042 アズサ、四十八階層にてオーガの里に入る
「ここは気持ちが良いです。見渡す限り、畑と牧場が広がっている。心が落ち着くわ」
「ここはオーガの里なので、当然なのだ」
「オーガって人喰い鬼のことですよね」
「オーガは人は食べないのだ。オーガは平和を愛する極めて善良な魔人なのだ」
「肉食系の魔人はたまに、気まぐれで人を食べる者もいる。それと混同しているのだろう」
「誤解なのですか」
「オーガの見た目がそれっぽいから、そう見えるのだろうなあなのだ」
「見ての通り、オーガは農耕と牧畜を愛する民なのだ」
「気の毒ですね。誤解なのに」
「見た目で判断する者はその程度の者でしかない。邪魔でなければ放置で良いのだろ」
「邪魔をしたら、死なない程度に軽く注意すれば良いと思うのだ。それでたいていの者は理解する。軽く注意してダメなのは……」
「ダメなのは、どうしたのですか?」
「なんとなくだが二度と見たことがなかったりするのだ。どうしたのだろう。記憶にないのだ」
殺ってるなあ。さすが魔王様。
「妖魔のせいで、かなり畑も牧場もやられているのだ。以前きた時はもっと作物が豊かだったし、家畜も肥えていたのだ」
「これでですか?」
「ああ、オーガは勤勉なのだ。必ず結果を出す民なのだ。それなのに、これでは本当に気の毒なのだ」
「グリムのお嬢様、お散歩ですかい?」
「ああ、妖魔退治にきたのだ。この人種は私の同行者なのだ」
「それは有り難いです。寝ずの番続きで俺も睡眠不足で困っていますんで」
「グリム、この方は?」
「この者は……、里長の息子で一番上の兄で、兄じゃだ」
「グリムのお嬢様、俺はガランですよ」
「名前はガランなのだが、里人全員が兄じゃと呼ぶので私も兄じゃと呼んでいるのだ」
「ガラン様、妖魔を追い払っているのですか?」
「いんや、瓢箪に封じ込めている」
「瓢箪ですか……」ボワンナーレさんが持っていた瓢箪かな。するとあれはやはり妖魔だったんだ。そうなると、ボワンナーレさんが妖魔の主人。どうもそこが私には理解ができない。
「瓢箪に封じ込める。瓢箪に封じ込めたら、その瓢箪を鬼酒の入った樽につける。長老が言うには数百年ほど漬けたら、魔力に富んだ良い酒になるらしい。本当か嘘かは知らないがな」
「ガラン様、長老様に会わせてはいただけませんでしょうか?」
「それは良いがあんたは誰だ」
「これは、私が背中を預けても良いと思っている、私の親友のアズサだ」
「グリムのお嬢様のご親友ですかい。俺もまだまだですね。見た目で判断してしまいましたよ」
「一走りして、長老が起きているかどうか見てきます。少々ここでお待ちください。すぐ戻ってきます」
突風のように走っていってしまった。 で、暴風のように戻ってきた。「長老を起こしてきました」
「起こしてきた?」
「あっ、今は長老の昼寝の時間だったから、叩き起こしてきた」
ごめんなさい。長老様。お昼寝の邪魔をしてしまって。
ガランさんに長老のお屋敷を案内してもらう。
「長老、グリムお嬢様の親友のアズサさんが長老に話を聞きたいそうだ」
「おい、人に話をさせるのに、昼寝の邪魔もしたのに、土産もないのか?」
「アリス、荷物からお酒を出して」
「長老様、これをどうぞお納めくださいませ」
イグノの叔父さんが選んでくれた。ワインを長老に差し出した。
「ほう、これは珍しい、ボーレールの三十年ものか。これは嬉しい土産だ」
イグノの叔父さん、ありがとうございます。
「グリム様とこれから一緒に五十階層にある妖魔の根城に赴くのですが、オーガの里では妖魔を瓢箪に封印し、鬼酒というお酒に漬けつると、ガラン様から聞きました。なぜ、鬼酒に妖魔を封印した瓢箪を入れるのでしょうか?」
「ガラン、瓢箪を持ってこい」ガランさんは風のように去って風のように戻ってきた。
「アズサさん、瓢箪を開けて見てごらん」
開けた途端に凄いお酒の匂いがした。匂いだけで酔いそうだ。
「わかったかな、瓢箪の中にも鬼酒が入っている。妖魔はその匂いに誘われて瓢箪に入る。で、瓢箪の中の鬼酒を飲めば、妖魔は栓の隙間から徐々に外に漏れ出す」
「漏れ出したところで、周りが鬼酒だと妖魔はそこから動かない。数百年も経つと妖魔はその姿が保てず、酒に溶け込んでしまうらしい。これは結界が五十階層に張られる前の妖魔の対処法だ。一応効果はあるように思える」
「その瓢箪をあんたにやろう。何かの役に立つかもしれん」
「ありがとうございます」妖魔は鬼酒を飲むのか。私はじっと考え込んだ。




