森への侵入者
町に行こうなどとあれから思うことはなくなり、大好きな友達達と森を駆け回り、剣の稽古、母からはどこに出しても恥ずかしくないようにと一通りの勉強に作法など(もうどこにも行くつもりはないけど)、毎日はあっという間に過ぎていった。
数年が過ぎ、私も10歳となっていた。森の奥にある家よりも更に奥には小さな湖があり、周りは花が咲き乱れ、湖には太陽の光が射し込むとキラキラと水面が反射して輝き、それは美しい場所で、私のお気に入りの場所だった。私は暇さえあれば、そこで湖に足を浸したり、その側でオーマを背にして本を読んだりお昼寝したりして過ごすことが大好きだった。
いつものように湖の近くで過ごしていると、鳥達の騒ぐ声が聞こえてきた。
「どうしたのかしら?」
『あちらからだな。リリアーヌ、確認してくるからここにいなさい。』
オーマが私にそう言って離れようとしたが、私も一緒に行くと言って、渋るオーマの背に乗った。
鳥達が騒ぎながら飛んできたので、話しかけて何があったのか聞いた。
『人が森に入ってきた!人がいる!人がいる!』
それを聞いて、きゅっと胸が苦しくなった。父と母以外の人は私にとって、怖いものでしかなかったからだ。
『リリアーヌ、森の奥に戻っていなさい。』
オーマが私を気遣うように言う。
「…ううん、怖いけど、人がどこにいるのか確認しておきたい。何をしに来たのかも…」
『…わかった。行こう、リリアーヌ。』
ぎゅっとオーマの背にしがみつくと、オーマは頷いて鳥達の飛んできた方向に走り出した。
人は森の入り口近くまでは入ってきて、木を切ったり、森の恵みである実などは取ったりするが、それ以上は森に入っては来ない。森は森に生きるものの場所だと昔から伝えられ、人は森の恵みを少し分けて貰うだけ、もしもそれを破れば人は森の恵みを分けて貰うことはできないと言われているからだ。
そんな森に人が入ってきているのだから、鳥達が騒いだのだ。その目的の人は森の半ば近くにいた。人の足であれば、2、3時間程の距離だろう。森に足を踏み入れたのは、子供達だった。
少し離れた場所から様子を伺っていると、自分よりも年下と思われる子供達が疲れて座り込んでいる姿が見える。子供の足で初めての森をここまで歩いてくるのは確かに厳しいだろう。そっと気づかれないように、近くまでオーマが近寄る。
「もう疲れたよー。帰ろうよー。」「何言ってるんだよ。大人達に黙ってやっとここまで冒険しにきたんだぞ。」「そうよ、森に住む裏切り者をこらしめてやらなくちゃ!森に住む裏切り者のせいで女王様が死んだって父さんが言ってたもの!」
――お父様のせいで、女王様が死んだ…?