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020 アズサ、ベイルウオルフと対峙するその1

 通行許可証は便利だ。身分証にもなる。お金の方は、私が治癒師だと知れると、病気で困っているゴブリンがやってくる。商売は大繁盛だったりする。人間の世界より、ゴブリンが統治するダンジョンの世界の方が安全で安心ってどうかと思ってしまうけど。


 目的地の三十階層まで潜った。お荷物がいたせいで、二週間では着かないかもって思っていたけれど、二十一階層からあっさりここまでこれたので、予定通りに到着できた。


 三十階層は黒猫にいた時、何度か潜った。そのたびに、魔物に取り囲まれたりして大苦戦をしたっけ。いつも黒猫が野営した場所に行ってみた。


 ここって一方は断崖絶壁で逃げ場はない。マア、私は崖を飛び降りても問題ないしさ。後ろが断崖絶壁だから、後ろから襲われることもない。もっともここには飛べる魔物がいるから絶対ではないけど。


 見晴らしが良いんだ。ここはね。気持ちが良い。ダンジョンの森を一望できる場所ってあるようでないんだ。


 私は地面に寝転がった。うーーん気持ち良い。あれ、足跡。割と最近の足跡だな。人数は七人か、一人は女性みたい。足の大きさが他のに比べて小さいから。


 二十階層はワイバーンの巣になっていた。二十一階層はゴブリンの軍団がいたのに、わざわざ潜る酔狂な小規模パーティがいるとはね。私には関係ないけど。



 崖の上から森を眺めていたら、戦闘が始まった。対人戦みたいだ。一人対六人? 六人が押されまくっている。一人の人間? あれはバーサーカ(狂戦士)と同等の力を持つというベイルウオルフかな。そのベイルウオルフ相手に瞬殺されないってことは、なかなかの実力派パーティだね。ということはランカーだろうか? はて、白猫は二十階層で見かけたけど、それに準じるパーティといえば、まさか!


 私は崖を飛び降りて、戦闘をしている場所に行ってみた。やっぱりだ。


「タクミ、大変そうね」


「アズサ? 何でお前がここにいる。まあちょうど良い。手伝え」


「タクミの頭の中身はおが屑が詰まっているのかなぁ」


「私があんたを手伝うなんてご冗談はヨシコさんだ」


 「ウギャ」、オヤジギャグをかましてしまった。反省、反省。


「アズサさん、お久しぶりです」


「アズサ、元気そうで何よりだ」


「ヒロシ、おいちゃんも元気そうでって言いたいけど、けっこうぼろぼろだね。ヒール」


「どう、元気になった?」


「相変わらず、アズサさんのヒールは半端ない効果ですね」


「リーダー、ちょっとは後悔しましたか?」


「ウルサイ、ヒロシ、この後必ず絞めてやるからなあ」


「この後があるなら、俺、幾らでも絞められますよ」


「アズサ、タクミに代わって頼む。サポートしてくれ」


「おいちゃん、了解です」


 おいちゃんはおジンの親友。タクミは見捨てもおいちゃんは助ける。


「おいちゃん、ベイルウオルフに勝とうなんて思ってないよね」


「もちろん、そんな大それたことを考えていたらこの歳まで生きてはいないよ」


 ベイルウオルフの狂戦士状態には時間制限があったはず、問題はそれが何時間なのかがわからないこと。


「おいちゃん、土壁を出すから、後ろに下がって」


「頼む」


「ウオール、オクタ」八層の土壁がベイルウオルフの前に出現した。


「ハード、ソリッド」土壁を鋼鉄並みの強度に変える。


「アズサさん、リーダーがいないんだけど」


「ごめん、タクミの位置を確認してなかったわ」


「リーダーもさ、悪意があって、アズサさんを追い出したわけだけど、一応理由があるわけで」


「ふーーん、ヒロシ、その理由とやらを話してみてくれるかな」


「毎月、パーティリーダーの集まりがあるのは、アズサさんも知っているよね」


「そうなんだ。知らなかったよ」


「マジか?」


「マジです」ダンジョンの中の知識しか私にはない。冒険者としての一般常識もかなり危うい。外の世界のことはほとんど知らない私だった。やっぱりちゃんと勉強した方が良いよね。


「リーダー会議でさ、黒猫はアズサさんのお陰でランキング入りして、トップテン目前で楽で良いねって毎回言われて、リーダー、けっこう神経を削られててさ、アズサさんがいなくても、やれるってとこを見せてやる「宣言」をして、こうなったんだ」


「アリスだって、せっかく黒猫に入ってさ、アズサさんのお弟子になれなかったことで、一番へこんでたんだよ」


「私の弟子ってご冗談は本当にヨシコさんだ」しまった。また言ってしまった。


「あんたたち、アリスって子が美少女だから、加入させたって聞いているわ。アン!」


「それは否定しない。否定できない」


「おいコラ、ヒロシ、そこは嘘でも否定しろよ」ヒロシが楽しそうに笑った。

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