075 アズサ、三十六階層でメアリー王女と再会する
現在、三十六階層、インフェルノを通過中。白猫の皆さんも私のシールドに入っているので、詰め詰めで密状態。アリスが嬉しそうなので何よりです。でもルーが苦しそうなので、早く砦に辿り着きたい。
「シャルル様の家臣でアズサです」開門と叫ぶ。前回同様、横の小さな門が開いて、前回の番兵さんが出てきて、「エルフ様、ようこそお越しくださいました」と言ってボワンナーレさんだけが門の中に入った。「あんたたちは、しばらくそこで待っててください。王女様に会うかどうか尋ねてきます」
番兵さんはそういうと、門が閉められた。「アズサさん、歓迎されてないですね。試作品一号が活躍したことにしておいた方が良かったかもです」
適当に報告したのは確かによくなかった。でも、凍った妖魔を砕いただけって報告もあんまり変わらないと思うけど。
門が開いた。「王女様が会うって、お付きの人種の皆さんはここで暗器も含めて武器を預かるので、この容器に個人別に入れてください。隠し持って入った人は、あそこの小屋で待機になります」
「アズサ準男爵はこちらの門をくぐってください」なんだろう。前回はそんなことは言われなかったのに。
「お付きの人たちはこちらの門です」アリス、ミーア、ルー、ヒロシが通った。エルリックさんが通った。アル君が門に入るとベルの音がして、番兵さんがアル君の体を棒の様なものでざあっと触れる。アル君の右足首のところでまたベルが鳴った。
「右足首に隠している武器を出してください」アル君がエルリックさんを見た。頷いたみたい。アル君が右足首に巻いていたレイピアを取り出した。
「これは没収します。あなたは中には入れないので、小屋で待機です」アル君の後、アサシンさんも斥候さんも暗器が見つかって、小屋行きになった。白猫で王女のいる広間に行けるのはエルリックさんと魔術師と戦士の三人だけ。
帝国軍侵攻の報せで、警備が厳重になっている。
メアリー王女は、前回同様挨拶抜きで質問攻めが始まった。ボワンナーレさんはすでにその洗礼を受けたようで疲れきっていた。
「アズサ、帝国軍がここにやってくるのは誠か?」
「メアリー王女、それを答える前に献上したいものがございます」
「それは何かな?」
「アリス、ワインを」
「王女様、これでございます」
「ワインか、残念ながら私はお酒が弱くて飲めないのだが……、あっこれは父上が執務室の机の中に隠しているワインではないか? アズサ、お前よくそれを知っていたな。これは家族以外知らないことだぞ!」
「そのワインを選んでくれたのは酒屋の主人です。私たちではありません」
「アズサ、父上に私から渡しておこう。良いな」
「そのワインはメアリー王女様に献上したものですから、どうぞお使いください」
「それでだ、帝国軍はここにくるのか?」
「はい、シャルル様はそのように仰っていました。帝国軍五万の軍を二十一階層でかなり減らすおつもりのようでしたから、もしかすると、ここ三十六階層に帝国軍はこれないかもしれませんが……」
「シャルルはズルいぞ。妾にも残しておいてほしいぞ。もっとも人種が大軍でこの灼熱地獄を行軍できるとも思えないが……」
「前回、冒険者の四十階層の遠征では五千人の冒険者を聖女の加護で通過できると考えていました。もっともその聖女は亡くなりましたが……」
この隣にいるボワンナーレさんが、死霊を呼んだからなんだけれど。ボワンナーレさんは師匠の仇、私の仇だったりする。今は私の「パーティメンバー」なので複雑な気分だ。
「帝国軍もインフェルノ、コキュートス対策として宮廷魔術師団を伴っているので、可能性としてはあるのですが、帝国軍の戦略的目的は三十階層までを人の領域に戻すことだろうとも、シャルル様は仰っておられました」
「つまり、帝国軍は三十階層で進軍を中止するということか?」
「皇帝の命令は五十階層で命の水を汲んで帰還することですから、本隊は三十階層に止まり、別働隊が五十階層を目指すものと考えます」
「ここにこられてたとしても、小部隊だということだな。宮廷魔術師団がどの程度の実力があるかどうかあ……」
「メアリー王女様、シャルル伯爵より緊急の報告が入りました」
そう言って兵士が広間に飛び込んできた。
「帝国軍の将兵及び魔術師三百人ほどがこちらに向かっているとのこと。シールドが極めて硬く通常の武器では破れないとのことです」
魔術学園の教師たちと違って、宮廷魔術師団は相当な腕前だ。皇帝は元からこの精鋭部隊を五十階層に派兵するつもりだったのか。
「ふふふ、妖魔退治のために開発した槍、試作品二号を槍部隊の兵士に持たせよ」
「アズサ、試作品二号はミスリルで仕上げた。妖魔本体まで近づけるよう撤退的に鍛え上げた槍だぞ。帝国軍の部隊にはその実験台になってもらおうと思う。アズサもよく見ておくように」
「警戒レベル、最大。敵がくれば窪地に誘導すること。アズサたちには悪いがここで足止めだ。アズサは私とともにくること。アズサの従者、その他の者は部屋を用意するゆえ、私の命令があるまで待機するように……。今は戦時下である。命令違反は死罪と心得よ」
「承知しました。メアリー王女様」




