057 アズサ、南に向かう
ルイ先生の専門は植物学なので、白露草について尋ねた。
「伝説上の草。万病に効くらしい。生えている場所はボーレール岬のどこかということしかわからない」
「あのう、本当にあるのでしょうか? 明らかに眉ツバ感満載のお話なんですけど」
「先代皇帝陛下も先先代の皇帝陛下も軍を動かして探されたが見つけられなかったと聞いています」
「おそらくですが、人外の領域に入ったアズサさんなら見つけられると、皇帝陛下が思われ、マーリン様と学園長に依頼したのではと思うのです」
さらっとルイ先生が私を人外だと言った。心の中のメモ帳に書いておこう。
エレンさんから、溢れんばかりの殺意を感じる。アリスも同様に感じているようで、エレンさんを警戒している。一番怖いのは、前の敵より後ろの味方。冒険者の心得その一だったりする。首筋がチリチリ痛い。エルフ様命だったのはわかるけど。私を恨むのは筋違いだと思う。
旅は快適だった。私としては子どもたちと一緒の座学が苦痛だったしね。それと勉強はクララさんとルイ先生が見てくれている。とってもわかりやすい。旅の間も勉強を継続している私を誰か褒めて。
私とアリスの格好は平民の治癒師の格好で灰色のローブを被っている。病気、ケガ人が旅の途中いれば、代金を貰えば治癒魔法または、ポーションを売る。私は薬師ギルドには入っていないけれど、アリスがギルドに準会員として入会しているので、問題はないはず。
街の人、村の人から声をかけられるたびに、私たちがポーションを売ったり、代金を貰って治癒魔法をかけたりするので、旅はなかなか進まない。ミドレイはかなりイライラしている。
「ボーレールに先に行ってもらっても良いです。ボーレールで会いましょう」と言っても、先に言ってくれない。エレンさんが大反対するから。
若様ご一行もクララさん、ルイ先生も貴族の装いなので、街の人や、村の人が、私たちに声をかけるのを躊躇ってしまう。はっきり言って私たちの商売の邪魔なのだ。
お貴族様たちは宿屋で宿泊している。一緒に泊まれとアーサーさんとエレンさんが言うのを、拒否して、街から少し離れた、冒険者、宿屋に泊まれない人用の野営地で、私とアリスは野営している。お金がもったいないからと、宿屋でエレンさんに毒を盛られる、入浴中に刺されるのが予想されるから。危険は避けた方が良い。
野営地では、テントに薬屋の札をぶら下げている。治癒師の札は一般的ではないから。薬屋の札にしている。急患とかがあって、呼ばれると私たちは駆けつける。私としては、あるかないかもわからない白露草を摘むよりも人のケガ、病気を治すことの方が大事なことだから。
深夜、私の結界に侵入者があった。その侵入者は、テントの中に入ってきて、掛布越しに短剣を刺していた。私たちは棺おけから首を出して賊の顔を見た。エレンさんだった。
「お前さえいなければ、エルフ様は死ななかったのに」
「エルフ様は死んでませんけど」
「嘘をつくな!」
「嘘ではありません。エルフ様が帝都に戻れば皇帝陛下によって処刑されるので、逃げてもらいました。居所も知っています」
「もう二度と私を襲わないと約束してくれれば、居所をお教えしますよ」
「嘘ではないだろうな」
「問題があるとすれば、エレン様ですね。皇帝陛下の手先の可能性があります。皇帝陛下はエルフ様が死んだとはまったく思っていません。エルフ様が生きているとわかれば、捕縛することでしょう。処分は死罪。おそらくですが、エレン様は皇帝陛下の配下に見張られていると思っています」
「私はどうすれば良いのか?」
「私の側にいれば、エルフ様のところにお連れします。治癒の神に誓います」
「エレン様は、今日は遅いですから、ここでお休みください。私たちは棺おけで寝ますから」
「なぜ、お前はいつも地面の下で眠るのか?」
「襲われるからです」
エレンさんの顔が紅潮したのが、暗がりの中でもわかった。エレンさんはカークさんにつけられていたのに気がついていない。
エレンさん、一人ではボワンナーレさんのところには行かせられない。もうちょっとしっかりしてもらわないと、本当に困るよ。
ボーレールの地に着いた。若様ご一行は岬に向けて出発した。クララさんとルイ先生は私たちと一緒だ。
「ブドウ畑しかないですね」
「ボーレールはワインの産地だからね。うん、幼女がブドウをつまみ食いしているけど、ここでそんなことをすると、幼女でも容赦はしない。僕が止めてくる」
「幼女ですか? グリムだ! ルイ先生、私が止めます。あの少女は私の知り合いなので」




