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剣の舞 -2-

「……様!勇者様ぁぁぁぁぁああああ!!!目を覚ましてくださいぃぃぃぃぃいい!」

 キンキンと頭に響く声で意識が暗闇から顔を出した。

 尾を引く頭痛を振り切るように開いた目にはぼやけた視界。太陽を背にして私に覆いかぶさるのは少女のシルエット。

「あ、ああ!勇者様!勇者様!みなさん!勇者様が目を覚ましました!」

 勇者様?

「レイリ!イツキの具合はどうだ!?無理そうならカルネと代わってこっちを頼む!」

「勇者様!大丈夫ですか!?どこか痛いところは……」

 だんだんとはっきりしてくる視界。心配そうに顔を覗き込んでくるのは見知らぬ少女。周囲を見回すと、岩肌の多い高原のような場所。

「ここは……」

 言いかけて、地響きと少女がそれを遮る。

「オゼンさん!」

「まだいける!カルネぇ!足を狙え!」

「言われなくてもッ!!」

 さらに見知らぬ二人の掛け合いが聞こえるほうに視線を動かす。と。

「…………き」

「き?」

 巨大な影が太陽光を遮った。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「ああ!!勇者様が急に乙女で素っ頓狂な叫び声を!!」

「なに暢気に解説してんだッ!!」

「あ、やば!」

「ちょ、お前も何してんだカルネ!?」

「だってアイツが変な声出すからぁ!!ってぁああっ!?」

「カルネぇ!!」

 攻撃に失敗したカルネと呼ばれた少女が、巨大な猿の腕で薙がれ吹き飛ばされる。

「だーっクソ!レイリ!イツキは後にしてカルネの傷を見てやれ!」

「はい!」

 これは……

「(もしかして、千の勇者計画(サウザンドブレイブス)の志願者たち!?)」

「カルネちゃん!しっかりして!」

 駆け寄ったレイリが手に持った杖を地面に突き刺し、詠唱を始める。

「『大地の――』」

 その瞬間、彼女を中心に緑色の光が地面から吹き出して宙にとどまったかと思うと、カルネへと一気に吸い込まれていく。

「……ごっ、がふっ!あー気絶ぅ……」

「だらけてねぇでさっさと起きろ!」

「オゼンってボクにだけ辛辣過ぎない!?」

「イツキも大丈夫なら早く手を貸せ!予備魔力もそろそろ切れるぞ!」

 イツキ……?

「勇者様?」

 はっとして、自分の手を見る。そこには見慣れた華奢な指先ではなく、ちょっとだけ力強い、少年のような生傷だらけのてのひらがあった。

「え、どういう……」

「うおおおおおおお!!!」

 オゼンが雄叫びを上げて身の丈ほどの巨大な盾を振り回す。それは巨大な猿が放った拳を弾き返し、少しだけ体勢を崩させた。

「飛び込めカルネ!」

「ほいきた!我が斧、今こそ天地を結び割れ!『キャニオンアークス!』」

 いつの間にか飛び込んでいたカルネがこれまた身の丈ほどの巨大な斧を振り上げ、巨猿の足元にたたきつける。

 荷崩れした大量の金属パイプが落下した時のような音と激しい土煙に包まれると、巨猿の呻くような声がそこから漏れてくる。

「やったか!?」

「ごめん、直撃はしなかった!けど!」

 山風に吹かれて晴れた土煙の向こうには、カルネの一撃で割れた地面に片足を挟まれ動けなくなった巨猿の姿があった。

 勝利は目前。あとは動けなくなった巨猿を仕留めるだけ。

 なのだが……。

「勇者様!」

「イツキ!」

「いけるよ!」

 ここであろうことか、三人が一斉に自分を振り返り、期待の眼差しを向けた。

『今だ(です)!!!!』

「え、え、……」

 意味が分からず固まって逡巡。

「えええ!?」

 合点がいった瞬間に体が反応して、傍らに転がっている不格好な剣を拾い立ち上がった。

 所作を覚えているのは体なんだな、となぜか納得してしまう。

 明らかに自分のものではない体が、男らしい剣の構えを取って腰を深く落とす。

 突け。

 体からそんな命令、というよりはアドバイスに近い声が聞こえた気がした。

「(この距離で?)」

 疑いをよそに、手慣れた動きで剣に魔力が集まる。

 模擬の剣術ではない。

 この体に刻まれた。

 ──必殺の、剣。

「っ、貫けぇぇぇぇぇぇ!!!」

 体の赴くままに突き出された剣から、眩い光の奔流が稲妻を伴った槍となって迸る。

 足を取られた巨猿は回避の手段もなく、両腕を重ねて防御するのが一瞬見えたものの、直後の大爆発による煙に包まれその姿が見えなくなった。

「どうだ!さすがにやったろ!?」

「イツキのあれが直撃して生きてるやつ見たことないよ!」

 オゼンがカルネを背負ってこちらに駆け寄ってくる。

「捻ったか?」

「うーんちょっと痛いかなぁ」

「包帯巻いてやるからじっとしてろ」

「はーい」

 勝利を確信したように、舞い上がる煙を背にカルネを下ろし、足首の様子を見ていた。

 確かにそうかもしれない、と思った。

 あれを直撃したならば、この大陸に生息する魔物ぐらいは跡形もなく消し飛ぶ。

 故に。

 この背中を這いまわるような悪寒は、紛れもなくそれを告げていた。

「避けて!」

 焦燥からひねり出せた言葉はたった三文字。

「は?」

「え?」

「なに?」

 三人が顔を見合わせたころにはもう、いくつもの巨大な岩石が土煙を破り、こちらに雨のように降り注いでいたのだった。

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