未だ混ざらず、交じらず
前話の記憶がない…
ドアを開ければ、そこには妙に真剣な顔をした光が立っている。
「…こんな時間に急にすまんな。」
「俺は大丈夫だが、一体どうしたんだ?」
現在の時刻は7時過ぎで遅いといえば遅いが、許容範囲内であったため特に追求することなく返答する。
「なぁ……お前って幽霊って信じるか?」
「はぁ?」
「いや結構真剣な質問なんだが……実はさっき外で何か得体の知れないものを見たんだよ。」
急におかしなことを言い出す光、しかしその顔は真剣そのもので、まるでその言葉が冗談ではなく本当のことのように思わせる。
「…詳しく話してくれ。」
「…さっきと言っても10分以上前の話なんだが、あぁいや今日の放課後ユーリと毅がバイトへ行った後から話そうか。…いや、やっぱり幽霊を見たところから話そう。」
「…そもそも幽霊ってどういうことだ?」
どうも気が動転している様子の光に、まず『幽霊』とは何なのかについて尋ねる。
「…得体の知れない黒いモヤだよ。本当に『幽霊』かどうかは分からないが、『ソイツ』に近づこうとすると頭にモヤがかかったようになって『ソイツ』を認識出来ないようになった。そこに何かあるのは分かってるのに認識できない、手を触れようとしても無意識に体が遠ざかる。周りの奴は目をくれようともしてなかった。……そして俺は怖くなって逃げたんだ。」
「…それは自分の幻覚だったとかの線はないのか?」
「正直否定は出来ない…でもちょっと誰かに相談したくてな…。」
「…ふむ、ちなみに場所はどこだ?」
「…学園近くのコンビニ前。」
「めちゃめちゃ近くじゃねえか!」
想像以上の近さに思わず声をあげる。
ーーしかし学園前のコンビニなら今から行ける距離か。とりあえず行ってみるか?
「往復でも時間があまりかからないし、確認しに行こうか。」
「ちょちょちょっと待ってくれ!まさか今からか?よしんば見たら呪われるとかだったらどうするんだよ!」
確かに光の言葉にも一理ある。得体の知れないものに安易に近づこうとするべきではないのかもしれない。
「わかった、こうしよう。明日の朝だ。意味が無いかもしれないが明日の朝確認しに行こう。」
そのため今すぐにではなく明日の朝の投稿前に確認することを提案した。
「悪いな…俺のこんな妄言に付き合ってもらって。」
少しきまり悪そうに光が承諾する。
「まぁ日頃から光には世話になってるしな。おたがいサマサマだ。」
光には本当にお世話になっている。まだ1ヶ月しか経っていないが、初日から今までずっと自分の学園生活を支えてくれてくれた。おそらく光がいなければこの『現実』にここまで順応することは出来なかっただろう。
「じゃあ…また明日の朝に。」
そうして話を切り上げたところで光は自分の部屋に戻っていった。
光を見送ったところで、戻ってくるのはいつも通りの日常。
ルーチンワークを済ませればスマホの時計は既に11時を示していた。
ベッドに入り、ふと自分の『記憶』について思いを馳せる。
ーー『幽霊』の幻覚、か。もしもそれが幻覚ではなく本当だったら、俺の『記憶』はもしかしたら……。案外、『現実』は奇妙に満ちているのかもしれない。……いや、まだ考えるべきではないか。少なくとも不安定な今は、錘を乗せ天秤を傾けるには不十分すぎる。
その思考を妨げるように本日2回目のインターホンが鳴るった。
不審に思いスマホを見るも誰からの連絡もない。
ふと非現実的なことが頭をよぎった。
ー
「いやー度々すまんな。」
やはりと言うべきかインターホンを鳴らしたのは光だった。どうも『幽霊』を見た恐怖で寝付けないらしく、今日だけ同じ部屋で寝かせてくれと頼み込んできたのだった。
「はぁ……小さい子供とかならばまだしも野郎が1人で寝るのが怖いと言って来るとはな…。」
「いやマジで怖いんだって!俺だって好き好んで男と寝たかねぇよ!できれば可愛い女の子がよかった!」
夜に大きな声を出すのははばかられたのか、声を殺しながら叫ぶという行為をやってのける光。
「それは俺のセリフだよ…。まぁいい、明日早いからそろそろ電気消すぞ。」
「…俺は床で寝るわ。」
そうして床で横になった光に、学園支給の布団を1枚放り投げる。
「俺はお前が友達で良かったよ…。」
そう率直にいう光に少し気恥ずかしくなった。
「……おやすみ。」
そう言って目を閉じれば途端に意識が遠のいていく。
「おやすみ、ユーリ。」
その言葉を最後に自分の意識は途切れた。
ノンホモジナイズド・ホモジャナイ(悪ふざけ)