身を包んだ人がやってきた。風は、その人に見覚えがあった。名前は知らないが、機動部の仲間である。
手話で意思疎通を図り、二人でタイミングを合わせて、クイックピークの要領で撃つ。
二つ血しぶきが上がるのが見えたので、それぞれ一人ずつ仕留めることができたと考えていいだろう。
三人目も同じく撃ち抜き、背中合わせになって進む。階段まで来ても同じだ。風は途中で、敵の腰から手榴弾をありったけ手に入れた。
ハッチを開けて階下に降りると、既に制圧後だったようだ。船倉を隔てているはずの隔壁には穴が開き、足元には瓦礫と負傷し気絶した敵が転がっている。そのため、風達は船殻に穴をあけることに注力する。船尾に移動し、風の手榴弾と仲間の持っていた爆薬を使って、即席爆弾を作る。一つの手榴弾の安全ピンを抜き、足元の瓦礫でレバーを抑える。十分な距離を取ってから風がその瓦礫を打ち抜き、全力で逃げる。
轟音がして船倉に水が入り込み、船が傾いていく。
二人は階段を駆け上がり、近くのベランダから海へ。船の巻き起こす渦に飲まれないよう細心の周囲を払いながら泳ぐ。陸は、近い。
風達が港へと上がるともう、船を捨てて脱出した多国籍軍と機動部の戦闘が始まっていた。
「Spread out!」という号令と共に、多国籍軍は三人一組のグループ単位で散開する。
コンテナを遮蔽物としながら、うまく距離を稼いでいく。一方でこちらは、指揮系統が混乱している。
船の機関室に入った時から、電波の関係で使うことができていなかったイヤホン。
気が付くとすさまじい量の情報が流れてきており、かなり錯綜していることがわかる。
なぜ指揮系統が混乱しているのか。そんなことを考える余裕もなく、風は、射線が通った敵から順に撃ちぬいていく。九割がた外れるが、そもそも拳銃を使った射撃で、しかもこの距離で当たることの方がまれなのだ。仕方ない。
その間にもイヤホンから聞こえる声は、何一つとして具体的な指示を行わない。
そんな中、駿の一喝が響く。
『技術部は、多国籍軍の捕捉を最優先に。機動部、このコンビナートの先は市街地だ。その間には県道が走っている。そこへ先回りしろ。非常線の構築を急げ! 諜報部も、県道の封鎖に回れ!』
先程までの混乱が嘘だったかのように、静まり返るイヤホン。迅速に走り出す機動部の面々。
幸運にも、多国籍軍は奇襲を恐れてか移動速度が遅い。その間に先回りすることは可能なはずだ。
ふと、風は後ろを振り返った。上甲板では、砲台が中途半端に展開されたまま、煙を上げていた。
――破壊を優先したあの判断は間違っていなかった。後ろから砲撃されては、たまったもんじゃなかった。
ほくそ笑んだ風は、走り出す。
走る中で、その足元がぐらつく。
視界が、暗転した。
(展開がシリアスすぎたかと反省中です…)
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