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003 アズサ、魔物に遭遇する

 十階層で実入りの少ない仕事をして、十階層から十一階層に飛び降りた。通常はレンジャーが懸垂下降で下に降りて、ロープを張って、人や荷物を滑車で滑らせるのだけど。


 私の場合はシールドで守られているから文字通り飛び降りる。とても気持ちが良い。思えば、黒猫で崖から飛び降りるのは私だけだったな。


 みんなここで、いつも私を生暖かい目で見ていたのを思い出したわ。変わったことをするから、追い出されたのかもね。でも、私は毎度滑車用のロープを持たされ、レンジャーの代わりをしていたような。もうどうでも良いけど。


 十一階層って、中級に上がったばかりの子の狩場だから、マナーとしてここの階層の魔物はベテランは狩らないのが暗黙のお約束だったりする。中級に上がったばかり子はこの崖を登り降りするだけでもへばってしまうから。


 中級に上がったばかりの子がボウズ(収穫なし)にならないための配慮らしい。元々ここには魔物が少ないっていう事情もあるからかもしれないけれど。


 私は魔木の根っこに座って、女将さんが持たせてくれたお弁当で、お昼ご飯にすることにした。お弁当を開けると、「うわー、鯖の味噌煮だよ。でもだし巻き卵は嬉しい」鯖は焼くだけで良いのに。なぜお味噌で煮てしまうのだろうか? まあ食べるけどね。


 私は捨て子だったし、おジンはこの世界の人で、ご先祖さま料理とは縁がなかったわけ。女将さんの心遣いは有り難いような、そうでないような。賄い料理だから文句はないけどね。ああ、鯖の塩焼きが食べたい。


 お昼ご飯を食べて寛いでいたら、叫び声が聞こえた。なんか大変そうなので、声がした方に行ってみたら、小規模パーティの子たちが大型のボーア、猪の魔物に追いかけられている。


 一人の子はボーアの牙で足を傷つけられたみたいで岩壁がんぺきにもたれるようにして座りこんでいた。私は、その子の近くに行って、「どう、狩れそう」って聞いてみた。その子はけっこう出血したみたいで青い顔をしていた。「連携がまったく取れないから無理だと思う」


「そっかあ。じゃああのボーアは私がもらっても良いかしら」


「そうしてもらえると有り難い」冒険者のルールとして獲物は先に見つけた冒険者のもの。横から入ってその獲物を獲ってはいけない。だから助けるにしても相手の許可をもらわないと動けない。許可がもらえなければ、それまでだ。ボーアにその冒険者たちが狩られた後に、そのボーアを狩るだけのこと。


 私はボーアの前に立った。ボーアが私目掛けて突進してシールドに激突して、口から泡を吹いて倒れた。


「ウソだろう」って声が聞こえたけど、早く解体しないと肉の味が落ちるので、手早く皮を剥いで、部位ごとに切り分けて、私、特製の防腐粉末を振りかけた。これで一月は新鮮なボーアのお肉が楽しめる。「ひゃーほー」


「これは、あなたたちの取り分ね」とボーアのお肉を三分の二ほどあげた。


「悪いけど内臓はもらうわね。お薬の材料にするから」


「もらっても良いのか? あんたの獲物だろう」


「私はソロだから、こんなにはいらいないの。いらなければ燃やすけどどうする」


「有り難くもらっておきます」


「あなたがこのパーティのリーダーかな」


「俺たちは一昨日おととい集まったパーティで、リーダー役とかまだはっきり決めてないんだ」


「そっかあ、じゃあ君は盾役でボーアの突進を止めようとしてやられたって感じかな」


「俺は戦士だから、止めようとしたのだけど、牙にひっかけられて飛ばされた」


「このパーティには魔術師がいるのに、どうして土壁を出さなかったの」


「ごめんなさい。焦ってしまって、思い浮かばなかったです」と少女が絞り出すよな声で返事をした。


「ボーアって魔法耐性が高いから攻撃魔法は効かないの。だから、魔術師は防御に徹するの」


「教えてくれてありがとうございます」


「どういたしまして。ちゃんとお肉と内臓をもらったから。オマケのアドバイスです」


「先生、質問です」


 誰が先生やねん。


「何ですか?」


「このボーア、皮が硬くて剣では斬れませんでした」


「ボーアは斬るのではなく、ブン殴るです。斧でブン殴るのが良いと思います」


「斧ですか。持ってきてないや」


「斧がなけれ岩でも良いのですが」


「先生はどうやって、ボーアを倒したのですか?」


 誰が先生やねん。


「見ての通り。私の張っていたシールドにボーアが激突して倒れたので、ナイフでトドメをさしただけですけど」


「先生は魔術師何ですか?」


 もういいや。


「私は治癒師です。まあ、魔術も魔法の類も使えますが、本職は治癒師です」


「本職の治癒師って初めてみた」そうだね。普通は魔術師が副業で治癒師をしていることが多いものね。本業が治癒師っていう人は少ないかも。私が知っている治癒師は、赤の旅団のミルヒーさんしかいない。


「あのう、ペーターを治してもらえませんか?」


「治すのは良いけど、私は治癒師が本業だからお代が必要だよ」


「良いってリズ、しばらく休めば大丈夫だから」


「よくないよ。この魔石では足りませんか? もし足りなければ、必ず稼いで不足分をお支払いします」と言って魔術師の女の子が小さな魔石を差し出した。


「この大きさの魔石を後二つね。街に小料理屋が一軒あるの。そこに私は住んでいるの。そこに不足分を届けてくれれば良いよ。私の名前はアズサね」


「アズサさん、必ず届けますから、ペーターをお願いします」


「了解です。ヒール!」


「ペーター、具合はどう?」


「完全に回復した。凄い。アズサさん、凄いです」


「本職だからね」とついドヤ顔をしてしまう私だった。こういうのも黒猫でウザがられたな。追い出された理由が思い浮かんでしまった。「あーあ」

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