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01

 無骨なコンクリート造りの建物内。

 LEDの照明が、通路を青白く染め上げている。

 

 カツカツカツ――


 その静寂を破るようにして、足音が鳴る。間隔狭く鳴り響くその音は、足音の主がよほど焦っていることを感じさせる。 ――いや、足音と共に近づいてくるものは、焦りだけではなかった。

 怒気だ。

 通路全体を震撼させるようなすさまじい怒気が、一人の少年から放たれている。

 彼は風のような勢いで歩いてゆき、突き当りのドアの前で立ち止まった。そして蝶番が粉砕するほどの速度でドアを押し開け、中にいる人物に怒声を浴びせる。


 「おい! どういうことだ!? これはさすがの俺も、許さねぇからな!?

  なんで、共用冷蔵庫に入れておいたプリンが、3つとも消えてんだ!? 正直に答えろ!」


 このプリン少年の名は、草薙 風(くさなぎ ふう)。そして今、風に詰め寄られている冴えないおっさんが、実の父親である草薙 唯人(くさなぎ ゆいと)

 風が怒っている理由は単純解明。彼がお小遣いで買ったプリンが、冷蔵庫から消えていたのである。

 そのことに風は激怒し、その疑いの目は、自他ともに認める甘党である唯人に向いた。

 

 「証拠は挙がってんだ! まず一つ。父さんが冷蔵庫を開け、何かを取り出した映像が監視カメラに残ってる!」


 激昂する風。


 「反論。私が取り出したものがプリンとは限らない」


 対し、唯人の態度は落ち着いているように思えるが、そのこめかみに一筋の汗が伝ったことを、風は見逃さなかった。追撃をする風。


 「二つめ。最終処理場に回されるはずのごみの中に、プリンの容器があった。

  そのごみを出したのが父さんだってことは、係の人を通して確認済み」

 「反論。父さんは頼まれただけかもしれないじゃないか!」


 魚のように目が泳ぎだし、半ば逆ギレのようになる唯人。

 そして風は、冷静に返す。


 「三つめ。父さんの口のまわりにはプリンのかすが付いている」

 「なっ!? 口はしっかりと拭いたはずなのに!」


 しばしの沈黙。先に動いたのは墓穴を掘ったことに気が付き、自分の不利を悟った唯人だった。

 瞬時にスーツの上着を脱ぎ、それを風の方に投げつけることで目隠しとする。

 風は即座に身を翻し、体勢を低くすることで視界を確保。そして唯人が入り口の方へと突進して行っているのを見るや、鋭い蹴りを放つ。

 蹴りは唯人にいなされるが、風は同時に煙幕を発生させ、視覚を封じた。


 「甘いな、風!」


 唯人は動じず、捨て台詞を残して入り口の扉をくぐり――そこに張られたテグスに足を引っ掛けて転倒。


 「読めてるよ! 油断したね?」


 部屋に漂う煙が晴れた頃、唯人は縄でぐるぐる巻きにされ、床に転がっていた。

 かくして、この醜い親子喧嘩の軍配は風の方に上がったのである。


 「じゃあ父さん、プリンの落とし前、どうしてくれようか……?」

 「なぁ風、それ、ただの弁償じゃだめか?」


 うるうるした目で風に懇願する唯人(縛られたまま逆さに吊り上げられ中)と、それに全くなびかない風。唯人の人権は、この場に存在しないようだ。ここだけ見れば、完全に親子関係が逆転している。


 「うんもちろん。この前だって、グレードアップして最高級チョコを買ってもらおうとしたら、『この位で、財布が痛むわけないだろ』って高笑いしてたでしょ? ただお金を使わせるだけじゃ意味ない」

 「や、それはそれ。これはこれ。今は金欠」

 「見え透いた嘘を……。まあ最高級フレンチのフルコースは確定として、あとはどうしてやろうか」


 風の無茶に、唯人がため息をついたその時。


 『緊急放送です。

  草薙虎、風両名は至急戦闘準備の後第三会議室へ』


 天井に取り付けられたスピーカーから、放送が流れる。風は即座に廊下へと駆け出した。その時に、テグスの回収も忘れない。

 放置された唯人も、全身の関節を外してあっさりと縄を抜けだす。そして、風の消えた廊下を暫く見つめ、ため息をつく。財布を取り出し、中身の枚数を数える。もう一度、ため息をついた。


 「今はほんとに金欠なのに」


 そう呟いて部屋の中へと戻った彼は、備え付けられた棚の裏の隠し通路から何処かへ消えた。







 草薙家の歴史は古く、長きに渡って国王の統治を裏から支えて来たと言われている。

 彼らは、王家の護衛、諜報、暗殺までをこなし、王の手足として動いてきた。用がすめば切り捨てられる、その世界において長きに渡り重用されてきたのは、ひとえに彼らの能力故であった。


  ◇


 今や世界中に支部を持つ多国籍企業となった<AICT>は、世界随一の半導体の技術を持つ。

 最新鋭兵器の心臓部にはここで作られた半導体が使われ、今流行りのAIに対応したサーバーやコンピュータにとっても、ここの技術は必要不可欠なものになっている。


 そのせいでAICTは、あらゆる業界からの脅威に晒されている。

 各国の軍部はこの技術を手に入れようと暗躍し、敵対企業は数知れず。


 一方で、AICTには、設立当初からの守護者が存在する。

 草薙家が培った裏の仕事のノウハウを受け継ぎ、世界を相手に暗躍している。


 それが、「防衛課」である。


 防衛課の仕事は単純明快、敵対組織の排除と諜報活動。

 その存在を知る者は企業の重役の一部。

 そして配属される者は、草薙の直系のみ。






 何を隠そう、唯人・風両名もここの所属である。




<本編には(きっと)書けない裏設定集>

・風は別に、フレンチが好きなわけではない

・唯人が金欠なのは、本当のこと




初めまして。 白昼夢と申します!

この作品を読んでいただき、ありがとうございます。

少しでも「面白いな」「続きが気になる」、と思っていただけたら、()に色を付けたりブックマークなどしていただけると励みになります。よろしくお願いします!



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