078 アズサ、四十階層でゴブリン王と初めて謁見する
三十九階層で魚を釣ることもせず、四十階層コキュートスに到着した。白猫の魔術師さんが頑張って白猫の皆さんをシールドに入れた。けっこう寒そうなのでちょっとだけ気の毒に思えた。
お城に向かう。私たちは大丈夫だけど、さて白猫さんたちはどういう扱いになるのか、正直予想がつかない。できれば王城の結界の内側には入れてほしい。
私は王城の門で「シャルル様が家臣、アズサ・ドゥー・ボナール、国王陛下にご挨拶に参りました」と叫ぶと、大門が開いて中に入るように、騎士から指示された。私とボワンナーレさんを除く全員が身体検査をされて、武器はすべて取り上げられた。
私とボワンナーレさんは王城の中に案内されて、他の人は警備部門の塔に連れて行かれた。大丈夫だろうか?
「アズサさん、心配ないですよ。王城の中の方が、帝国とゴブリン王国は戦争状態なので、丸腰の皆さんにとっては危険だと思いますよ。見た目は軟禁ですけどね。あれは万一のための備えと思ってください」
「ボワンナーレさん、ありがとうございます。少しだけ安心できました」
私が一番危ないってことかもしれない。前回はグリムのせいで四十階層に到着した時も帰路もどちらもゴブリン王との謁見は中止になっている。私の印象はおそらく良くないかなぁ。私が悪いわけではないのだけれど。
私だけ謁見の間に通された。両サイドに騎士がずらっと並んでいる。正面には玉座が鎮座している。私は冒険者なので、お貴族様の作法に自信がない。緊張で心臓がバクバクいっている。気持ち悪い。
「アズサ、面をあげよう」
「はっ」
「メアリーから私の好きなワインが届けられている。そなたからの献上品とのこと嬉しく思うぞ。ただ、不思議なのだ。私の好みを知っている者は非常に少ない。酒屋の主人が選んだと聞いたがそれは誠か?」
「はい、国王陛下、酒屋の主人に選んでもらいました」
「アズサ、その主人の名はわかるか?」
「名前は分かりません。特徴は虎に似た魔人でございます」
「そうか、その魔人殿はお元気だったか?」
「はい、お元気そうでした」
「アズサ、すまぬが帰路魔人殿の店に寄って伝言を頼みたい。オウルが近いうちに尋ねるので、一緒に飲みたいと、そう伝えてほしい」
「承知しました」
「さて、三十六階層に侵攻した帝国軍は全滅したと聞いたが、それに間違いないか?」
「間違いございません。帝国軍の将兵及び宮廷魔術師団合わせて百名が全滅しました。私たちが埋葬しました」
「そうか。現在二十一階層では帝国軍一万とゴブリン王国軍一万が睨み合っている。帝国軍は二十一階層で四万人の将兵を失った。水を汲むためにだ。アズサはどう思う」
「私には政治のことはわかりませんが、私が皇帝であれば、五十階層を統治している国王陛下にお願いするかと思います」
「余には無理だ。五十階層はすでに妖魔の支配領域で、警備のために送った将兵百名との連絡がつかない。おそらく全滅したものと思う」
「まさか、先日妖魔の大半を冥府に送ったばかりなのに……」
「アズサから教えられた鬼酒の入った瓢箪は持たせたのだが、瓢箪に入りきらないほどの妖魔がいるようだ」
マズい。妖魔がほとんどいない前提で計画を立てている。今回はグリムは遊びに行っていて不参加なので、大魔術コキュートスが使えない。妖魔が自由自在に飛び交う中での結界の解除は無理だ。
「国王陛下、有益な情報ありがとうございます」
「礼には及ばぬ。アズサ、必ず生きて戻って酒屋の主人に伝言を頼むぞ」
「国王陛下、承知いたしました」
国王陛下が退席された。
「アズサさん、妖魔が前回並みにいるとなると、五十階層には私とアズサさん、二人で行く方が良いです。他の人は足手まといというか、妖魔に体を乗っ取られて、私の邪魔しかしないと思うので……」
「ボワンナーレさん、どういうことでしょうか? 私の仲間はミーアを除いて半人前ですが、白猫の皆さんは超一流の冒険者ですから、簡単に妖魔に体を乗っ取られるとは思えないです」
「アズサさんって五十階層の空気を吸って何も感じなかったのですか? 空気の中にも妖魔が混じってるのですよ。長時間五十階層にいると、妖魔を体内に入れてしまって、元の魂は追い出されて、体は妖魔になってしまうのです」
「私でも五十階層に一週間は留まれませんでした。人種だと二日が限界だと思います。アズサさんでギリ三日でしょうか?」
「ボワンナーレさん、何か対策はありますでしょうか?」
「あれば、私は失敗していませんよ。時間との戦いなんですよ。意外なのは魔王グリムのコキュートスの術が解けるのが早すぎます。魔王グリムは今回の遠征には不参加ですし……」




