067 アズサ、キルケの里で修行をする
私はミーアに連れられて、エルフの迎賓館に入った。広い、広すぎる。私はこの迎賓館の納戸で十分だ。エルフの皆さんが私たちを持て成すために、忙しく働いている。私も何かお手伝いがしたい。ついお皿を運んだら、ミーアに怒られた。
私とアリスは別室にて、呼ばれるまで待機せよと命令されてしまった。私はこういうのに慣れてないんだ。
「アズサ、晩餐会の冒頭でアズサの挨拶を予定しているから、考えておいてね」
「アリスさん、私、最大のピンチです。晩餐会というのも初めてだし、そこでどうご挨拶したら失礼にならないのか、まったくわかりません。どうすれば良いのかしら」
「感謝の言葉を言うだけで良いのではと思います」
「こんな私のためにかくも盛大な晩餐会を開いていただき……」
「お師匠様、あのうへりくだり過ぎると嫌味に聞こえます」
「そうなの、難しいものね」
「私たちの門出を祝福していただき……」
「それだと結婚式です」
「キルケの里にお招きいただきありがとございます。私はエルフの皆さまの精霊術を学びたいと、こちらに伺いました。かくも盛大な晩餐会を開いていただき、本当に光栄でございます。人とエルフの皆さまとの厚情がいつまでも続くことを願ってやみません」
アリスがほぼ全部考えてくれた。優秀な弟子がいて、師匠は本当に嬉しい。疲れた。もう晩餐会を欠席して休みたい。
エルフのお料理といえば、木の実のが主要な料理という風に思っていたけれど、鳥肉の料理もあって種類が多い、鶏ガラスープはじっくり煮込んでいると思う。透明で味がスッキリしている。アリスが盛んにメモを取っている。その内このスープを再現してくれるに違いない。
翌日、ミーアが、迎賓館の私たちの部屋にやってきた。なんだろうすごく緊張しているのが伝わってきた。
「師匠からアズサに課題が出されました。アズサもアリスも私についてきてください」
私たちはミーアの後をついていった。エルフの森を抜けると岩山だった。岩山を登ると、平らな岩が、置かれているように見えた。
「アズサ、今日から一週間その岩に座って、水以外のものを口にしてはならないというのが、師匠からの課題です」
アリスが、「そんなことをすれば……」
「アリス、私たちは治癒師ですから、体を壊せば治せば良いのです」
「二人とも一週間の間、すべての魔術、魔法の使用は禁止です。それが守れなければ、次の課題には進めません」
「アリスの役割は何なの?」
「アリスはアズサの護衛です。ここにはそこそこ強い魔物がいるので、剣の使用は認めます。アズサは一度岩に座ったら、そこから動いてはなりません」
「ミーアさん、すみません。お手洗いはどうすれ良いのでしょう」
「その場でしても大丈夫です」
「私、二十歳のそれなりの女性なんですけど」
「頑張ってください」
何を頑張るのだろうか? お手洗いを我慢するの! それとも羞恥心を我慢するの! やっぱりマーリンのジジイの知り合いはろくなもんじゃないね。
私への課題ですか。やってあげようじゃないか。ここで逃げたら女がすたるっていうものよ!
「ミーア、座り方は?」
「あぐらで良いです。正座が好きなら正座でも良いです。膝を抱えて座るのはダメですから」
「アリス、私の警護は任せたから。でも、危ないって思ったら逃げてね」
「どこまでもお師匠様と一緒です。たとえ冥府の国であろうと」
そういうのは、良いから。私だって危ないって思ったら即座に逃げるつもりだから。
「ミーア、体を清潔に保つローブを着ても良いかしら」
「マア、ギリギリありで良いです」
「お水を生活魔法で出すのは?」
「それは、二人ともダメです。課題が始まってからの魔法、魔術は使えませんから。お水はこの奥に湧き水があります。これがアズサの水筒で、こちらがアリスの水筒です。アリスは別に食べても良いですから。アズサの警護を第一にしてください」
私は下着を脱いで、ローブを被ったこれで、臭いとかは大丈夫だ。
一週間の絶食かあ。食べられる草の知識を得てからはせいぜい、一日食べられない日があったくらいだ。三日食べないとぼんやりしてくる。一番空腹感に襲われる。四日目に入ると空腹感も感じない。目の前に食べ物が浮かぶのに、体が動かない。それが辛いだけだ。
「アリス、警護をお願いね。私、意地でもこの課題を達成したいから」
「はい、お任せください。お師匠様!」
私は岩の上であぐらをかいて座った。課題が始まった。




