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091 アズサ、愕然とする

 私たちは風のように飛んでいる。正確には風に運ばれているだろうか? グリムは浮遊魔術で私たちの体を浮かして、風を操作して私たちは空気の波の上を滑っている。少々空気の波の上でバランスを取るのが難しい。転けても運んでもらえるのだけど……。見た目を考えると立っていたい。


 イグノさんが見えた。その部下は五人。帝国軍が何人でやってきているのかは聞いていなかったけれど、迎撃の部隊がイグノさんを含めて六人ってさすがに帝国軍を舐めているのではと思う。グリムがいれば一、帝国軍が十万人いたとしても、一瞬で勝負がつくとしてもだ。


「グリム、帝国軍ってそれなりに強いと思うのだけど、六人で迎撃というのは、イグノさんとしてもキツいのでは」


「魔族は熱くなりやすくて数が多いとダメなのだ。数が多いと手加減ができない。イグノ以外の者には無駄に兵士を殺すなと厳命してあるのだ。魔族の数が多いと競争が始まってしまってしまい、手加減ができなくなって、殺す兵士の数を競いあってしまうのだ」


 帝国軍の先陣が見えた。ドルドの街の冒険者たち。顔見知りが多い。その後ろがドルドの街の人たちが槍を持たされている。戦意はゼロだ。魔人が六人しかいないので少しだけ安心した顔になっていた。ただし冒険者は除く。


 冒険者の魔術師が土壁を築いた。イグノさんが走りだして土壁に激突して見事にイグノさんは自分一人通れるだけの穴を開けて帝国軍の先陣に突入していった。イグノさんの部下はグリムを見つめている。


 グリムは土壁を取り除いた。先陣のドルドの街の人たちは呆然として立っていた。イグノさんが通ったところだけ道ができていた。そこにいたと思われる人たちの姿はどこにもなかった。ただ、赤い絨毯が引かれたように見えるだけ。


 ドルドの街の人たちは後ろから帝国軍に槍で突かれて、イグノさんがの部下五人に殺到したものの、全員があっさり倒されていた。


「アリス、ドルドの街の人たちに治癒魔術をお願い」


「はい、師匠」と言うとアリスが駆けだした。


「帝国軍を撃破せよ」とイグノさんの部下五人にグリムが命令をだした。魔人五人が帝国軍に突撃する。五百人程度の部隊全員が地面に倒れている。


「アズサ、申し訳ない。敵の数が多くてあまり手加減ができない」


 帝国軍の後方が阿鼻叫喚状態に落ち入っている。イグノさんが司令部辺りで暴れているようだ。帝国軍が崩壊した。帝国軍の兵士たちは街道を外れて畑に飛び込んで逃げ始めた。


 イグノさんが、腰に人の首をいくつかぶら下げてこっちに戻ってきている。その横を帝国軍の兵士たちが走っている。イグノさんは、興味がないのか放置している。イグノさんに軽くかすった兵士は一瞬で消えているけれど。



「魔王陛下、敵司令官の首をもらってきました」


「魔王城に戻って防腐加工を施して戦利品コーナーに展示しておくように」


「了解です。帝国軍は再度進軍するそうです。なんかそんなことを言ってました。助けてくれたら止めるとか言ってましたけど……。嘘かもしれませんが……」


「その時はまたお前が先陣なのだ」


「ありがとうございます。嘘ではなく本当のことだっと嬉しいですね。では魔王城に向かいます」


 嘘だったら良いのに。また多くの人が亡くなるから。私は倒れている帝国軍兵士たちに治癒魔術を施した。即死でなければ、傷は癒えるはず。百人足らずの兵士が起き上がって、呆然としている。その中の一人の兵士が「戦友たちを葬ってくれないだろうか?」と私に声をかけてきた。


「私はそのつもりでここにきました」


「ありがとうございます……」そういうと元きた道を戻っていく。


「皇帝は再度、ドルドの街に兵を向けます。帝都に戻ればまた同じめにあいます」


「わかっている。けれど、帝都には家族が待っている。戦友たちの家族も……安心させてやりたい」


「師匠、ドルドの街の人たちが意識を回復しました」アリスが肩で息をしながら私にいってきた。アリスの限界まで治癒魔術を展開したようだ。


「魔族は捕虜は取らないそうなので……」ちらっとグリムを見た。グリムは頷いた。


「どうぞ、ご自由にしてくださいませ」


「アズサさん、ドルドの街に戻る選択肢もあるのだろうか?」


「はい、皆さんは自由ですから、ドルドに戻りたければどうぞです」


「ありがとう、俺はドルドに戻ることにする。帝国軍はイカれている」そういうとその冒険者はドルドの街に向かって歩きだした。それを追いかけるようにして、街の人たちが続いた。



 後年の歴史書には、第一次ドルド侵攻作戦の結果は、帝国軍の戦死者千四百二名、戦傷者多数。魔族側戦死、戦傷者ゼロと記述された。


 私は兵士との約束を果たすため、戦死者をドルドの共同墓地に運んぶ。グリムの力を借りてだけど。ドルドの街に残っていた神官にお願いして帝国軍兵士たちの葬儀を行い、彼らを共同墓地に埋葬した。


 その歴史書によると共同墓地は数度拡張される。



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