030 アズサ、三十七階層でワァームと追い剥ぎ盗賊に遭遇する。
インフェルノを抜けて三十七階層に入った。周囲は荒涼とした砂漠というべき光景が広がっている。ただ、インフェルノを抜けたところなので、涼しく感じてしまう。
見渡す限り、岩と砂しかない。痩せた一頭の犬の魔物が久しぶりに見つけた獲物、私たちを見てよだれを流している。私たちを襲おうとして前足を出した途端、犬の魔物は砂に飲み込まれた。
「砂が流れている」とアリスが言う。流砂というらしい。
「アズサさん、砂の中にも何かいるみたい。こっちに向かってきている感じがします」
ヒロシの感覚は鋭い。足元の砂に硬化魔法をかけた。確かに足元をガンガン突き上げる感じがする。上に上がれないのがわかったのか、足元で蠢いている何かは移動して、砂の中からその姿を見せた。アリスが叫んだ。「ミミズは嫌い」私たちの真横にデカイミミズが現れ、私たちを飲み込もうとして大口を開けた。
ヒロシがその大口に向かって短剣を投げると、デカイミミズは砂に潜った。
「ここを移動するのが大変ですね。アズサさん」
「確かにね」アリスにヒールをかけて貰いながら、私はシールドを張って、足元を硬化しながらの移動になる。魔力的に厳しいかも。
「アズサさん、前から舟がきます。舟ですよね。あれは」
「確かに、砂の上を走る舟だと思う」五隻の舟が私たちを目指して近寄ってきている、友好的ではない雰囲気をまとっている」
でも、今の私たちにとってまさに渡りに舟だ。
「ヒロシ、あの舟がほしい」
「アズサさん、俺たちを、連中が襲ってからですよ。俺たちが強盗になるわけにはいけませんから」
「ごめん。つい本音が口に出た」
ヒューヒュー「僕もヒロシ君に加勢しますから」と戦士さんの声も聞こえた。「もう少し近寄ってくれると飛び移れるのですけど」
「ここは俺たちの縄張りだ。命までは取るつもりはない。まあ男には用がないので捨てていくがな。荷物をまとめてこっちに寄越せ」
「残念ながら、この子は非力なので、その舟まで、荷物を投げるのは無理だと思います」
一隻の盗賊の舟が私たちに近寄る。するとその舟に乗っていた盗賊たちが砂の中に飛び込み始めた。それを見ていた盗賊の舟が後ろに下り始める。
舟から飛び降りた盗賊たちはデカイミミズの餌になっていた。誰も乗っていない舟が、私たちのところに滑るように近寄ってきた。私たちは舟に乗り込む。
私としては舟さえ手に入れば残り四隻の舟は逃げてくれても構わないのだけれど、どうも見逃してはくれないらしい。
二隻の舟が私たちの舟に横づけしようと接近したら、一隻の舟に乗っていた盗賊たちはまた、砂に向かってダイビングを始めた。もう一隻の舟にはヒロシが飛び乗って簡単に制圧してしまった。
「全然、歯ごたえがなかったよ」とヒロシが生意気な口をたたいている。私は舟全体にシールドをかけた。二隻の舟から火矢がガンガン飛んでくる。一隻の舟に、私たちの舟を突っ込ませた。シールドを強化していたためか? その舟はぶつかった衝撃で中央から折れて砂の海に沈んでいった。
残り一隻はそれを見て逃げに入った。私としては見逃しても良かったのだけど、ヒロシのドヤ顔が気に障ってつい「サンダーボルト」って詠唱をしてしまった。
相変わらず、無数の落雷が起きる。盗賊を乗せた舟はどこかにいってしまった。沈んだかどうかもわからない。
「アズサさん、加減ができないんだから。サンダーボルトはダメでしょう」ってヒロシに怒られた。アリスはお目めキラキラで私を見てくれている。
なんか誰かにため息をつかれたような気がする。たぶん気のせいだと思う。
盗賊の舟の中には、砂金が一袋と爆発系の魔道具が積んであった。アリスが砂金と魔道具をいくつか自分の荷物に入れていた。
私は、盗賊さんたちが食べるはずのお弁当を見つけた。あれ、これっておにぎりじゃないか。こんな砂地でお米が取れるのだろうか? 具の入ってないおにぎりだけど捨てるのは惜しいので、私は食べた。塩味がきいていて美味しい。
ヒロシたちに食べないのって聞いたら、食べたことがないって言われて私は困惑している。おにぎりって異世界の料理だったのか? 知らなかった。
ヒロシたちにも、毒は入ってないから。食べてみたらって勧めたら。「師匠がそう言うのでしたら、食べます」って、アリスがおにぎりをとっても上品に食べた。美少女は何をしても絵になるよね。
「師匠、普通に美味しいですね」とアリスが感想を言うと、ヒロシと影の薄い戦士さんも食べ出したら、二人で大半のおにぎりを食べてしまった。勧めるんじゃなかった。




