零 ープロローグー 交通事故
零
「……本当に、本好きなのな」
副部長の聡が話しかけてくる。
「まあね」
聡の目も見ずに、活字を追うのに夢中になっている。
私達は、吹奏楽のコンクールから、バスで帰っている所なのだ。
「バスの中なんだから、酔うなよ」
「酔うなら、そもそも、読みませーん」
なんて、やり取りをしていると「部長ー。副部長と仲がいいですね~」後輩からの冷やかしが来る。後輩は前席から、此方を覗いてきた。
読んでいた本を一旦、閉じる。
「別に。ただの部長、副部長の仲だよ」
そう言ったものの、実は、気になっているのだ。この気持ちを俗に、恋、と言うのだろう。
「そうだ、そうだ。葵のことは、ただの部長としか思ってねぇから」
……気になっている相手にそう言われると、傷付く……。
「そんなこと言ったら、部長が可哀想ですよ~」
何をしたいんだろう。この部員・夏奈は。
「部長のこと、そんな目で見てないんだよな……」
その発言を今すぐ、取り消せ。この馬鹿!
「ふ~ん。つまんないの」
後輩は、此方を覗くのを止めて、前を向いた。
……すっごい、傷付いた……。
この感情を誤魔化すかのように、読みかけの本を開く。
「何の本読んでんの?」
聡が本のカバーを覗いてくる。
「ん? あぁ、『ナルニア国物語』だよ」
恥ずかしくて、目も合わせずに、文字の羅列の内容を理解する。
「ふ~ん。俺も本、読もっかな~」
と言って、椅子の下にあるリュックを取ろうとしている。
すると、「あ、ごめん」聡の手が私の右手首に触れていた。
「べ、別に。だ、大丈夫……」
と言っているが、動揺が隠せていない。
聡の方をチラッと見ると、何事もなかったかのようにライトノベルを読んでいた。
……はあ……。心の中でもため息をつく。それから、視線を本に戻す。
すると、有り得ないことが起こった。
「うわっ!」
全身に衝撃が走ったかと、思うと、次の瞬間には座席から、投げ出されていた。
それからは、なにもわかんない。