005 アズサ、十三階層で人助けをしてしまう
十三階層は中級冒険者の狩場だ。ここから十八階層までは魔物よりも人間が恐ろしい。笑顔で近寄ってくる奴ほど恐ろしい。飲み物や食べ物に毒を盛る。後ろから刺されるのは当たり前の世界がここから十八階層まで続く。私は人に見られないように目眩しの術を使ってみる。上級クラスに近い中級冒険者を誤魔化すのは厳しいけれど。中級クラスらしい中級冒険者ならいけるかもしれない。ダメ元でやってみる。
見えているのか? 矢が、足元に刺さった。「えっ、ヘルベアー」熊の魔物が私の前に仁王立ち。人間にばかりに気を取られて、魔物に気付かなかった。失敗した。当たり前だが、ヘルベアーには目眩しの術は効かない。後ろから、冒険者が近寄ってきた。マズい。完全に挟み撃ちになっている。人間と熊どちらが友好的だろうか? 躊躇うことなく熊に近寄った。
ヘルベアーは本能的に危険だと感じたようで逃げだした。私は熊の動きに合わせて動きつつ横にずれて、挟み撃ち状態から逃れる。冒険者が私のすぐ横を走り抜けた。一瞬、怪訝な顔をしたが、熊を追いかけて行った。
「助かった」魔物と人間両方に気を付けよう。道をはずれ、森の中を人間と魔物両方を警戒しながら進んだ。おっと向こうで狩りの真っ最中だ。しばらくここで様子を見よう。
数人の冒険者が十数頭のヴォルフ、狼の魔物に囲まれている。狩っているのではなく狩られているようだ。中級冒険者ならこの程度の囲みは破って当たり前。もちろん、私には彼らを助ける義理はないので、当然見捨てる。
魔術師がいるようで、ファイアボルトを撃ちながら後退中。剣士の動きが悪い。ヴォルフが相変わらず遠巻きにしながらついてくる。魔術師の魔力が切れたらお仕舞いだね。ヴォルフに喰われた後にちゃんと葬ってやろう。
おいおい、こっちにくるなよ。面倒くさいなあ。今、動くとヴォルフに私がいることがバレてしまう。何となくすでにバレてる雰囲気がする。ヴォルフがかなり、警戒しているのが見て取れる。
仕方ないか。私は目眩しの術を解いた。私はヴォルフのリーダーに向けてゆっくり歩き出す。冒険者の奴らが私に気付いて逃げろと叫んでいる。悪い奴らではなそうなので少しだけ安心した。
さて、ヴォルフのリーダーは私を襲うだろうか? 賢そうな顔なので、おそらくヘルベアーと同じように逃げてくれるかなと思ったら、リーダーが私の方にこれまたゆっくりと歩いてくる。襲ってくる様子はまったくない。お前なんで私に近寄ってくるんだよ。
リーダーは私が背負っている荷物に鼻をつけて、「お前、ボーアの肉がほしいのか?」って言ったら、「クーン」と鳴いた。「仕方ない、ボーアの肉を分けてやるよ」って言いつつボーアの肉を半分、ヴォルフにくれてやる。ヴォルフはそれを口に咥えて、悠然と他のヴォルフを引き連れて森の中に入って行った。「お前、賢すぎるだろう」
「おい、あのヴォルフはあんたの狼か?」
そんな訳ないだろう。
「賢い狼だ。私がボーアの肉を持っているのに気付いて、あんたたちよりボーアの肉を選んだみたいだよ。こっちは大損害だ」
「お礼はする」
「いらないよ。ここらは魔物より人間の方が怖いからね」
「警戒するのはわかるが、我々は冒険者ではない。帝国騎士だ。お礼はする」
「帝国の騎士様ですか?」
「そう、帝国の騎士と魔術師だ」
「その割には動きが悪かったですね、ケガでもしてるみたい」
「ほう、わかるか? ワイバーンに襲われて、なんとか切り抜けたと思ったら、ヴォルフに襲われた」
「十三階層にはワイバーンはいませんよ。他の魔物と見間違えてませんか?」
「私がワイバーンの爪を斬った。その時腹をえぐられた。これが証拠の斬り落とした爪だ」
確かに亜龍の爪に見える。魔鳥の類いではない。
「お腹をえぐられたのですか? 金貨一枚で治しても良いですけど。私は治癒師なんで、もちろん治らなければお代は頂きません」
「上級ポーションで治らなかったのだぞ、私の治癒魔術もさほどの効果がなかったというに」
「やらせてみれば良いだろう。ミドレイ。治らなければお代はいらないというのだから」
「若様、呪いでも掛けられたら面倒です」
「お前が解呪してくれるだろう」
「そうですけど」ミドレイって呼ばれた魔術師が私を睨む。
「交渉成立ですね。それじゃあ。ヒール」
「ミドレイ、痛くない。傷口がない」と呆然とする若様をほっといて。
「はい、金貨一枚です。ボーアの肉代込みですから、お礼はいりません」




