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038 アズサ、四十四階層で悪夢をみる

 ここはどこだ。ダンジョンの中だ。黒髪の男がいる。同じく黒髪の女が赤ん坊を抱いている。「俺たちは奴隷に売られた。奴隷の子は奴隷だ」


「あなた」

「俺たちも一緒にはいられない」


「その子はここで亡くなる方が幸せだ」


「置いていけ」


「嫌です!」


「もしかしたら、冒険者が拾ってくれるかもしれない。この子も黒髪だからな」


「あなた」と言って女は泣き崩れた。岩陰にそっと粗末な布に包まれた赤ん坊を置いて、女は、男に引きずられるようにして、その場から立ち去ってしまった。


「お父さん、お母さん」私は涙を流していた。


「アズサ、しっかりしろ。死ぬぞ!」


「グリム、なんで私は泣いているの」


「ここは悪夢を見せる幻惑の階層のようだ」


「私も魔木から生まれた時、誰にも選ばれず、野良魔族を始めた時の夢を見せられた。この階層をぶっ壊してやろうと今は思っている」


「ここは生き霊にはまったく効果を及ぼさないらしい。幸せそうに熟睡している」


「後の二人は意識が戻らない。完全に悪夢に取り込まれている。このままでは死ぬ」


「グリム、どうすれば良いの」


「それなのだが、アズサが夢の中へ助けに行けば良いのだ。まあ、アリスならアズサさんの訪問を拒むことはないから。アリスの手を握って、アズサの気をアリスに注げば良いだのだ」


 私は、グリムに言われた通りやってみた。何も見えない。しばらくすると徐々に目がなれてきた。幼い姿のアリスが、同年代の女の子たちに取り囲まれて、ごちゃごちゃ言われている。誰それさんの彼氏を奪ったとか、何それって話題だった。アリスに言わずに、その何とかいう彼氏に言えよだ。


「アリス、何泣いているの。私の弟子なのに」


「師匠、助けてきてくれたんですか?」


「アリス、この程度の雑魚をひねることができなくて、冒険者稼業はできないよ」


「何よ、あんた、子どもの喧嘩に大人が口出すんじゃないよ」


「あなたには、関係ないのよ」


「あなたたちは私の助けは、必要ないってことで良いんだね」


「寝言は寝て言え!」


「そうなんだ、お気の毒に」


 アリスのシールドが完成した。最前列の子がシールドに弾かれて吹き飛ばされた。


「魔法を使うのは卑怯だぞ」


「六人で一人をいじめるのも卑怯だよ」


「ファイアボルト」と一人の女の子が詠唱した。お気の毒に。アリスのシールドにはリフレクション(反射)が付与されている。ファイアボルトを放った子にファイアボルトが戻っていった。アリスを囲んでいた女の子たちは泣きながら、走り去った。


「アリス、お疲れ様。それじゃあ目を覚まそうか」


「はい」


 アリスは幸せそうな顔で目覚めた。アリスが私をお目めキラキラ一万倍で見つめている。「とっても良い夢でした」


 ヒロシの夢の中に入るのはごめんなので、「クーリエートウォーターめっちゃ冷たいヤツ」と詠唱してヒロシにぶっ掛けた。


「冷た!」と叫んで飛び起きた。これで良し。


「アズサさん、何するんですか、冷水をぶっ掛けるなんて、俺に恨みでもあるんですか」


「ヒロシが、かなりうなされていたから、起こさないと思って。普通に起こしても起きないヒロシが悪い」


「確かにベイルウオルフに追いかけ回されて、もうダメだっと思った時に冷水をぶっ掛けられて、目が覚めたのは助かりましたけど。まあ、良いですよ」


「影の薄い戦士さん、次の階層に行きますよ」


「もうちょっとだけ待って、もう少しで僕の順番がきて、新発売のハンバーガーが食べられるんです。あと少しなんです」


「ダメですよ。一人だけ美味しい思いをするのは。他の皆んなは辛い気持ちの夢だったのに」


「あと、三人で僕の番なの。お願いします」って叫んで戦士さんは起きてしまった。


「もう少しだったのに」


「戦士さん、ダンジョンから出たら買いに行けば、食べられますって」


「僕はね、すでに四度挑戦して、四度とも順番を飛ばされて食べられなかったのです!」


「じゃあ、私と一緒にハンバーガー屋さんに行けば、絶対順番は飛ばされないですから、一緒に行きましょうよ」


「師匠、私も行きますよ。新作ハンバーガーが食べたいです」


「アズサさん、ずるいです。俺だって食べたいです」


「グリムも行くのだ。案内を頼むぞ。私もハンバーガーとやらを食べてみたいのだ」


 魔王と一緒にハンバーガー屋に行っても良いのだろうか。かなり心配だ。


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