090 アズサ、ドルドの街の人に演説をするその2
中央広場に舞台が設置された。今日の正午に魔王クリムゾンが演説するとの告知がなされた。街にいる者は全員聞くようにと何度もうるさいくらい天空から告知されている。
多くの街の人たちが中央広場に集まってた。正午になった途端にそれまで雲一つなかった空が真っ黒な雲に空が覆われた。舞台の上には魔王クリムゾンが立っている。
「ドルドの街は私の領土にした。今より三日間は街道封鎖を解く。街からでたい者はドルドの街からでることを許可する」
「ただ、冒険者アズサから、帝国と神々が戦争をすることになった経緯の説明を聞いてから、この街からでるかどうか決めてほしいのだ。以上だ」
私は皇帝が病気でその病いを治すために、神々が守っていた命の泉の結界を解いたために神罰が下ること、帝国中が焼け野原になること。その事実を隠すためにこのドルドの街の人たちを殺すことになったことを手短に伝えた。おそらく、ドルドの街出身だとわかると殺されるので、街から出たら絶対にこの街からきたことは話さないことも付け加えた。
街の人たちは頭を抱えてその場にうずくまってしまった。
白猫がダンジョン内にある命の水を皇帝に献上したことを知っている冒険者は動揺している。私が白猫に同行したことも知っているので、冒険者の人たちは、かなりの人が信じてくれたみたい。
魔族との交渉役はおいちゃんことミューラさんがすることになっていると話すと、街の人たちの間に少しだけ安心感が漂う。さすがは女将さんの推薦だ。
「皆んな、魔族に騙されるな! 帝国軍がこの街を解放するために進軍中だ。帝国軍に合流しよう」街の人たちにまた動揺が走った。
帝国軍に合流した途端、殺害されるのに。あれは帝国のスパイだ。
魔人たちは楽しそうにどのスパイの煽りを見ている。魔族にとって人種なんて片手で捻り潰すだけの存在でしかないのだ。帝国軍が何万人こようとも魔族の優勢は変わらない。グリムが選んだ魔族の最精鋭部隊がドルドに駐屯しているのだから。
冒険者が魔族と遭遇した場合、即座に逃げることが推奨されている。実力が違いすぎるから。死にたくなければ逃げるだけ。
ドルドの街の人たちは二分された。ドルドの街に残る人とドルドの街をでる人たち。ドルドの街をでる人たちは、帝国軍に合流する人たちと帝国軍から逃げる人たちにまた分かれた。
冒険者の大半はドルドの街からでていった。冒険者で残ったのはおいちゃんの知り合いだけだといっても良い。タクミたち黒猫は残った。別の街のギルドに所属したとしても履歴にドルド所属の冒険者だったことからは逃げられない。つまり、ドルド出身者なのが帝国にバレる。ギルドの登録なしでで他の街のダンジョンに潜れば、扱いは追い剥ぎ強盗と同じで殺されても文句が言えない。
赤の旅団とか白猫さんたちには有力貴族がパトロンについているので、多少は安心だけど、白猫さんたちは知りすぎているので、かななり危ない立場にいる。
街に残った冒険者は、勝手知ったるダンジョンで、しかも競争相手が減ったダンジョンで魔石を得て、その魔石をちゃんとした相場価格で、おいちゃんが責任者になったドルド魔石商会が、魔石を購入するから、以前より生活は安定したはずだ。
魔族についてはグリムとその直属の部下さんたちが目を光らせているので、今のところドルドの街の人たちとは大きなトラブルは起きていない。ていうか、景気が良くなっている。魔族の皆さんが爆買いしてくれるから。
女将さんの小料理屋もバイトの女の子を雇わないと、店が回らないって女将さんがいう。なぜか賄い料理に人気がでてメニューに載っている。
「アズサ、そろそろ帝国軍がドルドの街に近づいてきたので、私は出陣する。イグノとその部下は街道にて待機中だ」
「私もいきます。ケガをした兵士たちを治療します」
「好きにすれば良いのだ。ただイグノの爪が触れた人種は即死なのだが……」
「亡くなった方は葬ります」
「師匠、お供します」
「ママ……、お姉ちゃん」
「ルーはミーアが戻ってくるのを待っていて、女将さんのお手伝いをお願いね」
「お姉ちゃんはすぐに帰ってくるから」
兵士たちが死ぬところをルーには見せたくない。
「わかった、女将さんのお手伝いをする。早く帰ってきてね……」
「うん、約束する」
「女将さん、ルーをお願いします」
「ええ、わかったわ。アズサちゃんも無理をしないこと」
「リーファさんは?」
「私はルーちゃんと一緒にいます。このお店の料理の味が気に入ったので、このお店も含めてルーちゃんを守るから、アズサは安心して良い」
「ありがとうございます」
私たちはグリムとともに出陣をした。たった三人での出陣だ。




