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069 アズサ、皇帝を説得する

 皇帝は、私に宮殿にくるようにとの命令を出した。この機会に皇帝を亡き者にしようか? でも、あれは幻覚にすぎない。皇帝が私の両親の仇かどうかの確証がない。調べるしかない。手がかりは両親を買った奴隷商人だろうか?


 私が宮殿に行くと謁見の間に通された。


「ダンジョンの五十階層に軍を派兵する。アズサは軍の案内役をせよ」


「皇帝陛下のお言葉ながら、仮に十万の軍団を派兵したとしても五十階層に辿りつける兵士はただの一人もいないことを私は保証します」


「無礼にもほどがある。我が軍団は精強。簡単に五十階層まで辿りつくわ。お前のような平民の案内などなくても良い」


「将軍閣下、インフェルノでどうやって、兵士は呼吸するのですか? 一度息をするだけで肺が燃えます」


「将軍閣下、そんなに行きたければどうぞ、お行きくださいませ。私は全滅する軍団など見たくはございません」


「陛下、どうかこのモブに、ダンジョン五十階層に行くようご命令ください」


「その心意気見事である。兵士十人を率いてダンジョン五十階層に行くよう命じる」


「陛下、兵士五万の間違いではございませんか? 兵士十人ではさすがに……」


「できぬと申すか?」


「いえ、ですが……」


「モブ将軍に命ずる。兵士十人を率きいてダンジョン五十階層を攻略せよ。直ちに出陣せよ」


「陛下、全力を尽くします」そういうとモブ将軍は肩を落として謁見の間を出て行った。皇帝は非情だ。


「邪魔者は取り除いた。さて、アズサ、お前はどうするつもりだ」


「私が命の泉の水を汲んで参ります」


「アズサ、同行者の選抜はお前に任す。必要な資金はすべて朕が用意する。至急命の泉から水を汲んでまいれ。以上だ」


 皇帝は護衛の近衛騎士に抱えられて謁見の間を退出した。病状はかなり重いように見える。


 私は、私の荷物持ちを探すと称して、帝都にいる奴隷商人を片っ端からあたった。一人の見るからに胡散うさんくさい奴隷商人に、黒髪で瞳が茶色の奴隷はいないかと持ちかけてみた。


「そうですな。いるにはいるのですが、荷物持ちは無理かと思いますね。まだ十歳の子どもですから」


「子どもなのか? 親はどうした?」


「売りました」


「誰に売ったのかは、教えてはもらえないだろうな」


「はい、信用第一ですから。どなたかに売ったのかは教えられません」


「そうか売ったのか。残念だ。しかし、黒髪の子どもは私のようにスキル持ちが多いと聞く見せてもらおうか」


「スキルですか? あれにはないと思いますよ。前の主人と奴隷との間に生まれた子どもですから」


 私は黒髪の子どもの奴隷を見た。瞳は碧眼だった。奴隷の女の子は私のことを「ママ」と呼んだ。決めたこの子を買おうと、私は金貨十五枚で奴隷商人からその少女を買った。


 その女の子には名前がなかったので、私が名前を付けた。「お前はこれからルーだ。私のことはアズサと呼ぶように。間違ってもママとは呼んではいけない。誤解されるから」


 とはいえ、ルーはちょくちょく私をママと呼ぶ。その度にアリスはなぜかパニックになっていた。私もすでに二十歳を過ぎているので、子どもが一人いてもおかしくはないのだけれど。子どもの年齢が十歳なのだから、私が母親ではないことはわかると思ったのだが……。


 私の同行者はアリスとミーアとルー。私の予定ではおいちゃんとヒロシも同行者に決定している。問題は、泉の結界を解かないといけないので、ボワンナーレさんも同行させる必要があること。


 あの、多重結界を構築した術式は、おそらくだが、太古の神霊が張った結界の模倣ではないかと思う。それでもボワンナーレさんが手こずったのだから、私では一万年かかっても解けない。


 私とアリスとミーアとルーは馬車に乗っている。「ルー、お願いだから、私のことはお姉ちゃんって呼んでほしいの。ルーのお母さんはどこかにいると思うの」


「お姉ちゃんは、お母さんによく似ているから、ついママって呼んでしまうの。ごめんなさい」


「他に人がいない時はママでも良いのだけど……」


「アリスのお姉ちゃんがいつもくっついているし……」


 アリスがルーを睨んだ。そんなに怒らなくても良いのでは。相手は子どもなんだし。


「ミーア、叔父さんは私に協力してくれるでしょうか?」


「叔父は結界を解くところまでは、協力するでしょう。ただ、知恵の泉の水を飲んだ後は何をするかはわかりません。師匠はキルケの里に連れ帰るようにとは言われてはいますが……」


「大人しく里に戻ってくれると良いのですけれど」


 私たちは不安を抱えながらドルドの街に向かった。

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