触らぬ神になんとやら
展開の端折り方がわかんねぇ
ー1限目の授業が始まった。
何の変哲もない普通の授業、学園の不自然さなど無かったかのような平凡な授業に安心する。そして同時に自身の心に退屈が襲いかかってくる。
ーー前の人が気になる。
ほとんどが中等校の頃の復習であり、板書もないような授業の中で懸命に何かを書いている女子。そんな普段では気に留めない行動も退屈の中では好奇心の餌となるばかり。
そのときーー自分の念が届いたのだろうか、前の机からヒラリと一枚のプリントが舞い落ちた。
前の女子がそれに気づく様子はなく、好奇心のままにその紙を拾う。
ーー紙に書かれていたのはイラストだった、それもかなり上手い。……で終ればよかったが。
紙を拾ったことを後悔した。誰だって自作の百合イラストなんて人に見られたくないだろう。
どう考えても気まずい展開になるのは間違いない。しかし返さないわけにもいかない。
「あのー…すいません」
意を決して声を掛けた。
しかしその声は届かなかったようで、その背中はピクリとも反応しない。
その後何度か声を掛けたが返答は無く、最終手段として彼女の肩をつつく。
「ぴゃっ!?」
クラスメイトが一斉にこちらへ向いたが、すぐに興味を無くしたようで大半は黒板へと向き直り授業を聞き始める。
図らずも彼女を目立たせてしまったことに罪悪感を感じながら、要件を口にする。
「…急にごめん、プリント落としてたよ」
「あぁ、ありがとう。……っ!え、えーと…中身…見た?」
ーー誤魔化すべきか否か。
「み、見てないよ?」
もちろん即行で誤魔化した。しかしこの男、あがり症である。つまりはーー
「……後で少し話しましょう。」
抵抗むなしく、声を上擦らせたことによって姑息なハッタリは一瞬で暴かれてしまったのであった。
ーーさっきの目、絶対人を何人か殺してる目付きだったじゃねぇか。…さすがにないよな?
彼女の底冷えするような視線、それを思い出し身震いする。おそらく彼女にも悪気はないのだろう、ただ他人に黒歴史を見られたという事実がそうさせただけなのだ。
そう思い込むことで、焦る気持ちを多少押さえつける。その瞬間、
《りーんごーんりーんごーん》
「…えー、今日の授業はここまでとする。来週はこの続きから行う。宿題はウェブサイト上にアップするため、各自目を通しておくように。」
先生が去るのを見届けたところで、前へと声を掛ける。
「あー、あの」
「…少し長くなると思うから放課後でいい?」
「…は、はい。」
途中で挟まれたその言葉には、肯定以外の選択肢は求められていなかった。
ーー自分はこれから何をされるというのか、長くなるとは何なのか。
答えの見つからない問いに頭を悩ませ、その結果当然後の授業が手に付かず、あっという間にHRとなったのだった。
「…起立、気をつけ、礼。」
終礼が終われば、蜘蛛の子を散らすようにクラスメイト達が帰り始める。そしてその中に何人かの男子を引き連れた光がこちらへ来るのを見つける。
「おーいユーリ、一緒に帰ろうぜー」
ーーあなたが救世主か。
しかしそれを遮るように声が響く。
「すまないね矢部君、ここの彼とは先約があるんだ。」
「ohマジか。…そっかー先約なら仕方がない。じゃあな!」
ーーああ、神は死んだ。
そして大魔王からは逃げられない。
触らぬ神にsomewhat carried(適当)