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妖精族

 俺は木箱を下ろして、中に居るだろう魔物を傷つけないように木箱を破壊した。結構な衝撃だったろうに、身じろぎの気配さえない。


「……」

「お前、生きてるのか?」


 中に居たのは、着せられたぼろ切れにはあまりに似つかわしくない華麗な羽根を持った妖精族だった。小柄な少女のような姿をしていて、妖精という名に恥じない美貌だった。


 確か、妖精族は宿主が死ぬ時に自らの命を使って蘇らせるんだったか。


「なるほどな……そりゃ、コロシアムというお遊びのチャンバラごっこには必要だわな」


 人間界の事はこの体が『知っていた』。暇を持て余した貴族達は、同胞の人間さえも上等下等と区別して下等な人間に殺し合いをさせて楽しむのだ。


 ただ、本当に死んでしまっては困るから代わりに妖精族の命を使おうってわけだ。


「そんなもん、宿主になるのを拒否したらいいだろ」

「……拒絶すれば、羽根を毟られる。それは、私たちにとって一番の屈辱なのです」


 お、喋った。まだそのくらいの元気はあるらしい。囚われの身となった現状ではまだ覇気は無いらしいが。


「はっ、それなら戦えばいい。泣きわめきながら羽根を毟られるのが嫌だと剣を振り回せばいい。その結果死ぬなら、人間なんかの身代わりにならなくてすむ分、上等じゃねえか」

「貴方に何が分かるっ……人間如きが、妖精族の誇りを語るんじゃありません! 誰も傷つけず、最期には誰かを救って果てる。この生き様こそが――」

「そうだ。その死に様は花が散るより美しい。なら、なぜ今貴様はそんなに絶望している?」


 怒れ、今ある姿に。絶望しろ、誇りを失う恐怖に。そして立ち上がれ、理想を求めて。


「な、何ですか。貴方は……急に人が変わったみたいに。そんなの、一番の宿主じゃないのに力を使うのが嫌なだけに決まっています……なぜ、今更私を気にかけるのですか?」

「よく知ってるんだよ、お前みたいな負け犬の顔はな……俺は、元々――」


 元々、魔物だった。そう告げようとした瞬間。頭が砕け散るような痛みに襲われ、目の前が真っ暗になった。


「だ、大丈夫ですか?」

「……口に、出すなってか」


 しかし、この期に及んでただの人間、しかも魔物使いにしか見えないだろう俺を心配するとは、この妖精族は大概なお人好しらしい。


「別に、今の仕事が嫌になっただけだ。そもそも、魔物使いってのは魔物と共闘する邪道人間だろ。それが人間サマに媚びへつらって馬車そのものになってるのがな、もう嫌になったんだ」

「……そう、ですか。では、私は解放されるのですか?」


 妖精族はまだ警戒しているのだろう、険しい表情を崩さないままそう尋ねる。


 俺は後頭部を掻きながら、どうしたものかと考える。


「別に、それでもいいんだが……お前、帰るアテはあるのか? はぐれ妖精族なんて見つかったらまた捕まるし、故郷までは随分遠いだろう」

「ええ、貴方に長く連れられていましたから」


 はは、そりゃ悪かった。


「近くの魔物里まで送ってやろう。そっからは悪いが自力で帰ってくれ。故郷まで送り届けたい所だが、俺にはやるべき事がある」

「……それは、何ですか?」


 何って、決まっている。俺はきっと、そのために転生したのだから。


「歪んだこの世界を、ぶっ壊す。そのために、人間から全てを奪ってやる」


 俺の答えに、妖精族はしばしぽかんと。だが、やがてクスリと笑った。


「ぶっ飛んでますね。死にますよ?」

「俺がそう決めたんだから、それでいいんだよ。文句があるのか?」

「いえ……妖精族は嘘を見破る力もあるのです。なので、急に心が入れ替わったような貴方という存在を知りたかったのです」


 おお、そんな力まであるのか……なら、俺の馬鹿話を素直にうんうんと聞いていたのも頷ける。イカれていようがどうしようが、俺に嘘は無いという事を理解してもらえたのだろう。


 すると妖精族はふわりと俺の目の前に飛んで、視線を合わせてお辞儀をした。


「私はシフィー。妖精族のシフィーです。貴方の名は?」

「俺は……俺は、ミグルだ」


 それ以外に、俺に名乗る名は無かった。


「そうですか、ではミグルさん。ここから一番近いとなると……リザの里ですかね」

「っ……」


 どうして、よりによってそこだ。なんで、生まれ故郷に……いや、待て。


「生きてるのか? リザの里は?」

「先日人間からの襲撃を受けたばかりですけどね。かろうじて無事なようです。この辺りじゃ一番頼りになるボスのいる里ですしね」

「そっか……じゃあ、リクが追い返したのか」


 じわりと、目頭が熱くなる。それと同時に、今の自分の立場を思い返す。


 本当に、最悪だ。せっかく親友と再会できるってのに、今の俺は……あいつらの敵の姿をしている。


「別の里にしますか?」

「いや、見てみたい。今のリザの里を」


 そう告げて、俺は馬車を走らせた。もう懐かしくも感じる、あの場所へ――


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