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017 アズサ、ゴブリン軍団を蹂躙するその1

 先遣隊は、罠をワザと作動させて無力化する危険な作業を続けている。幸い、即死者が出ていないため、私の治癒魔術で治療ができる。


「なあ、アズサ。黒猫やめて今はフリー何だろう。俺たちのパーティにこないか?」


「ズルいぞ。抜け駆けするなんて、アズサ、うちのパーティにきてよ。いや、きてください。お願いします。月、金貨十枚は出す」


「お前、アズサが金で動くと思っているのか? あん、ジジイパーティが。ウチはアズサと同じ年齢の奴が多い、アットホームなパーティで、終身雇用を保証する」


 患者の皆さんが私の争奪戦を始めた。「街に皆んなが、戻ったら話を聞きますから、ちゃんと養生してくださいね」


「俺は、アズサを絶対、後悔させないから」


「お前、どさくさに紛れて、アズサにプロポーズかよ」


「そういう意味ではないというか……」




 クラインさんに、斥候せっこうから、報告が入った。二十一階層にいるはずのないゴブリンが、高価な装備を着けて、しかも、上官とおぼしきゴブリンの命令に従って整然と行軍している。間違いなく正規の軍事教育を受けたゴブリンの軍隊が二十一階層にいると言う内容だった。その数については不明。しかし数千匹。あるいはそれ以上。その数以下はないという内容の報告だった。


 その報告を受けて「雷鳴のアズサ」が前に出ない限りおそらく、今回の遠征は失敗に終わるだろうという内容の報告書を、クラインさんは遠征部隊総責任者、アカツキさんに送った。


 その後も、ゴブリン軍団の全容を明らかにするため、情報収集に先遣隊は努めた。結果はゴブリン軍団の数はおよそ一万。訓練が行き届いているので、練度は帝国軍と同じレベルかそれ以上。また別にオーガだけの軍も確認された。なお、オーガの軍についての詳細は不明。


「アズサ、俺としては冒険者を軍隊にぶつけるのは愚かなことだと思う。お前の考えが聞きたい」


「斥候の報告にある通りの訓練された軍隊が相手だとして、もしかしたら最初は勝てるかもしれません。しかし、消耗戦に巻き込まれて結局、最後は負けると思います」


「しかも、オーガの部隊も控えているとなると必敗だよな。ただ、一月前は、ここにはゴブリンもオーガもいなかった」


 妖魔が、ワイバーンをゴブリンの軍団を、オーガの部隊を用意した。一体なんのためだろう? 重病のエルフと使えない護衛を潰すにしては、過剰な戦力だと思う。


「クラインさんは一月前は何階層まで潜ったのですか?」


「三十六階層がインフェルノだったので、そこで引き返した」


「インフェルノですか? 地獄の業火」


「三十六階層では息ができない。下手に息をすれば肺が燃える。恥ずかしい話、三十六階層に入った瞬間、退却した。エルクシエルを飲んでも、なかなか胸の痛みが消えなかった」


 エルクシエル、推定価格金貨十枚の最高級ポーションだ。ランキング上位で大規模パーティでなければ手に入れられない。金貨十枚というのも、もし市販されていたらそれくらい出せば買えると推定された値段。どこかで作っている謎の薬師と、コネがなければ手に入れられない。幻のポーションだ。一度見てみたい。できればその素材を研究してみたい。


 クラインさんが笑った。これは餌だ。赤の旅団に入ればエルクシエルが手に入る。治癒師を釣る餌だ。さすがは、ランカー、急所を押さえてそれとなく攻めてくる。心が揺れる。


「クラインさん、インフェルノ対策は当然してますよね」


「ミルヒーの加護をもらえば、三十六階層は通過できると、アカツキが判断した。遠征部隊の人数もミルヒーの加護が及ぶ人数ってことで五千人にした」


「それがだ。二十階層でワイバーンの群れ、二十一階層でゴブリンの軍団って、俺は夢でも、悪夢でも見ているようだ」


「先遣隊はここで二十階層に引き返すつもりだ。アズサには悪いが殿しんがりをお願いする」


「これはアカツキから預かった命令書だ。アズサに渡しておく」


 私は命令書を受け取って中を見た。「ダンジョンを破壊しないこと、それ以外のことはすべて黙認する」と書かれてあった。かなり大雑把だし、本当に大丈夫なのか心配だ。


 黙認ってそれって単に文句は言わないってことではないか。何かあった時のために、この命令書を大切に保管しておこう。


 

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