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066 アズサ、キルケの里に行き、ソーヤに会う

 マーリンのジジイのところに行き、ポーションの瓶を渡した。無言。ミーアの方を見て「どうだった?」と尋ねた。


「やはり、エルフであっても精霊の加護を頂いていても、白露草には触られず、雫も集められませんでした。何かが足りない感じがしました」


「ミーアでダメなのか。はて、なぜアズサのような未熟者に取れるのかが謎だ」


 マーリンのジジイは私を未熟者って言ったよね。未熟者だけどさ。はっきり言われると、へこむわけで。


「マーリン様、私はアズサを師匠のソーヤ様に会わせたいと思っています」


「ミーアの好きにするが良い。時間がかかるだろうから、次の雫集めは延期にする」


「ありがとうございます。マーリン様」



 帝都を出発して一週間。最初は馬車に乗って西にある僻地の町に着いた。そこから徒歩で草原地帯を進むこと三日。その後はまさかの砂漠地帯を進む。昼間は暑すぎて進めないため、陽が沈んでから歩くこと四日。見渡す限りすべて砂の世界で星が出ていないと、どこに向かって歩いているのかすらわからない。


 エルフの里って森にあるのではなかったのか。


「アズサ、お守りを手の中でぎゅっと握って魔力を少し流して、アリスはアズサのすぐそばにいて。もうすぐ、結界に入るから、アリスとアズサとの距離が離れていると、お守りの効果が及ばないから、できる限り近くに」


 アリス、そう言われたからって、私にくっつきすぎ。歩きにくい。アリスは私の体に後ろから密着している。アリス、それでは前が見えないのでは……。


 結界。多重結界だ。どこかへ飛ばされる。一瞬意識が飛んだ。気付くと鬱蒼うっそうとした森の中を私たちは歩いていた。ついさっきまで夜だったのが、今はお昼に見える。


 大木の間に家が見える。エルフが森人と呼ばれる理由がよくわかる。森と一体化しているのがエルフという種族だ。


「ミーアちゃん帰ってきたのかい」


「ええ、師匠に会いに」


「ソーヤはいつものところにいるよ」


「おばさん、ありがとう」


 森の奥に進むにつれて、大木が巨木になっていく。おそらくここは聖域だと思う。空気がまったく違う。私の周りを囲む精霊たちが、さっきまで大はしゃぎしていたのが、ピッタと止まった。期待しているようで、畏怖しているような感じがする。


 巨木の幹にもたれ掛かって、本を読んでいる一人のエルフがいた。


「師匠、ミーアです。ただ今戻りました」


「マーリンの願いには応えられたのか?」


「残念ながら、応えることができませんでした。精霊の加護だけでは、まだ不足しているようです」


「精霊の加護だけではダメか。すると神々の恩寵おんちょうが必要になるのか。なのに人種ひとしゅが触れられる。雫も採取できるとは、私は数千年生きてきたことをこんなに後悔したのは始めてだ」


「師匠、その人種に会ってもらおうと連れてきました」


「ふーーん」ミーアの師匠はじっと私を見つめた。「魔よりの精霊とは珍しい。しかし、汚れがない。どういう事だ」


「そこの人なのか魔よりの精霊なのかわからない者、お前は何者なのか?」


「私は冒険者にして治癒師のアズサと申します。後ろに控えているのは弟子のアリスです」


「お前は、自分は冒険者であって精霊ではないと言いたいのか? 人なのになぜそんなに多くの精霊がお前についているのだ。ムーヤについていた精霊まで身に纏うとは、お前は一体全体なんなのだ」


「私は生まれてよりずっと精霊に囲まれて生きてきました。これが私の普通でございます」


「しかも、お前、天使から祝福を受けているな! 誰から授かった」


 言って良いのだろうか? 悩ましいが、でもミーアも白露草の雫を集められればエルフの誇りを取り戻せるなら良いかもしれない。


「天使、ルシフェル様でございます」


「ルシフェル様? あの戦闘狂は息災か」


「はい、今は世界を旅されているかと思います」


「ああ、気分が悪い、こんな気分になるのなら、奥の巨木で永眠した方がマシだ」


「ミーア、お前はエルフの民を裏切れるか?」


「師匠、私にはできません」


「お前が白露草を触りたければ、エルフの民の敵になるしかない。その精霊のような人種はエルフの未来の敵だ」


「そういう約束で祝福をもらったのだろう」


「私はルシフェル様のお味方をすると申しました。しかし、神魔人大戦を起こさせるつもりはございません」


「その言葉に嘘はないな!」


「はい、神魔人大戦が起これば、巻き添えになって死ぬのは人でございます。起こさせてはなりません」


「そうあってほしい。ミーア、客人たちを迎賓館にて持て成すように命じる」


「師匠、承知しまった」


「ルシフェル様、いつまでも反抗期なのは本当に迷惑なのだ」そんなつぶやきが聞こえたような気がした。

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