037 アズサ、四十三階層で魔王城を見る
太古の神ソーの領域を抜けるとそこは魔王城だった。
「これは面白いのだ。初代魔王、グリムゾンの城なのだ」
グリムが笑っている。「私に初代グリムゾンとやり合えと言うのか? そんなにこのダンジョンを破壊してほしいのか? やってやるぞ!」
「初代グリムゾンは魔族ではない。天界から堕ちた堕天使だ。天界での名前はルシフェル。堕天して魔族の王に収まり、名を改めグリムゾンと名乗った。歴代魔王はその故事にならって、グリムゾンと、大昔グが発音できずクリムゾンと称した魔王もいるが、名を改める。私が初めてグリムゾンを名乗らなかった。魔王なのだ」
「アズサ、初代魔王城を見学だするのだ。さてどこまで作り込んでいるのか、楽しみだぞ」
全然、楽しみじゃないし、ダンジョンを壊してはダメだろう。
「アズサさん、ヤバいものがきます」
「師匠、風で飛ばされそうです」
風じゃない、これは威圧だ。地面ごと飛ばされそうだ。「シールド強化、地面硬質化」マジでヤバいんですけど、私が魔力をマックスの出力を出すなんて、それで立っているのがやっと。ああ、四十三階層で私たちの冒険が終わった。
私の隣でそよ風でも受けているかのように、この凄まじい威圧を受けている魔王グリム。グリムとは、絶対に戦いたくはない。
威圧が止んだ。「ふうーー」と全然安堵な状況ではないのだけれど、息をついた。まだ生きている。前を見ると、グリムがいる。隣にもグリムがいる。二人もグリムがいる。
「初代グリムゾン、初めましてなのだ。私はグリムだ」
初代グリムゾンはグリムをじっと見て、「私は転生したのか? そうか転生したのか。そうか」
「グリム、その器を私に寄越せ。お前ではエルフは倒せない。お前は、この仮初の魔王城の守護者に相応しい」
「私はエルフと末長く遊びたいのだ。倒す必要はまったくないのだ」
「その器、力尽くで奪ってみせる」
二人のグリムが消えた。時折、閃光が煌めくだけ。「綺麗だ」
グリムが二人現れた。二人ともかなり消耗している。肩で息をしている。
「アズサ、私にヒールをかけるのだ」
「へっ、良いの」
「構わない、早くかけるのだ。次で決める」
「ヒール」
グリムはすやすや、眠ってしまった。
「ヒロシ、初代様を魔王城に運ぶのだ。お姫様抱っこをしてだぞ。もし運んでる途中で起きたらヒロシ、お前、消されるから、慎重に運んでほしいのだ」
「ええっと、あなたはグリム」
「そうなのだ」
「私にヒールを掛けろって言ったのは?」
「初代様だ」
「私たちは、例えて言うなら、一卵性双生児なのだ」
ヒロシが真っ青になりながら初代様をお姫様抱っこで慎重に、寝台のあるところまで、運んで、寝かして、ヒロシはそのまま床に座り込んでしまった。お疲れ様、ヒロシ。
初代様がむっくりと起きると、グリムに文句を言い始めた。「グリム、お前は卑怯なのだ。アズサにヒールをかけてもらうと魔力、体力が回復すると考えたではないか」
「初代様、私は嘘は言っていないのだ。ちゃんと魔力も体力も回復しているではないか」
「でも、寝て回復って当たり前ではないか」
「気持ちよく眠れただろう」
「とっても心地よかった。アズサにはずっとここにいてほしいのだ」
「ずっとはダメだ。アズサは、私のところで暮らすのだ。時々貸し出すのは良いけど」
あんたたちの所有物では、私はない、のだけれど。私がグリムのところで暮らすって、勝手に決めるなよ。もし、今考えたことを、実際に声に出して言ったら、私は生きているだろうか? 言わない方が絶対良いと思う。
「私は初代様に感謝している。たくさんの経験値をありがとうなのだ。これでエルフと互角に遊べるのだ」
「私の半身が、エルフごときに遅れをとるのは我慢できないのだ」
「元々私と初代様は本来一体だったのを二つに分けられたのだ」
「分けたのは、あのアホウの神だ。そういうところだけ小狡いのだ」
「チート技専門の神なんて情けないとは思わないのだろうか」初代様はひどく怒っている。
「半身は自由で羨ましいぞ」
「初代様は自由ではないのか?」
「私はここから出られないのだ」
「どうして出られないのか?」
「私が大昔、マイルールで決めたからなのだ」
「自分で決めたのなら自分で変えれば良いのだ」
「そんなことをして良いのか? ルール変更だぞ。アズサ変えても良いのか?」
「良いんじゃないですか? マイルールですし」
「よし、私はたまに四十三階層の魔王城に帰るというルールに変更だ」
「半身、これから天界に行ってチート技専門の神に正々堂々戦えと宣言してくる。戦いになったら手を貸せよなのだ」
「もちろんなのだ。初代様」
「うわあ」、大変なことになってしまった。バトルジャンキーのグリムは楽しそうだ。アリスとヒロシは、世界の終わりがくるって頭を抱えている。初代様のマイルールの変更に賛成した私の責任はとっても重い。何もできないけれど。みんな、ごめん。




