014 アズサ、謎を解く
四日後、ボワンナーレさんの体調が完全に回復したので、十八階層を出発した。遠征部隊は十九階層では野営もせずに通過していたので、帝国の皆さんを遠征部隊に合流させるのは、二十階層後半になると思ったのだが、二十階層で遠征部隊が足止めをされていたので、あっさり合流できてしまった。幸運というべきかなんというべきか。
お荷物たちを遠征部隊に押しつけた。ボワンナーレさんがごちゃごちゃ言ってたけど、スルーした。私は、不足気味の装備を調達するため、知り合いの冒険者を探して、ウロウロしている。
あれはパーティ白猫の人たち。私のことなんて知らないだろうから、声は掛けない。ていうか、畏れ多くて掛けられない。
いつの間に二十階層はワイバーンの巣になったのか。これは明らかにダメだろう。朝、昼、夕、ワイバーンが寝る前に、ワイバーンたちが冒険者を襲って喰うのだから。
遠征部隊は四十階層の階層主を討伐するため、大規模パーティ、赤の旅団を中心に編成された部隊だ。赤の旅団には、聖女様になるはずだった治癒師のミルヒーさんがいるので、滅多なことでは死人はでないはずだった。それがワイバーンのお陰で死者多数。これを最悪と言わずに、どう言えば良いのか!
私が治癒師として目指しているのはミルヒーさんだ。治癒師でミルヒーさんを尊敬しない奴はモグリだと私は思っている。ミルヒーさんは凄いのだ。おジンのケガを一瞬で治したのだ。今の私でもあれほど早く美しく治療することはできない。憧れのミルヒーさん。
「あら、アズサ、お久しぶりね。黒猫をやめたのですってね」
「ミルヒーさん、お久しぶりです。やめたのではなく、クビです」
「あら、あら、タクミ君はお馬鹿さんですね。こんな優秀な治癒師をクビにするなんて、ねえ、アカツキ、アズサをウチで雇わない。とくに今は本当に雇ってほしいの。私、一人では絶対無理だから。あらあら、私ったらいけないわね。アズサはアカツキと会うのは初めてだったのかしら、こちらは赤の旅団の総責任者のアカツキ」
「私は赤の旅団で責任者をしている、アカツキだよろしく」
「治癒師のアズサです。初めまして、こちらこそよろしくお願いします」
尊敬しているミルヒーさんから、直接、ご自分が所持するパーティに誘われた。それだけでも、大感激だ。なのにそれなのに、私はここから引き返す。ここから先は、どう考えても、どんどん状況が悪化するだけ。命あっての物種。逃げることは冒険者にとって恥ではない。生き残ることこそ正義。それがおジンの教えだ。
とくにお荷物連中が妖魔を引きつけるから、ここにいれば私はダンジョンから二度と出られない、そんな予感さえする。
「あのう、アカツキさんとミルヒーさん、お二人だけにお話したいことがあるのですけれど」
「あらあら、秘密の話なの。ワクワクするわね」
いや、ワクワクするような話ではないと思う。私がここから引き返すにしても、情報だけは伝えておきたい。
これまでに起きた出来事のあらましを二人に話した。妖魔がワイバーンを使役していたことから、二十階層がワイバーンの巣になっているのは妖魔が関係しているのではと、私の推測も合わせて二人に伝えた。
「アズサは、妖魔が何らかの目的でエルフの一行を狙っていると思っているのだな」
「その通りです。アカツキさん」
「エルフの一行を餌にすれば妖魔が釣れるのか。悪くない」アカツキさん、かなり危ない顔になっていますよ。
「ねえ、アズサ。エルフさんたちって、どうして森の中にいたのかしら。エルフさんたちの地図には十四階層に行くには街を通過するって書いてあったのよね」
「そうですね。なぜでしょう? エルフ一行はいつも急いでいました。遊びで、森に入って狩りとかを、するはずはないと思います」
そうだ。ボワンナーレさんの病気はかなり重い。一刻の猶予もないのに、なぜ森にいたのか?
「ダンジョンは数百年に一回、ダンジョン内の地形が変わるのを、アズサ、お前は知っているか?」
「いえ、アカツキさんから言われて初めて知りました」そうか、若様が持っている地図は数百年前の地図なんだ。大昔はあの道の先に十四階層に続く通路があった。じゃあなぜ、エルフ一行は森にいたのか? 答えは街の人間に聞いたから。
街の人間が若様の姿を見て襲わないってことは、あり得ない。必ず襲う。で、エルフ一行は襲われたらどうする。襲った連中を駆除する。駆除してから地図の通り進む。で、通路が見つけられなかったエルフ一行は、街の人間を尋問し、森の洞窟に向かったところで、ワイバーンに襲われた。
宿屋の話は、荷物を宿屋に置いていきたので自分たちは文無しだと、私に思い込ませるための小芝居。魔術師が余計なことを言ってぶち壊しだけど。
十四階層には村なんかない。あるのは冒険者の野営地だけ。でも大昔には村があったんだ。私の心に引っかかっていたことの大半の謎は解けたと思う。
後はボワンナーレさんと妖魔の関係だけが不明だ。
「アズサ、何か良いことがあったの。嬉しそうよ」
「はい、辻褄が合わなかったのが、今おおよそ合いました」




