068 アズサ、岩の上に座る
現在、課題開始から四日目。魔物をアリスが剣で倒して、課題が終わった後の料理の具材にアリスは加工している。とても良い弟子だ。
私の目の前には食べ物が浮かんでいる。とっても美味しそうだ。食べられないのが残念でならない。私ってそんなに欲深い人だとは思ってはいなかったけれど、食欲だけはもの凄くある。後三日の絶食ってキツい。
絶食五日目、私は夢を見ている。黒髪、瞳が茶色の男が剣を振るっている。その剣に見覚えがあった。おジンがいつも腰にぶら下げていた魔剣だ。なぜ、その男が持っているのだろう。
男は軍隊にただ一人で斬り込んであっという間に数百の兵士の屍を築いていた。男は兵士たちから悪鬼と呼ばれている。
宮殿だ。あれは皇帝だろうか、今よりも若い。皇帝の前に跪いてる、黒髪、瞳が茶色の女がいた。
「あの者を止めよ。さすれば、お前たちの平穏を保証する。神に誓って約束をする」
女は男に剣を置くように言う。皇帝が約束したと告げた。男は剣を置いたが、皇帝は約束を守らず、宮廷魔術師に命じて、男と女に隷従の首輪をはめた。
二人は奴隷商人に売られた。女は男の子どもを身ごもっていたようだ。二人はダンジョンの街を作る業者に貸し出されたる。その間に子どもが生まれた。男は女にダンジョンに捨てるように言う。女は嫌がったが、冒険者が拾うことになっている。安心しろと言われて、泣く泣く赤ん坊をダンジョンに置いていった。
この赤ん坊って私なの。この男の人と女の人が私の両親。私の両親を騙したのは皇帝陛下。私の両親の仇は皇帝なの? 私の心にかせられていた枷が外れた。私の身体中に怒りが駆け巡る。許さない。決して皇帝を許さない。許せない!
ミルヒーさんの声だろうか? それとも母の声だろうか? 「あなたは人を殺やめる者なの救う者なの」でも、許せないのです。帝国なんかなくなれば良いんです。
六日目、私はお花畑の中にいた。心地よいこのまま復讐なんか面倒なことは忘れて、このままでいたい。川の向こうを見るとおジンが手招きをしている。その隣にはミルヒーさんが、おジンの頭をはたきながら、こっちにきてはいけないって言っている。川の向こうはあの世のようだ。
どこからか「復讐を忘れるな」って声が聞こえた。もう私はお花畑にはいなかった。暗黒の世界が私を取り巻いている。
課題の一週間が終わった。アリスが作ってくれたおもゆを飲んでいる。私の親の仇は皇帝なのだろうか? おジンは私の父親を知っていたのだろうか? おいちゃんに尋ねてみようか? どうしよう。とっても怖い。本当のことを知ったら、父のように剣を振るい、悪鬼になるかもしれない。それはミルヒー様の遺志にそむくことになる。
私は私が怖い。
「アズサ、次の課題です。あそこに見える滝に三日間寝ずにうたれてください。滝にうたれる装束はこれですので、着替えてください」
「ミーア、お師匠様は先ほど岩に一週間座り続ける苦行を終えたばかりです。無茶を言わないでください」
「アリス、ありがとう。でも、今の私は滝にでもうたれないと、身体が怒りで燃えてしまいそうなの」
「お師匠様……」
私は滝にうたれている。体の奥底から湧き上がる怒りの炎を消してくれているようで心地よい。私は悪鬼になって大暴れがしたい。でも、私はミルヒー様の弟子だ。絶対にしてはいけない。苦しい。ずっとこのまま滝にうたれていたい。この憎悪の炎が消えるまで。
三日間の滝行が終わった。
「お前を縛っていた枷が外れた。お前がどう生きるのかはお前が決めろ。どう生きてもお前の人生だ。ただ、神魔人大戦だけは起こさないでほしい」
「今の私にはそのお約束ができなくなりました。私はこの世界が滅びれば良いと思っています。この世界は理不尽です。許せません」
「そうか。またここにきて、滝にうたれることだ。私の名はソーヤボワンナーレだ。これはこの里に入るためのお守りだ。怒りで体が燃えそうになったらいつでもここにくるが良い」
「ソーヤ様は、私の両親をご存知なのではないですか?」
「お前の父のことしか知らぬ。しかし今は言えぬ……」
「私の願いは平穏な日々が続くことだ」
「私もできれば、そうあってほしいです」
「ミーア、マーリンにアズサの修行はほぼ終わった。後はお前に任せると伝えておいてくれ」
「承知しました。師匠」




