5話
Aが望遠鏡をのぞきながら、木星がよく見えるようにピントをあわせている。部長が卒業する前に、その技術を覚えないといけないからだ。
僕も覚えないといけないんだけど、機械音痴のためにほぼあきらめている。隣の彼女はというとジーっとAの動きを観察していた。彼女は覚える気でいるのだろう。よく覚えられるなぁ。なんてことを考える。
「ピントあった。先生、これで大丈夫っすか。」
「あぁ、いい感じ。けど、君誰だっけ?」
なかなかの御歳の顧問の先生は部長と副部長の名前以外ほぼ覚えない。自己紹介を永遠にし続けて、2年になる。いい加減覚えてほしいものだ。
スマホ片手に木星の撮影会?が始まった。
「画質悪いからなぁ。」
独り言を静かにつぶやくように言うと、彼女が言った。
「機種古いとどうしてもねぇ。」
雲が出てきて月を隠したのか、急にあたりが暗くなった。誰かが懐中電灯をつけた。
「木星まで隠れるから、撮れてない人は急いで。」部長がそう呼び掛ける。その声を聴いて、僕は列に並ぶ。待っている間にちらりと彼女を盗み見た。髪が風になびいて揺れていた。雲が晴れて月が出た。月の光によってその様子が神秘的に映る。
「木星隠れてしまいましたね。・・・・いい時間ですし、今日はもう終わりにしましょうか。」
部長の声でハッとわれに返った。僕は彼女に見とれていたのかもしれない。あとから心臓が痛いくらい激しくドクドクと音を立てる。
重症だ。