023 アズサ、ベイルウオルフと対峙するその4
「タクミたち、遅いね」
「ベイルウオルフを撒けないのかもな」
タクミとレンジャーが戻ってきた。肩で息をしている。
「斥候は、ベイルウオルフに追いかけ回されている」
「尊い犠牲者だ。穏やかな最期であったことを祈っておこう。まあ仕方ないよね」
斥候がこっちに向かって走ってきた「お前らも道連れにしてやる」って叫びながら。後ろにベイルウオルフをくっつけて。マジで迷惑な奴だ。
「アズサ、ベイルウオルフの頭の上にデカいサンダーボルトを落としてやれ」
「おいちゃん、そんなことをしたらこの崖も森もなくなるかもよ」
「仕方ない。このままではここで全滅だ。俺がアリスとヒロシを守ってみせる。安心しろ」
「あのう、僕はどうなるのでしょうか?」
「俺についてこい」
「ありがとうございます」
おいちゃんは戦士を守るとは一言も言ってはいない。口に出しては言わないけれど。
「待ち合わせ場所は最初に会った場所だ」
「ヒロシ、アリス、俺と手を繋げて、目を瞑れ」というとおいちゃんは二人を連れて崖から飛び降りた。戦士の気配がなくなった。ついて行ったのだろうか?
「アイツらバカか崖から飛び降りたぞ!」
「ここにいると三人とも死んじゃうよ」
「仕方ないだろう。後ろは断崖絶壁、前にはベイルウオルフ、逃げ場がないんだから」
「覚悟ができているなら、それで良いや」
「サンダーボルト」と私が詠唱するとあたり一面に土埃が舞い上がった。ベイルウオルフは土砂の下敷きなったみたい。ああ、崖が落雷でなくなってしまった。「森を一望できる絶好のスポットだったのに……」
私はおいちゃんたちが待つ集合場所に向かった。
「タクミたちはどうした。殺ったのか?」
「殺れなかった。シールドを張ってやった」
「育ての親がお人好しのおジンだから、お前にリベンジは無理だったか」
「そうかなあ、生きてはいるけど、けっこう痛い目にはあわせたとは思うよ」
「満足したか?」
「それなりにかな」
「それじゃあ、お前たちは四十階層に行け、タクミたちは俺が責任を持って掘り出してやる」
「あのう、僕も行くんですよね」
「ぎゃあー、もう、突然話さないでよ」
「僕、アズサさんの隣にずっといたのですけど」
「ごめん、いつものことだけで、影が薄すぎて、影の薄い戦士さんを感知できないの」
「影の薄い戦士なんて、酷い」また戦士さんの居場所がわからなくなった。
「影の薄い戦士さんはアリスちゃんの後ろヒロシの前に、できるだけいてください」
「皆んな、出発します」
三十一階層からは私にとっても未知の領域、どんな魔物、下手をしたら魔人がいるかもしれない。気を引き締めていかないと。
「ヒロシ君、ありがとう。やっとアズサさんの弟子になれたわ」
「アリス、アズサさんは冒険者の常識が大きく欠落しているから、アズサさんのいうことを鵜呑みにするのは危険だと最初に言っておくから、覚えておいて」
「そういう、ぶっ飛んだところもアズサさんの魅力だと思わない」
「アリスがそう思うなら、それで良いけど」
「ヒロシ、けっこう酷いことを言ってくれじゃない。今日の夕食は一人で食べてね」
「アズサさん、どこへ行くのでしょう?」
「四十階層にいるゴブリン王に会って、妖魔をどうやって打ち払っているのか、尋ねるつもり、それがわかれば、五十階層に行ってみます」
「皆んなは四十階層で、私が戻ってくるのを待っていて」
「待ちません。アズサさんと一緒に行きます」
「アリス、やめておけ。五十階層は人外の領域だ。生きては出られない」
「たとえ、命を失ってもアズサさんと一緒なら本望です」
アリスちゃん、重い、重すぎる。
「ねえ、ヒロシ、私の街の噂って聞いたことはあるの? 私は部屋とダンジョンの往復だけだったから、噂話に縁がなくて」と言ったのが悪かった。ヒロシではなく、アリスちゃんがこれでもかと盛った話を熱く語り出した。アリスちゃん、マジで疲れる子だよ。
私の噂その一、類稀なるヒールの魔術で一瞬で治療できる。死者すら蘇る。噂その2、私が張ったシールドに触れただけで、魔物を倒す無敵シールドを有している。噂その3、治癒師なのに盾役。私の副業は魔剣士らしい。おジンと混ざっていると思う。
私は一言「あり得ない」
アリスちゃんはまだ、楽しそうに語っている。それにしても、盾役の影の薄い戦士はどこにいるのだろう?




