029 アズサ、三十六階層、インフェルノで砦を見つける
文字通りの灼熱地獄。あちこちから炎が吹き上がる。私のシールドから一歩でも出たら。一瞬で燃え尽きると思う。この地獄をミルヒーさんの加護だけを頼りに行軍するのは、もの凄く勇気がいると思う。アリスはこの熱いのにずっと震えている。
「師匠、岩が溶けてます。地面が真っ赤です」
「インフェルノのって想像以上のところだね」
「アリス、私から離れないようにね」
「はい、お師匠様」と急に元気になったアリスだった。
「アズサさん、あれってどう見ても砦だよね」
「確かに、周囲を結界で覆われた砦だね」砦の周囲だけ植物が生えている」
私たちは結界を抜けて、砦での門の前に立っている。私は大声で、本当は恥ずかしくてやりたくないのに、頑なにヒロシが拒否したせいで、「頼もう、開門」って繰り返し言うハメになっている。門が開いた。大きな門の横にある小さな門が。
「どなたですか?」と訝しげに門番が出てきた。身長百センチメートルのごく普通のゴブリンが。私たちを見てギョッとしている。「人種」
「私たちは二十一階層の領主であらせられるシャルル様の臣下で、シャルル様の命により王都に向かう者でございます。三十六階層で、この砦をみつけたので、一言ご領主さまにご挨拶をと思いまして立ち寄りました」
「あっそう、ここは副王都だと知ってきたんじゃないんだ。ここは国王陛下の代理者が治めている土地なんだけどね」
「インフェルノの地が副王都ですか?」
「何か問題でも、王都はコキュートスだよ」
「そうでした」
「そうそう、シャルル様の臣下だという証拠を見せてくれる?」
私は通行許可証を、門番さんに見せた。
「人種のあんたが準男爵とはねえ、びっくりだよ。さすがは変わり者と評判のシャルル様だ」
「ここで待ってて、一応お姫様に、会うかどうか尋ねるから」
半時間ほど待たされた。
「お姫様が会うって」
大広間に通された。宝石が散りばめられた大きな椅子に、女の子がちょこんと座っている。
私がご挨拶を言う前にお姫様が話しだした。
「お前が、人種のお前が、シャルルの臣下で、アズサ・ドゥー・ボナール準男爵とはどういうことだ。妾はそんな面白い、いや、興味深い話は聞いておらぬぞ!」
誰だよ、アズサ・ドゥー・ボナールって。ゴブリン文字を私は読めないんだよ。
「お初にお目にかかります。シャルル様の臣下で、アズサと申します。これは私の弟子でアリス、こっちは従者のヒロシでございます」従者と紹介されたヒロシが私を睨んでいる。仕方ないじゃないか。お貴族様が従者を連れていないってあり得ないのだから。
「あっ、妾は、第一王女のメアリーだ。で、アズサは人種なのになぜシャルルの臣下になれたのじゃ?」
「上で、人種と一戦があったと聞く、その際武勇の優れた人種を捕虜にしたと聞いた。まさかお前がその捕虜なのか?」
もう、そのお話に乗るしかないか。
「はい、その通りでございます。私はシャルル様より命を助けてもらうかわりに妖魔退治を依頼されました」
「そうか、妖魔退治か、羨ましい、いや、素晴らしい」
「コキュートスで妖魔を凍らせるなどという緩いことはせず、このインフェルノの炎で焼き尽くせば良いのに。あっこれは父上、国王陛下に言ってはならぬぞ。国政批判と思われるからな」
「約束できるか?」
「お約束いたします」
「よし、妾はここから動けぬゆえ、インフェルノの炎で鍛えた槍をソチにやろう。この槍を妖魔の中心に刺せば、滅するのは無理だが、弱らせることはできるはずじゃ。試したことがないので断言ができないのが残念じゃ」
「有り難き幸せでございます」
「それでじゃ、実験結果を妾はに必ず報告するようにな。改良せねばいけないから。何しろ試作品第一一号だから」
試作品なのか。まあ、ないよりマシだよね。
「必ず、報告いたします」
「妾はも本当はソチと一緒に行きたいのだが、ここが王国の最終防衛ラインという要の地ゆえ、動けぬのじゃ。本当に歯痒い」
「そうじゃ、アズサは父上、国王陛下と会うはず。その時、この地の国王代理者を弟のジョンとかえるようにそれとなく、言ってほしいのじゃ」
「メアリーさま、承知しました」
「吉報を待っておるぞ」
メアリー王女は、私たちと一緒に旅立てないのが本当に残念そうだった。それにしても私が準男爵とは、シャルルは何を考えているのだろうか?




