決着 on 星の砂
ヤドカリ☆コレクション当日。
潮溜まり協会長のスカシカシパン爺さんが長ったらしい挨拶をして、皆で「浜辺の歌」を歌って、開会式が終わった。
ヤド☆コレ会場は第一潮溜まり中央に設置してある。
今日ばかりは捕食する側・される側の関係もリセットされて、磯に住む生き物が総出となってこの潮溜まりに集まってる。
ヤドカリはもちろんカニ、ナマコ、ヒトデ、貝類、エビ、ウニ、魚類がワンサカワンサカイェーイイェーイしてるわ!
中央には星の砂でランウェイが敷かれ、カラフルな海藻が万国旗さながらに海面を彩っててとっても綺麗よ。
屋台もたくさん出てて、ヤドカリの幼生達が親ヤドカリにプランクトン団子や焼きデトリタスをねだってる。あたしも小さい頃は、ソース海藻を買ってもらってヤマトと半分こして食べたっけ。
あたしも早くあそこを歩きたいって、ワクワクしながらランウェイを見つめたのが昨日の事みたい。
ヤド☆コレ参加者の控え室に向かってたら、早速アカネに見つかっちゃった。
アカネは例の桜色でフリル満載の巻貝を背負ってて、いつもと違う所と言えば第一触覚をビューラーで螺旋状に巻いてマスカラを付けてるのと、歩脚やはさみ脚の先っちょをマニキュアで塗りたくってる事くらいかしら。よっぽど普段の自分に自信があるのね。
アカネはあたしの全身を巻貝の殻頂からはさみ脚の先っぽまでくまなくジロジロ見て、言った。
「あら、ミサキさんじゃない。今日はいつもと違って少しはマトモな格好じゃないの。馬子にも衣装ってヤツね。でも優勝するのは私だから。
アカネが例えてあげる。私が海中に鮮やかに咲き乱れる珊瑚なら、あなたはそうね、そこら辺にぞんざいに転がってるバフンウニ」
彼女はいつもの辛辣な例え話をして、さっさと行っちゃった。それにしてもバフンウニに失礼だわ。
控え室は女同士の戦いの火花がバチバチ飛んでて、潮溜まり全体が熱湯風呂になっちゃう勢いだった。
前座のイソガニ連による阿波踊りが終わって、遂にヤド☆コレが始まったわ!!
次々に着飾ったヤドカリ達がしゃなりしゃなりと、はさみ脚をフリフリ歩いていく。
段々あたしの出番が近づいて来て、緊張でエラがパカパカと高速で開いたり閉じたりしててもう大変!
あ、アカネの番よ。
BGMはピンク・レディーの「渚のシンドバット」。ウォーク中はそれぞれ好きな音楽が選べるの。
アカネはランウェイ横の審査員席に媚を売ってて卑怯よ! 彼女の視線の先には節足動物審査員のエビ、棘皮動物審査員のヒトデ、刺胞動物審査員のクラゲ、環形動物審査員のゴカイ、軟体動物審査員のアメフラシ達がずらりと並んでる。
ランウェイから戻って来たアカネはまだつんとおすまししちゃって腹立つわ。その顔、今に涙とマスカラでぐっちゃんぐっちゃんにしてあげるから!!
とうとうあたしの番だ!
あたしは舞台裏からランウェイに歩脚を踏み出した。エラパカパカが最高潮に達した!!
BGMは榊原郁恵の「夏のお嬢さん」を選んだわ。
ところで、あたしは結局新しい巻貝を見つけられなかったの。探して無ければ作ればいいって事で、苦肉の策として色とりどりのイソギンチャクを巻貝にくっ付けて来た。ケロッグコンボで買収したら、「もう我慢出来ぬぁい!」って言って快く巻貝に移ってくれたわ。
あたしはランウェイの先端までドキドキしながら歩く。まだイソギンチャクは全員小さくしぼんでる。
右の方にヤマトやパパ、ママの姿が見えるわ。
「アイスクリーム!」って大声で応援してくれてる! あたし頑張る!!
あたしはランウェイの先端に到達した。
今よ! 花咲けパッカーン!!
一斉にイソギンチャクが花開いた! 一旦右はさみ脚を巻貝の横に当ててポーズを決める。
それからあたしのはさみ脚のパッチン合図で、イソギンチャクが左にゆらゆら右にゆらゆら揺らめくの!
ハイ右! 左! 右! 左! 右斜め上45度! 反時計回りに一回転! 全身をゆする運動! 体をねじり反らせて斜め下に曲げる運動!
上上下下左右左右BAセレクトスタートッ!!
彼らはPL学園の応援みたいに息ぴったり。ま、毎日ケロッグコンボを餌に猛特訓に励んだんだから、当然よね。
ランウェイから舞台裏へと戻って、あたしの出番は終わった。ふぅ。
後はヤマト達と合流して、屋台を冷やかしながら結果を待つだけね。
あたしはヤシの実ジュースを飲んだりして残りの時間を過ごした。親友のユッコにも会ったけど、「前衛的で、コンテンポラリーダンスみたいだった」って褒めてくれた。やっぱり持つべきものは親友よね!
結局優勝したのは赤黒く変色したキューピー人形の頭部を背負った2丁目のトエ婆さんだった。BGMが世にも奇妙な物語のオープニングで、小さい子達は号泣してたわね。
彼女は「グロテスクな中にも、儚さとエレガンスを備えており、また人間による環境破壊への警鐘も鳴らしていて非常にメッセージ性に富んだウォーキングだった」っていう評価をされてて、あたしは芸術というのは凄く難解なものだと思い知ったわ。
あたしは残念ながら優勝は逃しちゃったけど、審査員特別賞の一つの「刺胞動物特別賞」を頂いた!
アカネはなんの賞ももらえなくて、超悔しがってた。ザマァ見ろ! ちょっと可愛いだけじゃ面白くも何とも無いって事、胸に刻むがいいわ。
これでアカネの鼻を明かすという当初の目的はなんとか達成出来たかな。
賞品は伯方の塩だった。これをプランクトンに振りかけて食すと旨いのなんのって。
アカネは相変わらず意地悪だけど、前みたいにあからさまに悪意を向けてくる事も減った。これであたしの庭、第5潮溜まりには平和が訪れたってわけ。めでたしめでたし。
ちなみにヤマトはウツボ穴で出会ったダイオウグソクムシを何とか探し出して、弟子にしてもらったみたい。
彼は甲殻真拳の使い手で、すでに深海を制してしまってヒマだから浅瀬まで強い相手を求めて遠征に来てたんだって。
ヤマトは甲殻真拳のレッスンを月二回受ける契約を彼と結んで、月謝はメスフナムシのブロマイドらしいわ。意外と女好きなのね、あのオッサン。
ヤマトは師匠のダイオウグソクムシの元、心技体の鍛錬に励んで着々と甲殻真拳を身につけていった。
そして秋に盛大に行われる「潮溜まりスポーツフェスタ」にウツボが大群で襲って来た時、駆けつけて来た師匠と共に八面六臂の大活躍を見せる事になるし、あたしの巻貝に定着したイソギンチャク達がケロッグコンボの効果によって凄まじい勢いでウツボを粉砕する事になるんだけど、それはまた、別のお話。
ありがとうございました。