033 アズサ、四十階層、王都に着いてさっそく残虐の魔王と出会ってしまう
王都、コキュートスに着いた。私がヒロシを従者扱いしたので、ヒロシがむくれている。思春期は終わったのに、反抗期とは、困ったものだ。
極寒のコキュートスだが、私のシールドとお腹に入れたインフェルノで拾った石で寒くはない。
「師匠、あれを見てください。少女が大変なことになっています」
確かに、この氷原を下着姿で駆け回っている。私たちは、その少女、というか見た目は幼女に見える、その女の子に駆け寄った。
「大丈夫。寒くない?」
「ふむ、私はやっと王城から出られて、とっても気持ちが良い。寒いと言われると、寒いかもしれん。この程度で私がどうこうなることもない。しかし、お前たちは私のことを心配してくれるたのだな。嬉しく思うぞ」
「王城から来られたのですか?」
「私はこれまで、自由、気ままに生きてきたので、無駄に長い挨拶とか苦手なのだ。それを言うとゾンが怒るのだが」
「私は治癒師のアズサと申します。この者は私の弟子でアリス、こちらは私の元同僚のヒロシでございます」
「お前たちが私の従者か? 待っていたぞ。なかなか来ないから一人で行こうと思っていたところだ」
「それでは、五十階層に行ってさっさと、妖魔を退治するとしようか?」
「あのう、あなた様はどなたでしょうか?」
「私はグリムだ。残念ながら親がいないので、家名はない。私を誰も選んでくれなかったのだ。コンちくしょうなのだ」
「私も実の親はいません。捨て子でしたから、でも、育ての親はおりました。亡くなりましたが」
「お互い、天涯孤独の身か。気が合いそうだ」
「グリム様、また勝手に王城の壁をぶち抜いて遊びに行くのはやめてください」
「ゾン、喜べ。やっと従者が到着したぞ。今から、五十階層に行ってくる」
「グリムさま、ゴブリン王に挨拶をしないとなりません」
「ゾン、お前に任せるのだ」
「グリム様、その姿はダメです。お着替えをしてください」
「王城にまた戻るのかあ」
「妖魔は逃げませんから」
グリムちゃんはゾンという人に引きずられて王城に連れて行かれた。
「アズサさん、あの子はいったいなんなのですか? 私たちが従者ってどういうことでしょうか?」
「さア……。ともかく王城に行けばわかるよ。きっと」バタンと音がした。
「影の薄い戦士さんが倒れている」
「戦士さん大丈夫ですか?」
「あの子は怖い。僕に気付いて威圧してきた。息が止まるかと思った」
影の薄い戦士さんに気づくとは、幼く見えても凄い子なのはわかる。
私たちは王城に着くと、番兵さんに妖魔担当者への取り次ぎをしてほしいとお願いをする。待合室に通されはしたものの、待つこと二時間、お茶一つ出てこない。
「師匠、私たちは忘れられたのではないのでしょうか?」
「ここまで放置されると、そうかも」ってアリスに答えていたら、扉がドーンと開いて、毛皮でモコモコ姿のグリムちゃんが、部屋に入ってきた。後ろには疲れきったゾンが控えている。
「ゴブリン王との挨拶は終わった。今から出発する。あっちょっと待て、その精霊に話がある」
グリムちゃんが私の側にきて精霊に話しかけた。「お前たちの主人はエルフなのか、アズサが主人なのか、さー、さー、さー、キリキリ返答しやがれーー」
「アズサをご主人様にしたいですが、エルフ様と契約をしているので、私たちからは破棄できません」
「おい、エルフ、そこで永眠したくなければ、この精霊たちとの契約を破棄しろ。お前と精霊は繋がっている。重病のお前では私は倒せない。なので五十階層で待っているから、どっちが強いか勝負するのだ」
「エルフがお前たちとの契約を破棄した。お前たちは自由だ」
「どうしたい」
「アズサさんの友だちになります」
「そうか、それは素晴らしいぞ」
「グリム様、今のうちにエルフを始末した方が良かったのでは」
「それだと、エルフをタコ殴りにできないではないか。私はそれを楽しみにして、ここで一月も暮らしてきたのだぞ」
「グリム様、本来の出発日は今日でした」
「一月前に魔王城から飛び出して行ったのはあなたです。お陰で臣下はてんてこ舞いでした。
「そうか、お前も大変なのだなぁ」
ゾンさんが可哀想に見えてきた。
「魔王陛下がこう仰られている。私は少し休みたいので、悪いが魔王陛下のお守りを頼む」
「私はグリム、魔王だ。元々は野良魔族で名無しだったが、前魔王、そこの元グリムゾンをタコ殴りにしたら、グリムゾンは私に名を捧げた。グリムゾンって可愛いくないから、グリムだけ貰ってゾンは返した。もし私のことを野良魔族と呼んだら、私はそいつをタコ殴りすることにしている。十分気をつけるように」
「さあ、冒険の始まりだ。皆んな出発だ」
どうしよう、私、このテンションについていけない。ゾンさんを見たら首を横に振っていた。「諦めろ」って言っているのがよく伝わった。




