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060 アズサ、崖から落とされる

 真夜中零時過ぎ、岬の先端に白露草が現れた。魔術師ミドレイが駆け寄って崖から落ちた。海の上に現れるから、摘みに行ってはいけないと繰り返し話していたのをまったく聞いていなかった。


 自業自得というやつだ。崖の上から下を覗いたけれど真っ暗で何も見えなかった。海に落ちた音もしなかったので、どこかに引っかかっているのかもしれない。若様とアサシンの二人が魔術師の救援に向かった。


 私は腹這いになって、ギリギリ白露草に手が届くところまで、おへそのあたりが崖の端にくるところまで、足首をアリスに持ってもらって、崖から落ちないようにした。白露草を触ってみた。さわれた。ちゃんと初代様は私に祝福を授けてくださっていた。しかし、この体勢はキツい。


 木製の匙で、白露草の葉につく雫をためて、ポーションの瓶に入れる。これを明け方までするなんてキツすぎる。


 足首を持つのをアリスに代わってエレンさんがする。エルフ様の居所を教えると言っているので、危害は加えないと思ったのが甘かった。私の足は持ち上げられ、私はバランスを崩して頭から崖の下に落ちている。崖の上ではエレンさんの哄笑が聞こえた。


 シールド強度マックス、体の体勢を足が下で頭が上になるようくるりと回転。無事地面に着地した。ミドレイ発見。崖の側面に生えている木の枝に引っかかっていた。意識はないようだ。


 崖下で若様とアサシンにあそこに引っかかっていると伝えて、私は崖の上を目指して歩く。お腹が痛い、首が痛い。自分自身にヒールをかけて治した。


 崖の上ではアリスとエレンさんが取っ組み合いをしている。アリスも戦士のエレンさんと互角の戦いができるのか。凄いぞアリスって思ってしまった。夜明けまであと一時間。クララさんに足の上に乗ってもらって作業再開。


 アクシデントがあったので、ポーションの瓶の底にほんの少しの白露草の雫。ともかく採取には成功した。初回にしては上出来だと思う。


 マーリン様はけっこう渋いので、また新月の日にボーレールの岬に出張を命令するだろうな。何度ここにくれば、器具がもらえるのだろうか。道は遠い。


「お師匠様おケガは?」


「ないよ。崖の上でずっと腹這いだったからお腹が冷えただけ」


「あの女は、どうしましょう?」


「放っておけば良いよ。私たちのことを信じていないことがわかっただけ、良かったと思うよ」


 エレンさんは、私が何ともないのを不思議そうに見ていた。ミドレイがアサシンに担がれて崖の上に運ばれてきた。肋骨が折れている以外問題なし。「アリス、魔術師さんにヒールをかけてあげて」


 肋骨の治療完了。「アリス、治癒魔法の発動が早くなったね」


「お師匠様と一緒に学園で学んでいるお陰です。マーリン様からも時々助言をもらっていますし」


 私は一度もマーリン、あのクソジジイから助言なんて素敵なものをもらったことがない。お小言はよくもらっている。魔力がダダ漏れだとか。ド下手クソとかはよく言われている。


 ルイ先生が「アズサさん、あなたは白露草にさわっていたように私には見えたのですが、どうして摘まなかったのですか?」


「白露草はこの世の草ではありません。私は精霊のご加護で触れるだけで、摘むことはできません。仮に私が白露草を摘むことができたとしても、あの世の入れものに入れないと、白露草は消えてなくなります。私にできることはご覧のように、白露草の雫を匙で集めることだけなのです」


「次の新月まで白露草はここには現れないので、帝都に戻りましょう。その後のことは学園長とマーリン様がお考えになるでしょう」


「精霊のご加護があれば、私にも触れますか?」


「やってみないとわかりませんね」初代魔王の祝福がなければ無理だとは絶対に言えない。


 帰りは馬車が迎えにきていた。若様が早馬で白露草を摘んだと報告したらしい。大丈夫だろうか? アーサー様は、誤報を飛ばして。


 帝都に着くとそのまま私とアリスはマーリン様の研究室に連行された。


「白露草を摘んだとの報告が入ったが、それは本当か?」


「誤報です。白露草の葉から溢れる雫を採取しただけです。白露草は摘むことはできません。あれはあの世の草ですから」


 マーリン様に白露草の雫の入ったポーションの瓶を渡した。難しい表情で瓶の中の水を見ていた。


「確かにこの世界の水とは違った構成をしている。しかし、量が少なすぎる」って言いながら私を睨みつけるのはやめてほしい。怒るのなら、邪魔をしたエレンさんを怒ってほしい。


 寮に戻ると、今度は学園長からの呼び出しがあった。白露草の雫が入ったポーションの瓶はマーリン様に渡したし、学園長にも寄越せと言われると、次の新月まで待ってくださいと言うしかない。もう厄介ごとばかり、もう我慢の限界だ。ドルドに帰ろうと。


「お師匠様、大丈夫ですか? ドルドに帰られるのですか?」


「ごめんなさい。大きな独り言ですから」


「学園長、アズサです。入ります」


「どうぞ、お入りなさ」


 私とアリスは学園長室に入った。学園長が椅子から立ち上がった。私は思わず逃げる体勢になってしまった。学園長が笑った。


「ごめんなさい。妹のエレンがあなたの採取の邪魔をして、ルイ先生から報告を受けてびっくりしてしまったのよ」


「あなたを殺そうとしたなんて、できればこのことは内密にしてほしいの」


「皇帝陛下の密命を邪魔をした時点でエレンは死罪、一族は追放されるの。これは慣例だから、私たちの一族はそれなりの地位にいるから、一気に追放はないでしょうけれど、エレンは即座に死刑に処せられるわ」


「まさか、あの子があのエルフに、それほど執着しているとは思ってもみなかったの。エレンはしばらく、屋敷に幽閉することにしました。それで許してもらえないかしら」


「私はこの通り生きていますから、何ら問題はありません。エレン様のことは学園長にお任せします」


「ありがとう。アズサ」


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