076 アズサ、メアリー王女と話す
「アズサ、ついてこい」
「はい」
「アズサ以外、人払いを命ずる」
メアリー王女のお付きが、見晴らし台から退出した。
砦の周りだけは木々が生え、花も見事に咲いている。しかしそこから先、結界の外は、地面は焼けて真っ赤になっている。岩は溶けて赤く液体のように流れている、まさに灼熱地獄だ。
「あそこが、決戦場に指定した窪地だ。ここからよく見えるだろう」
「アズサは人種だから見るのは辛いかもしれないが……」
「いえ、殺る覚悟できた以上、殺られる覚悟は当然あるはずですから」
「そうだろうか? 命令で仕方なしに従軍している兵士もいるのではないのか?」
「しかし、兵士ですから」
「私の兵士たちで喜んで戦っている者はあまりいない……、皆んな家族を養うために兵士をやっているのに過ぎない」
「私たち、ゴブリンにとっては祖国防衛戦だが、帝国軍にとっては水を汲みにきただけ。そんなことのために命を張る馬鹿はいないと私は思う」
「私の父がそんなアホな命令を出したら、私は全力で止める」
「なぜ、誰も皇帝を止めないのか?」
「そう言われましても、皇帝に逆らえば即座に死罪ですから」
「ゴブリン王国でもそうなのだがな」
私は言葉に詰まってしまった。
「皇帝は重病ですから、言えないのでは……」
「命のある者、皆等しく死ぬのに、しかも命の水を飲んだからといって病は治らないとボワンナーレ殿は言っていた」
いや、皇帝に治ると思い込ませたのはボワンナーレさんなのだ。すべての元凶がボワンナーレさん!
ゴブリンの兵士が帝国軍に追われて窪地にやってきた。で、ゴブリンの兵士が窪地で姿を消した。目眩しの術だと思う。
帝国軍は中央に宮廷魔術師団その周りを帝国軍兵士が取り巻いた。魔術師団が土壁を兵士の周囲に巡らした。円筒陣形で戦うつもりだ。インフェルノでの長期戦は愚かだ。できる限り早くここを抜けないと必敗する。
「守備に徹するのか? 食糧と水、魔力量に自信があるようだな」
ゴブリンの弓部隊、ゴブリンの弩部隊が矢を放った。矢はシールドに弾かれている。
「確かに硬いなあ。しかしあれだけの硬度のシールドを常時展開できる魔力量が凄い。これは長期戦になりそうだ」
メアリー王女が嬉しそうだ。
シールドはおそらく三重重ねだと思う。その魔力の消費量は通常の二倍弱は必要だと思う。私は魔術師団に注目した。時折、倒れている魔術師にポーションを飲ませて回復させている。ポーションがなくなればこの戦闘は終わる。ゴブリン軍は適当に攻撃して、帝国軍の魔力が切れるのを待てば良いだけ。簡単な戦だ。
翌日の早朝、私はメアリー王女と一緒に見晴らし台に立った。
各自シールドで守られた槍兵の部隊が現れた。土壁を崩している。硬化魔術もかけているのだろうが、元々が熱せられた土で作られた土壁なので脆い。簡単に突き崩されていく。
シールドの強度を上げる。中央の魔術師が幾人か倒れた。ポーションを飲ませて戦列に復帰させている。
槍でシールドが貫かれた。帝国軍の兵士が驚愕しているのがここからでも見える。
「試作品二号の強度は合格だろうか? アズサ」
「合格です」
「では、食事にしよう。アズサはあの者たちが降伏したら、捕虜にした方が良いと思うか?」
「私としては、戦意を失った者を討つのはどうかとは思いますが、ゴブリン軍の軍事機密を知ったとしたら、捕虜にはできないのではないでしょうか?」
「アズサは同胞に案外冷たいのだな。私は気にしない。もっと凄い武器を作るつもりだからだ。ここは金属の加工に極めて適した場所なのが、今回試作品一号と二号を作ってみてわかった」
「私はここを兵器工場にしようと思っている」
この日から一週間、帝国軍は抗戦したが、魔術師がポーションを飲んでも回復しなくなったため、シールドの強度が徐々に弱くなり、誰が見ても敗戦。なのに降伏を宣言しない。そして突然、将兵全員、魔術師全員が倒れた。シールドが消えたのだ。
帝国軍の最精鋭部隊が消えた。私はそれを見届けると、メアリー王女に彼らの埋葬を申し出た。
「アズサの思うようにすれば良い」とメアリー王女の許可が出たので、私とアリスの二人だけで埋葬をしに出かけた。土魔法で穴を掘って彼らを埋めるだけ。
「お師匠様、これを見てください。これは白露草の雫では?」アリスが持っている革袋を見ると、冷却魔法が付与された革袋に透明のポーションが数本入っていた。
マーリンは白露草の雫で魔力回復のためのポーションを研究していたのか。
「アズサ、五十階層に行くのだろう。試作品二号を二本持って行け。結果報告を楽しみにしている」




