046 アズサ、帝都を観光する
「あちらが、宮殿です。明日の午後、時間は未定ですが、皇帝陛下にエルフ様の件を報告することになっています。アズサ殿とアリス殿は平民ゆえ直答はできません。皇帝陛下から尋ねられたら、私に答えてください。おおよそのことは書面で回答済みなので、皇帝陛下にただ会うだけになるかと思います」
「明日のドレスはこちらですべて用意するので問題ありません」
まずい、グリムを仲間外れにすると絶対怒る。下手をすると宮殿がなくなる。
「グリム、逃げようか? 私、皇帝なんて生きものに会いたくないの」
「皇帝に私は話があるので、呼ばれなくても、アズサと一緒に行くので安心するのだ。アズサに逃げられると、私が困る」
「怒って宮殿を破壊したりしないでね」
「皇帝の出方によっては、宮殿の一つや二つなくなるかもしれぬ」
「お師匠様」
「皇帝陛下に期待するしかないわね」私は諦めの境地に達している。おそらく私は悟ったのかもしれない。
アーサーは帝都の名所旧跡を熱心に話してくれているが、私の耳には入らない。
「ここからは下町に入りますので、馬車はここに置いて、少し歩きます。
アーサーが先頭、私の横にはグリム。歩いてはいない。足が宙に浮いている。アリスは私の三歩後ろを歩いている。お貴族様が、案内人をしているので、私たちは好奇の眼差しで見られている。もの凄く恥ずかしい。ドルドの街と違って下町なのに露天が一軒もない。
お貴族様の言う下町と私たちが言う下町とではかなり違っていると思う。
「ここが私のお気に入りのレストランです」
私たちのために下町の料理を食べさせてくれるつもりなんだろうな。嬉しいけど。それって私たちがいつも食べている下町料理ではないから。
コンソーメスープとロールキャベツかそして、柔らかいパン。ドルドの下町では絶対に見ることのない料理だと思う。早くドルドの街に戻って、女将さんの賄い料理が食べたいよ。
副業が料理人のアリスは、スープを飲んではこっそりとメモをとっている。グリムは上品に料理を食べている。私はぎこちなく、スープを飲み、ロールキャベツを食べている。美味しいと思うけど、緊張しすぎて味がまったくわからない。
この肉はどこどこ産の何とかの部分をミンチにして氷室で寝かせたものではとか、グリムが料理の解説をしている。グリムって、小学生なのに。その豊富な知識はどこからやってきているのだろうか?
それを熱心にメモをしているアリスはとても偉い。私の弟子なのに。師匠が一番ダメだ。落ち込む。
「アーサー様、美味しゅうございました。ありがとうございます」
「あのうアクセサリーのお店とか興味がおありでしょうか?」
私はまったくない。薬屋に行って薬草が買いたい。
「アクセサリーが見たいのだ」グリムが食いついてしまった。
アーサーが嬉しそうに「ではご案内します」これは下調べをした上での観光案内だと思った。
「銀の髪飾りか、細工が細かい。飾りは翠玉とは珍しいのだ」グリムは詳しい。アリスも熱心に見ている。私の場合黒髪なので、髪飾りはちょっとという思いが強い。
「耳飾りが真珠とは珍しいのだ。アズサ、この耳飾りはアズサに似合うと思うぞ」
そんなお金があれば、私は老後のために貯金がしたい。
「お師匠様、この指輪の石ですが金剛石ですよ魔力が一割ほど上がります」
さすがアリスです。目の付け所がそこですか。私に近い感覚で師匠として嬉しいです。
アーサーは、グリムには銀の髪飾りをプレゼントして、私には真珠の耳飾り、アリスには金剛石の指輪をプレゼントしていた。アーサー、散財をさせてごめんなさい。
「では、そろそろ屋敷に戻って、ドレスの試着をしていただきます」
外がとても騒がしい。「魔人だ!」と叫び声が聞こえた。私たちは急いで店を出た。トラの魔人が帝都の道の真ん中を闊歩している。
「アリス、あれは私とは関係のない魔人です。良いですね」
「はい、お師匠様」
アーサーが飛び出そうとしたのを、グリムが止めた。グリムが笑みを浮かべている。イグノは死んだかもしれないな。確か謹慎中だったはず。
グリムが、トコトコ、道の真ん中に出て行った。「魔人に喰われるぞ」って声がした。
イグノが、グリムを見た瞬間、イグノの身体が硬直したのがわかった。グリムが小さな声で何かを呟いた途端、イグノは暴風のごときの勢いで走り去って行った。
何が起こったのか、誰にもわからない。ただ、幼女が魔人を追い払った事実のみが残った。
「あなたは一体何者ですか?」
「私はグリムなのだ」
「アズサ殿!」
「グリムを一言でいうと魔王でしょうか?」
アーサーはポカンとした後爆笑をしていた。「魔王クリムゾンは、身の丈三メートルの巨人ですよ」
「人種は魔王を呼ぶときグリムゾンではなくクリムゾンと言うことも多い。どちらも間違いではないのだ。大昔の魔王でクリムゾンって名乗っていたものもいたのだから」
私たちは屋敷に戻ってから、ドレスを何着も着るはめになった。私はイグノと一緒に逃げれば良かったと思ったり。声に出しては言わないけれど。ダンジョンに潜るより疲れた。




