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013 アズサ、物想いに耽る

 ダンジョンで死んだら、私もあの冒険者たちみたいになるのかなあ? トラバーユした方が良いのかもしれないな。私なら街で民間薬が作れるし。売るには薬師ギルドに入らないといけないけれど、薬師ギルドって入会要件に、学歴要件があって、私みたいに一度も学校に行っていない者は、書類審査で落ちるんだよね。


 学校に行っておくんだったよ。おジンが行かせてやるって言ってたのに、私ったら、「ウチは貧乏なんだからそんな余裕はないよ」って言ってしまった。私って本当に馬鹿だった。


「アズサさん、ワイバーンの飼い主はあのあやかしだと思いますか?」


「妖が冒険者の亡骸なきがらに入って、ワイバーンを使役していたとしたら、辻褄は合います。冒険者の亡骸から、抜け出せば、私には追えません。隣にいたとしても、気がつかないと思います」


「ワイバーンがいたために、森中の精霊が興奮していましたから、精霊の声が聞こえても妖の居場所が掴めない」


「そうですね」


「私たちの相手は妖魔の一族かもしれません」


「頑張って五十階層まで潜ってください。お祈り申し上げます」


「アズサさんは冷たいのですね。乗りかかった船ではありませんか」とボワンナーレさんが爽やかに笑う。


 冗談はやめてほしい。妖魔の一族って、元々神霊だったものが魔よりになった一族、不死の存在。そんなのとやり合って勝てるわけがないじゃないか!


 今回はボワンナーレさんが見張っていたこと、私がアンデット用の結界を張ったせいで、ミドレイさんに取り憑いていた妖が出られなくて、運良く捕まえられただけ。そう、捕まえただけ。退治はできなかった。


 この面倒な連中を早く、十八階層の遠征部隊に押しつけないと、私、二度とダンジョンから出られない。潜る期間は一月にしていたけど、十八階層で、この連中を遠征部隊に押し付けたら、街に戻る方が安全だと思う。安全マージンは大切だもの。危ないと感じたら逃げる。冒険者にとって逃げることは恥ではないから。生き残ることこそが正義なんだから。


 おジンも言ってた。


 妖を瓢箪に封印してから、夜襲はなくなった。でも、私は夜はテントの中に入って棺おけで寝ている。ボワンナーレさんを含めて帝国の皆さんをまったく信用ができないから。いつもの三倍は深い穴で寝ていたので、起床後、よじ登るのが大変だった。


 十六、十七階層は、ワイバーンもスケルトンもレイスも死霊も現れず、とくに問題なく通過できた。追い剥ぎ強盗が出たくらいだ。追い剥ぎ強盗にしても、ミドレイのファイアボルトで一瞬で消えたので、トラブルがあったとも言えない。追い剥ぎ強盗の荷物も一瞬でなくなった時は、思わず声がでた。「なんてことをするんだ。もったいない」って。


 十八階層に到着した。残念なことに、入れ違いで遠征部隊が出発していて合流はできなかった。すぐに追いかけたいところだったけれども、ボワンナーレさんが体調を崩して、動けなくなってしまう。


 若様、戦士の視線が痛いけれど、これ以上のツケは勘弁してほしい。若様が万一ダンジョンから出られて帝都に戻れたら、支払ってはくれるだろうけど、妖魔との一戦が避けられないとしたら、ツケの回収は不可能だと思う。相手は不死の存在。どうやって戦えば良いのか、想像ができない。


 戦士が珍しく私のところにやってきて、「エルフ様を治療しろ」と言ってきた。「どこの馬の骨かもわからない者に、大切な方の治療をさせるのは、どうかと思います」と言って追い返したけれど。


「お前は金さえ払えば治療するのだな」


「治癒師ですから」


「これは母上の形見のペンダントだ。これでエルフ様を治療してくれ」


「良いんですか? そんな大切な物を、私に渡してしまって」


「構わない。早くエルフ様を治療してくれ」


 私はボワンナーレさんのテントに戦士と一緒に入った。ボワンナーレさんの顔色が土気色になっていた。重病と言って良いと思う。ボワンナーレさんの腕を取って魔力の流れ、血液の流れを感じた。どちらもいつ止まってもおかしくない。これって寿命では。エルフの寿命は限りがないという。だとしたら、何かの呪いだろうか? いずれにしても、人間にどうこうできるレベルの病ではないと思う。


「極めて重症ですので、治癒魔術をかけても一時的な回復しか望めないと思います」


「知っている。だから五十階層にある生命の水を汲みに来たのだ」


 それって伝説だと思う。五十階層まで潜った者はいないはず。


「ご存知であれば、結構です。一時凌ぎですが、マキシマイズヒール」


 魔力の流れが正常になった。血液の流れも正常。呼吸も正常。私ができるのはここまでだ。


 戦士を残して私は、ボワンナーレさんのテントを出た。


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