073 アズサ、二十一階層でボワンナーレさんに会うその2
「シャルル様、こういう状況でなんなのですが、私は五十階層の泉の結界を解くのに、シャルル様に預けたボワンナーレさんを同行させたいと思うのですが」
「ボワンナーレはお前のことを恨んでいるのだが、良いのか」
「仕方ありません。私たちでは千年かけても泉の結界は解けませんから」
「アズサ、背後の注意を怠るな。良いか」
「はい、シャルル様」
ボワンナーレさんがにこやかに、大広間にやってきた「やっと私のお迎えですか。待ってましたよ」
「皇帝陛下はどうしても命の泉の水が必要だとのことですから」
「不死になったところで退屈なだけなんですけどね」
「エルフ様は長命ですから」
「アズサさん、好奇心のなくなったエルフがどうなるか知っていますか?」
「存知あげません」
「巨木と一体化するのですよ。ミーアが一緒ということは里にいって、ソーヤとも会ったんだでしょう。ソーヤは巨木にもたれていたでしょう。あれはソーヤが一体化する巨木なんですよ」
「私は、巨木と一体化するなんてごめんです。知恵の泉の水を飲んでさらなる知識の高みに上るのです」
「アズサさん、変わりましたね。不安定さが消えましたね。魔力の流れを完全に制御ですか? おかしいですね。どうして皇帝の命令に従っているのか? まあ、私にはどうでも良いことですけど。五十階層にいきましょうか! シャルル様お世話になりました」
「シャルル様、帝国軍はここに本当にくるのですか?」
「ああ、彼らのために祈ってやってほしい。安らかに眠れるように。我々は自国を守るため戦うだけだから、恨むならお前たちの皇帝を恨め」
「そうします」皇帝は、なぜ私たちの帰りが待てないのだろうか? 私は信用されていないのか? 私の両親のことを皇帝は知っているのだろうか?
「叔父様、お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
「ミーアも元気そうでなによりだ。で、ソーヤは私になんと言っているのかな?」
「知恵の泉の水を飲んだら、里に戻ってくるようにとのことです」
「相変わらず、ソーヤさんは石頭で困りますね。エルフから知識欲を取ったら永眠するしかないじゃありませんか」
「私は里には戻りません。あらゆる神秘に挑むのです」
「ところで、アズサさん、ほんの短い間にあなたが子連れになるとはびっくりです。子連れでインフェルノとコキュートスに行く神経は私には理解できません。あなたは正気ですか?」
「この子はルーです。私の妹です。地上に置いておくよりは安全かと思い連れてきました」
「妹とねえ。確かにオーラが似ています。ああ、皇帝ですか? 不老不死のためなら何万人って殺しますからね。地上に置いておくのは確かに危険です」
「ボワンナーレさん、皇帝は五十階層になぜ軍隊を送るのですか?」
「皇帝にはあまり時間がありません。打てる手はすべて打つつもりだと思いますね。アズサさんが失敗してからでは間に合いませんもの。で、同時進行で部隊も送った。そのアズサさんが連れている人たちも皇帝の駒だと思いますけど……」
「えっ、白猫の皆さんも皇帝の依頼ですか?」
「依頼主は言えませんけど、ギルド長、直々に頼まれました。アズサさんたちのサポートが主な仕事です。アズサさんたちが全滅したら、アズサさんたちのお仕事を引き継ぐようにとは言われています」
「でも、不思議ですね。皇帝はとうに死んでいると思っていたのですが……」
「ボワンナーレさん、皇帝陛下の病はそんなに重いのですか?」
「病ではありません。あれは呪い、恨みの類いですよ。命の水を飲んでも治りません。飲まない方が楽に死ねるのにお馬鹿さんですよ」
「でも、私が知識の泉の水を飲んだら、治せるとは思いますから、アズサさん、安心してくださいね」
まったく安心できないのだけど。治癒師と患者との間に信頼関係がないと治るものも治らないから。
「ボワンナーレさん、軍隊を五十階層に送ってもですよ。軍隊では泉の結界は解けないです。無意味ではありませんか?」
「宮廷魔術師団が全員、おそらくマーリンは除いてですけど、軍隊にくっついてるはずです」
「宮廷魔術師団なら泉の結界が解けるのですか?」
「私でも手こずった結界ですよ。あんな連中に解け訳ないじゃないですか!」
「軍隊と魔術師団は万一、泉の水が汲めたら良いなあですよ。軍隊の指揮官はゴブリン王国の打倒を目的にしているはずです。三十階層までは人種の領域でしたから。冒険者ギルドも陳情したと思いますね」
軍隊を出す見返りが、白猫の派遣か。




