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018 アズサ、ゴブリン軍団を蹂躙するその2

 先遣隊は二十階層への撤退を開始した。私は二十一階層と二十階層を繋ぐ洞窟の前で待機している。もしゴブリンの部隊がきたら、追い払うのが役目だ。こなければそのまま私も撤退できる……。


 残念ながら、そうは行かなかった。五百匹程度のゴブリンの部隊がこちらに向かって、少しの乱れもない隊列を組んでやってきた。


「やり過ぎない、やり過ぎない、やり過ぎない」と私は呪文を唱えるように何度も繰り返した。


 大丈夫だ、ゴブリンを追い払うだけ。マキシマイズさえ使わなければ、大丈夫。サンダーボルト、数発で十分。よし、いける。大丈夫だ。


「サンダーボルト」と私は詠唱をした。あれ、なぜか落雷が止まらない。もうゴブリンの部隊は消えたのに。あれ、何で二十一階層の洞窟の入口が崩れているのだろう。どうしよう、私、ダンジョンを壊してしまったよ。これはダメだ。怒られる。しばらく、私はその場に頭を抱えてうずくまってしまった。


「やっちゃった」そうだよ。やっちゃったものは仕方ないでしょう! 後悔してももう遅いわけで。そうだよ、私は元々三十階層まで潜る予定だったのだから。三十階層まで行って、戻って、その情報をお土産にしたら、減刑してもらえるはず。減刑してくれるかも。してくれたら嬉しいな……。


 私はゴブリンの部隊がいたところまで行ってみた。そこにはただ大きな穴があいているだけで、何もなかった。


 私は丸三日かけて、二十一階層から二十二階層を繋ぐ洞窟に向けて歩いた。三日目からは道が整備されていてとっても歩きやすい。身なりの良いゴブリンと行き違う時には必ず「ご機嫌よう」と声をかけてくれる。人間よりも礼儀正しい。どうなっているの? ここはダンジョンの中なのに。


 私は当惑しながら、ゴブリンの街に入った。見慣れた身長が百センチメートルのゴブリン。でも身なりは人間の平民と同じ服装のゴブリン。見慣れないゴブリン、明らかに貴族の装いで身長が百八十センチメートルのゴブリンもいる。


 道の両側には露天が出ていてとっても賑やかだ。「ここってダンジョンだよね。私は夢でも見ているのかしら」とぼんやり歩いていたら、ドンと誰かにぶつかった。「ごめんなさい」と私は謝った。


「背の高いゴブリンだ」


「お嬢さん、私は別に背の低いゴブリンたちを差別するつもりはないのですが、私は背の高いゴブリンではなく、ホブゴブリンという、知性的な民だったりします」


「ぼんやりしてて、ごめんなさい、ホブゴブリンさん」


「私が属する民族名は、ホブゴブリンであって、私の名前はフランソワ・ドゥー・ナパールです。もう一度言い直してください」


「申し訳ありません。ぼんやりしてて、謝罪します。フランソワ・ドゥー・ナパール様」


「許します」


「ところで、私は名前を名乗ったのですが」


 礼儀作法の練習をさせられるのかな。


「失礼いたしました。私は治癒師をしている平民のアズサと申します」


「平民ならその程度の挨拶が限界でしょうね」


「黒髪、茶色の瞳ですか。この絵姿はあなたですか?」


「よく似ていると思います」


「そうですか? 砦のあるじがあなたに会いたいそうです。任意同行を求めます」


「どうして私に会いたいのでしょうか?」


「それはご自分の胸に手を当ててよく考えてください」


「あのう、私を拘束とかしないのですか?」


「あなた、聞いてなかったのですか? 私は任意同行を求めたのですよ。どうして拘束をしないといけないのか理解できません。あなたの頭の中身はおが屑ですか」


「フランソワ様の後をついて行けばよろしいのでしょうか?」


「そうしてください」


 私はフランソワの後について砦の中に入った。豪華な調度品が置いてあったので、つい触ってしまった。


「物に触らないで、指の跡がつきます。どうしても触りたいのなら、白手袋を差し上げるので、それを手にはめて、そっと触れてください」と言って絹の白手袋を私に渡した。金貨三枚はする。私は受け取るとすぐに腰の袋に入れた。


 フランソワさんは、大きなため息をついていた。何だろうこの敗北感は。私って情け無いことをしたみたい。だってウチは本当に貧乏だったから。お金になる物はすぐに仕舞い込んでしまうのが、習い性になっている。


 全部、貧乏が悪いのだ。悔しくて涙が出てしまった。フランソワさんがこれまた絹のハンカチで私の涙を拭ってくれた時は、恥ずかしくて、顔が真っ赤になっている。本当に自分が情け無い。

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