059 アズサ、初代様とコソコソ話す
初代様は、ブドウ園の主人とのお食事会がすむと私たちに着いてきた。私たちを連れてきたせいで、ブドウ園の主人が初代様をお貴族様認定したので、居づらくなったそうだ。
ボーレールにも平民向けの宿屋はあるのだけれど、お貴族様がそうした宿屋に泊まると、平民が追い出されてしまう。私たちは岬近くの森に野営することにした。若様ご一行は宿屋に泊まることにしたらしい。
ちらっと宿屋に入る若様ご一行を見かけた。
私たちは、街で食材を買った。白ワインに白身魚にエビに貝にセロリにニンニク、玉ねぎに香味野菜などなどを、ブイヤベースを今日の夕食として作るため購入した。調味料は私特製の調味料を使って、アリスが作る。クララさんとルイ先生の分も作ってあげた。もちろん初代様の分も。
「やはり新鮮な魚介類を使ったブイヤベースは美味しいのだ」と初代様は満足されたようで、良かった。
「アズサ、白露草なのだが、実は私は摘むことができるのだ。問題はこの世の物に白露草が触れると消えてなくなる。だから天界か地獄の容器が必要になるのだ」
初代様は元天使だから白露草を摘めて当然だと思う。「それでだ、私がアズサに祝福を与えるとアズサも白露草に触れるようにはなる。摘むのは無理だが……」
「白露草でなくても、その露というか雫でも白露草と同じ効能があるわけで、木の匙にその露、雫をためて、ガラスの容器に入れると、白露草の代用にはなると思うのだけど」
「ずっと腹這いで夜が明けるまで集めても、ポーションの底にちょっとしか集められないけれど」
「祝福を受けられるのは私だけですか? アリスはどうでしょうか?」
「残念ながら、アズサだけだ。アズサは精霊術師だから大丈夫なのだ。精霊の加護も受けているし、問題ないのだ」
「初代様、当然祝福の代償が必要ですよね」初代様はにこりと笑って頷いた。
「お断りします」
「私は何も言っていないぞ。話も聞かずに断られるとは思わなかったのだ」
「白露草を欲しがっているのは皇帝であって私ではありませんから」
「権力を持つと、次は不老不死か。ありがちな願いだ。しかし、不老不死になるということは人をやめるということなのにな……」
「ところで、アズサ白露草を持って帰らないと、お前は困ることになるのではと私は思うのだが」
確かに、マーリン様のところで見た器具が手に入れられない。たった一つだけど。治癒師としては不純物を取り除いた薬が作れるあの器具が、正確に計量できる測りが、ほしい。さすがは初代様、私のウィークポイントをご存知だ。
「そうですね。私、かなり困りますね。祝福をもらうかわりに私が支払う代償はなんなんでしょう?」
「私に必ず味方をすること、レヴィヤタンの約束は取り付けた。サタンはウダウダ言っている。アザゼルは可愛い女の子を連れてきたらという条件付きでオーケー。マンモンはお金次第。マンモンはお金次第で天界に寝返るので問題外だが」
「それって第二次神魔人大戦の時に私が初代様に味方するってことですよね」
「そうだ。私の半身は私に味方してくれるのは、お前も知っているだろう。その盟友たるお前は未だ、どちらにつくか聞いていなかったので、この際、祝福と交換に良いかなあって思ったのだ」
「初代様に味方します。私、神の頭に雷を落として、神から敵認定されてますから」
「それは良い。では祝福を与えるので目を閉じて」
私は目を閉じた。何も起こらない。いつまで目を閉じていれば良いのだろう。「初代様、目を開けても良いですか?」
「お師匠様、初代様ならとうにテントを出られましたが」
「はっ、アリス、初代様は祝福を私に授けましたか?」
「よくわかりません。ご機嫌になってテントを出ていかれました」
もう、良いや。新月の夜にわかるだろうから。白露草に触れたら、祝福をもらった、触れられなかったら、忘れられた。それだけのことだ。
翌日から、私は岬の周辺、崖の下、崖の側面に白露草が生えていないか、探し回った。結果は白露草はどこにも生えていなかった。ルイ先生もクララさんも探していたけれど、見つからなかった。
若様ご一行が新月の夜の日に岬にやってきた。街で幽霊草の話を聞いたので、もしかしたらって思って岬にきたそうだ。若様ご一行はそれ以上の情報は残念ながら持っていなかった。
私は今日のためによく洗って乾燥させたポーションの瓶と木製の匙を用意して、白露草が岬の先端というか海の上に現れるのを待った。




