4話
そして、久しぶりの観測会が始まった。暗くなる前に、雑談をしながら、自動導入の準備をする。部員数の少ないこの部活では、現時点で後輩の数も2人と少ない。部室と天文台を皆で協力しながら、レンズやカメラを抱えながら往復する。
雑談とはいっても成績が落ちたとか、先生の悪口だとかそんな話だ。時々顧問の先生がやってくるので、その瞬間、シーンという効果音がしそうなくらい静かに鳴り、先生は不思議な顔をしつつも、何も言わなかった。勘づいてはいるのかもしれない。
まぁ、そんなことはともかく........。
今回の観測会では、木星と土星、それから月を見るそうだ。
自動導入は、先生と部長がテキパキとしてくれた。あたりが薄暗くなり、ちょうど真下で元気よく鳴り響いていたはずの吹奏楽部の音がいつの間にか、聞こえなくなっていた。春だからか少し肌寒い。カタっと音がしたので見てみると、彼女がいた。
僕は双眼鏡を手に梯子を上ろうとする彼女に手を伸ばす。触れようとしたら、触れる距離なのに、僕と彼女の距離はどこか遠い。
「そのままじゃ、登れないでしょ?貸してみ。」
僕はそう声をかけた。
「気が利く~。ありがと」
そういって、双眼鏡を上の天文台にいる僕に手渡してくる。
彼女の手が僕の手にほんの一瞬だけ触れた。それだけで僕の心臓はドクドクと大きな音を立てる。彼女に、周りに聞こえるぐらい。そんな僕のほうを見ることなく彼女は宙を見上げていた。この高校は田舎のほうに立地しているくせに、近くの工場の光のせいで、少し星が見にくい。しかし僕の顔色を隠すには十分暗いと信じたい。
そんな僕の様子をAが静かに見守っていたことに僕はまったく気が付いてはいなかった。