地雷系オタサーの姫に僕の好きな女の子たちが寝取られた
『成瀬蒼汰様へ』
体育祭があったから振替で休みのある日、僕あてに荷物が届いていた。
開けて中を見ると、USBとDVDがセットで入っていた。
「なんだろう」
送ってきた人は……。書いてない。消印っぽいのもないし、誰かポストに直接入れたのかな?
「真美かな……」
隣の住む幼馴染、倉橋真美が頭をよぎる。彼女は、僕が休んだ時にノートを見せてくれる。前は家まで来てくれていたけど病気を移したら悪いからと断った。それ以降は、ポストにノートを入れてくれている。
「でも、なんだろう……」
USBを自分のパソコンにさして、ファイルを開く。
中には四本の動画が入っていた。タイトルは。
『倉橋真美ちゃん♡』
『相崎カレンちゃん♡』
『五十嵐飛鳥お姉ちゃん♡』
『成瀬蒼汰へ』
と書かれている。
「誰だろう……」
荷物の中をもう一回見ると、紙が入っていた。『姫宮桃香』……。最近、うちのクラスに入ってきた転校生だ。
姫宮桃香さん。ピンクのふわふわとしたウェーブロングにアーモンドのような目をした、とてもかわいい子だ。
話はするけど、こういう風に何かを貰うってことはなかった。
「住所は……真美に聞いたのか……」
とりあえず見てみようと考え、『倉橋真美ちゃん♡』と書かれた動画をクリックして再生した。
「……え?」
瞬間、目に飛び込んできたのはどこかのホテルで姫宮さんと真美があられもない姿をしている映像だった。
「このホテル……。昔、一緒に泊まったホテルだ……」
僕と真美が遠出した時に泊まったホテル。そこに二人がいた。
二人とも下着姿で、お互いをやさしく撫であっている。
『真美ちゃん……。かわいいね……』
『ももちゃんの方が可愛いよぉ……すきぃ……』
姫宮さんが真美の頭をゆっくりと撫でる。真美の丸型の目が、とろんと溶けていくのがわかる。
「なに……、これ……」
『真美ちゃん。これ、成瀬クンに送っちゃうけどいい?』
『いいよ……。どうせ、蒼汰には愛想が尽きたから……』
「真美……?」
愛想が尽きた……?なんで……?僕は真美を幼馴染として大切に思っていたし、いずれは告白しようと思っていたのに……。
『真美ちゃん、蒼汰クンが嫌いになっちゃったの?』
『うん……。いろんな女の子に囲まれて、鼻の下伸ばして……。私に対してはそういうことがないんだもん……。私の事なんて、一切興味がないようにしてるから……。それに』
『それに?』
『……私を便利屋みたいに使ってるんだもん……。ノートとか忘れ物があると、先生に相談せずにすぐに私のところに来て……。子供のお世話をしているみたいに感じちゃってさ……』
そんなこと考えたことなんてない。だって、真美に聞くと必ず「しょうがないなぁ」って見せてくれてたから。便利屋って思ったことはない。
『しかも、蒼汰の親御さんも私の親も両方さ、私と蒼汰が結婚する前提で話を進めているし……』
『うんうん』
『蒼汰のお世話なんて、もうしたくないよ。帰るときに必ず「一緒に帰ろう」って言われるし、友達と遊ぶ時も「誰と?」ってうるさく聞いてくるし……。もうやだ』
『真美ちゃんは頑張ってるんだね。えらいえらい。……真美ちゃんはとぉっても可愛い女の子だよ!蒼汰クン以外にも、もっと素敵な人がいるってぇ!』
『そう言ってくれるももちゃんが好き……。ももちゃんさえいてくれたら……』
真美はそういうと姫宮さんに抱き着く。それ以降は、ひたすら淫らな映像と音が流れていた。
十分くらいの動画を見終わった僕は茫然としていた。
そんなことを思っていたなんて……。真美は何も言わないから、いいもんだと思っていて。ずっと一緒にいるんだって思っていたからで……。
もしかしたら他の動画も……、と思い次は『相崎カレンちゃん♡』のタイトルがついた動画を再生する。
今度は、ソファーでくつろいでいる二人が映し出された。あのソファー……。
「カレンの家の……」
何度かお邪魔したことがあるカレンの家。そこのリビングに置いてあるソファーだ。
姫宮さんがお母さんのようにカレンを抱っこしている。
普段は茶色の長い髪をツインテールにしているが、画面に映っているカレンはストレートのロングだった。
『もも先輩……疲れたよぉ……』
『よしよし。カレンちゃんはぁ、すごぉく頑張り屋さんだねぇ。姫に、してほしいことあるぅ?』
『頭撫でてほしいっす……。あと、甘やかして……』
『いいよぉ。こういうことは、成瀬クンはしてくれなかったの?』
『先輩は、あーしのこと。弁当係としてしか思っていないっすよ……。せっかく作ったお弁当も、いらないって言われたり……』
『えー!? カレンちゃんのお弁当、すっっっっごく美味しいのにいらないっていうのぉ?お金出してもいいくらい、美味しいのにぃ』
『もも先輩は、お金出してくれますよね……。先輩は、そういうの出さないから……』
『作ってくれたものへの対価って、それくらいしかないからねぇ』
てか、お金出してないの信じらんなーいと心底驚いた顔をする姫宮さん。カレンは背中をカメラに向けているため、どういった表情をしているか分からない。
だって、今日は購買で買おうとしたときにカレンが持ってきたんだもん。それを言ったらカレンは笑って許してくれたから、大丈夫だと思って。
それに、お金だって。カレンが「いらないっすよ」って言ったからであって、お金が欲しかったら言ってほしかったのに。
『……先輩ってさ、トマトが嫌いなんだよ。知ってたけど、あーしが家庭菜園で作ったトマトだから食べてほしかったのに……。ちょっと怒ったように「僕、トマトが嫌いだから入れないでほしいな」って言うんだよ……』
だって、僕はトマトが嫌いだから入れないでって前に言ったのをカレンが覚えていなかったからで。それで、入れないでって言っただけなのに。
『あのトマト、美味しかったよぉ。姫もトマト嫌いだけど、カレンちゃんが作ってくれたトマトは美味しく食べられたもん。また作ってねぇ?』
『もも先輩……。ありがとう、大好き……!』
『姫も、カレンちゃんのこと大好き!カレンちゃんのお部屋に行こうっか』
姫宮さんがそういうと、カレンは顔を上げてカメラの方を見た後、姫宮さんの方を向いた。カメラを見た時、ほんのりと頬が赤かったような気がした。
二人はソファーから立つと、奥の部屋へと入っていった。あそこはカレンの部屋だ。僕でさえ、入ったことがない。
しばらくすると、その部屋から悲鳴のような喘ぎ声が聞こえてきた。
カレンの声だ。
数分後。部屋から姫宮さんが出てきた。タオルケットか何かを羽織っており、真っすぐとカメラのほうに歩いてくる。背後からは、カレンが姫宮さんに早く戻るように甘い声で話をしている。
『成瀬クン、楽しんでくれてる?まだあるから、見てね☆』
そう言ってカメラの電源を切った。
見たくはない。カレンがそんなことを思っていたなんて思わなかった。だって、言わなかったから。わかんなかったからだ。
「これ……」
『五十嵐飛鳥お姉ちゃん♡』なんで、お姉ちゃんなんだろう。五十嵐先輩は、姫宮さんのことを苦手って言ってたはずなのに。
見たくないと頭で考えながらも、指は勝手に再生ボタンを押していた。
映し出されたのは、どこかの和室だった。
『やっほー♡成瀬クン、みってるぅ?姫宮桃香だよぉ?』
突然、姫宮さんが写り込んだ。ビクッとしながらも続きを見る。
『今日はぁ、私のお兄ちゃんと五十嵐先輩のお見合いの日なんだ。二人とも、話とかあんまりしないからぁ。ずっとすれ違ってたんだよね』
こそこそと喋る姫宮さん。背後からは、誰かの喋り声が聞こえる。
『この映像は使っていいよって言ってくれたから、成瀬クンに送るねっ。……いまどんな感じかなぁ』
後ろのふすまをそっと開ける。そこには着物の五十嵐先輩がいた。すっと伸びた背筋に、黒いストレートの髪を後ろで束ねている綺麗な人。
先輩の目の前には、ちょっと悪そうな男性が座っている。
目の前にいるこの人が、前に仲良くないって言ってた五十嵐先輩の許嫁の人……?
『お兄ちゃん、今どんな感じ?』
『こら、もも。今、飛鳥さんと話の途中だったんだから出てくるな』
姫宮さんに気づいた男の人は、やさしく姫宮さんに注意をする。よく見ると、男の人の髪色が微かに赤みがかった色をしている。
『え~。私だって未来のお姉ちゃんとお話ししたいのにぃ』
『その、桃香ちゃん?私は、その。まだ、お兄様と結婚するとは……』
『え~。やだやだ!姫、飛鳥さんみたいな綺麗なお姉ちゃんが欲しい~~』
駄々をこねる姫宮さん。そんな彼女を見て、どうしたらいいか分からずに目を泳がせている五十嵐先輩。
『も~も~。おとなしくしなさい。お兄ちゃん、今から五十嵐さんに結婚を申し込むんだから』
『……は~い』
結婚の申し込み!?五十嵐先輩、断ったって言ってたのに!?家を出ようと思うって、言ってたのに。
姫宮さんはお兄さん?の言葉を聞くと、不機嫌そうに返事をした。けれど、その声はさっきの駄々をこねている時よりも明るかった。
お兄さんは、五十嵐先輩の前に行き頭を床に下げた。
『妹のおかげで、貴女の気持ちがわかりました。貴女に不自由はさせません。貴女がしたいことをしてほしいです』
『……でも……』
五十嵐先輩はきょろきょろとあたりを見渡す。
『五十嵐先輩、ずっと夢があるって言ってましたよねぇ』
そんなもの知っている。五十嵐先輩は自由に生きたいと言っていた。家に縛られるのはもうこりごりなんて、疲れた笑みを浮かべていたのを覚えている。
『うん……。あの、桃吾さん……。私、夢がありまして……』
『なんでしょうか?』
桃吾さん?と呼ばれた姫宮さんのお兄さんが頭を上げる。
『……ずっと、思っていたことがあるんです。……私、芸人をやってみたいと思っていて』
え。聞いてない。
初めて聞いた、だってそんなこと僕の前では一言も言ってない。
『なるほど……。構いません。私は、飛鳥さんが生き生きと過ごしていることが一番の望みだからです』
『五十嵐の家に生まれたからには、と親からよく言われていました。桃吾さんはそんなこと言わないんですか?貴方の妻となったら、私は家の事なんてしませんよ?その……家事が苦手なので……』
『いいんです。俺は、その……。働くのが苦手でして……。家事の方が得意なんです。むしろ、仕事をしない男性というのは嫌ではないんですか?』
『いや、ではないです。それに、桃吾さんが誠実な人だということはわかっていましたから』
五十嵐先輩は柔らかな笑みを浮かべる。常に、眉間にしわが寄っているか疲れた笑顔しかしないのに。
『飛鳥さんの生活は姫宮グループが保証します。俺も、その、頑張って働きます……』
『無理はしないでくださいね』
そのあとは和やかな雰囲気でお見合いが進んだ。
こっそりと部屋の外に出た姫宮さんがカメラに話しかけてきた。
『成瀬クン、見てくれた?じゃ、最後の動画も見てね☆』
そこで映像がぶつっと切れた。
呆然としたまま、最後の動画を見る。
『やっほー♡成瀬クン。みってるぅ?』
姫宮さんが、手を振っている。ピンクのベッドに、壁紙。ドレッサー。恐らく姫宮さんの部屋で撮っている映像が流れた。
『見てくれた?成瀬クンを好きだと思っていた女の子たちはぁ、みぃんな、姫がとっちゃった』
あ、でも飛鳥お姉ちゃんはお兄ちゃんのものだから違うかとケラケラ笑いながら話をしている。
『成瀬クン、姫のこといやらしい目で見てたけどぉ。姫は、成瀬クンみたいな自分が被害者面をしている男の子、だいっっっっきらいなんだぁ』
「な、んでこんなこと」
答えるはずがない動画に思わず疑問をぶつける。
『成瀬クン、知らなかったでしょ?真美ちゃんが、成瀬クンの親からも真美ちゃんの親からも変な期待を背負わされてることぉ。カレンちゃんのバイト代がお弁当代に消えちゃってぇ、もともと趣味にしていた家庭菜園の野菜を使わなきゃならなくなったことぉ。あと、飛鳥お姉ちゃんが普段の姿からは想像がつかない夢を持っていた事ぉ』
『成瀬クン、自分以外のことも見てたぁ?』
楽しそうに、本当に楽しそうに笑う姫宮さん。対照的に、彼女の目は笑っていなかった。
見てたよ。真美の事も、カレンのことも、五十嵐先輩のことも。
なのに、みんな見せてくれないんだもの。だから、分からなかった。
『まぁ、いいや。動画はこれでおしまいっ。真美ちゃんはしばらく私と一緒!カレンちゃんには姫宮グループの会社でお仕事してもらうし、飛鳥お姉ちゃんは来年にお兄ちゃんと結婚するから!』
『じゃーねー、成瀬クン』
そこで動画は途切れた。
気が付くと、パソコンはスリープ画面に移行していた。
そこには、大量の涙を流した僕の姿が映っていた。
「あ、あ、あああああああああああああ……」
ランキングでNTRが流行っていることを察知したので、以前から考えていた短編を出しました。
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