天才さんの次回作にご期待させてください。
ヤツに話を完結させろ。
人気天才小説家の担当編集になった私に、編集長が最初に命じた仕事がそれだった。
先生が執筆しているのは、刊行99999巻の超長編大河小説。
2000年に渡ってその物語を書き続けられるのは、先生がエルフと呼ばれる妖精だからだ。
だが、読者のほとんどが100年前後が寿命の種族。物語の完結を見る前に天寿を全うしてしまう……
「という訳で、ですね。100000巻というキリのいい所で、お話しを一区切りにしてはいかがかなぁ~、と思っておりまして」
もみ手で言う私に、先生は机から顔も上げずに鼻で笑い、
「キミのような輩は何人も居たよ。やれ良き所で、やれ人気の内に、やれ別の境地の新作を……ふざけるな! 僕の作品は未だ佳境! これからもっと面白くなるのだっ!」
火が点いたようにペンを走らせる先生に、私は意を決して、
「なら私にも考えがあります。先生……なぜ編集長が、私を新しい担当にしたとお思いですか?」
シャツのボタンを弾けさせ、スカートの裾をきゅっ、とあげる。両手で髮をかき上げれば、そのフェロモンは一瞬で部屋中に溢れた。
「私はサキュバス! この魅力で、貴方をメロメロにしてあげます! さあセンセ、こっちを見てぇ。私とイイコトし・ま・しょ?」
…………。
「え? あれ? ちょっと先生?」
「なんだねうっとおしい」
「うっとおしい!? サキュバスですよサキュバス! 男の夢! みんなの憧れサキュバスさん! まずはこっち見ましょ? ほら先生、こっち見て!」
先生は、心底うっとおしそうにこちらを見る。
「かかりましたね先生! サキュバスの魅了の効果で貴方は私にメロメロ! じゃあちょっとペン置きましょうか。ペンはこっちのペン立てに、って、ちょっとヤダ、力強い! なんでペン離さないの!? 痛っ、痛たたたっ、ギブギブギブっ!」
片手で組伏せられて必死にタップする私に、先生はまたも鼻で笑う。
「言っただろう、キミのような輩は何人も居たと。邪魔をするなら帰ってくれたまえ」
そして先生は、再びペンを爆走させた。
私はよろよろと立ち上がり、ぎりっ、とキツく歯噛みする。
「今日の所は、これで失礼します……でも次こそは、私の魅力でメロメロにしてあげますからねっ!」
そして私は、先生の仕事部屋を後にして、
「……そっちの目的なら、既に果たせているんだがね」